シャーロット・ランプリングは、なぜ世界中の一流女優たちから尊敬されているのか?
世界中の女優が憧れる女優の一人。それがシャーロット・ランプリング(1946-)です。女優にとって、尊敬に値する女優とは、若さあふれる絶世の美女ではなく、衰える容姿をものともせず、年を重ねても尚、カメラの前で魅力的な役柄を演じている女優のことを指します。
シャーロットは、1946年2月5日にイングランド・エセックス州で生まれました。母親は画家で、父親は、NATO軍の将校であり、1936年のベルリンオリンピック4x400mリレー金メダリストでした。そして彼女は少女時代に英仏両国で教育を受けました(9歳から12歳まではフランスの学校に通っていた為、流暢なフランス語を話す)。
成人し、ロンドンで秘書として働いていたときにスカウトされモデルになりました。そして演技の勉強をし、1965年に女優になりました。一時、ジミ・ヘンドリックスとも交友があり、LSDといったドラッグに嵌りかけた時期もありました。
しかし本作により、シャーロットのイメージは、冷ややかな視線と共に、ミステリアス且つ悲劇性に満ちたものとなり、ダーク・ボガードに「ザ・ルック」と呼ばれるようになりました。
ちなみにシャーロットは撮影当時22歳でした。であるにも関わらず11歳の娘を持つ30歳の貴婦人の役柄を見事に演じ上げていました。
更に言うと一番の親友だった3歳年上の姉サラが、1967年に出産後急死した本当の理由が拳銃自殺であることを、この頃知ったことも彼女の女優人生に強い影響を与えました。「浮ついたライフスタイルを続けていくことも、軽薄な映画に出たりすることもできなくなった」
『地獄に堕ちた勇者ども』はとても印象深い作品でした。彼は『ジョージー・ガール』(1966)とフランコ・ネロ主演のイタリア映画『Sequestro di Persona』(1968)を観て私に出演を依頼しようと決めたと教えてくれました。私は彼と最初に会った後、心の中でこう思いました。「これが私の進むべき道だ。私はヴィスコンティが示してくれている道をただ進めばいいのだ」と。
シャーロット・ランプリング
シャーロットの代表作は、間違いなくリリアーナ・カヴァーニの『愛の嵐』(1974)と大島渚の『マックス・モン・アムール』(1986)でしょう。他にその猫のような美しさとファムファタール(魔性の女)的な魅力を思う存分解き放った『さらば愛しき女よ』(1975)でローレン・バコールと比較される存在にもなりました。
80年代から90年代にかけて、正確には35歳の時から、彼女は重度の鬱病に苦しみ、キャリアは低迷していきましたが、フランソワ・オゾンの『まぼろし』(2000)『スイミング・プール』(2003)で見事に復活を遂げました。

魔夜峰央の漫画に出て来そうな女装後のヘルムート・バーガーと、妖精のようなシャーロット・ランプリング。
ルキノ・ヴィスコンティが愛した眼差し

女性に女性らしさを問いかける眼差し。
私は撮影のためにイタリアに行った時、美への感覚と美への愛に圧倒されました。イギリスではそういう感覚はあまりなく、ましてや戦後すぐには感じられませんでした。私はプロテスタントとして育ちました。感情をあまり表に出さず、ただ生きていく。そういう環境で育ちました。そしてこんなにもスリリングな体験をさせてもらえるなんて ― まるで狂おしいほど恋に落ちるような感じです ― 「これを人生の一部にしたい」と思ったのです。
シャーロット・ランプリング
あなたの全てを知っているようなその目がいい。
ルキノ・ヴィスコンティ
映画の背景を支配する重厚感溢れる調度品の数々となぜか美青年ばかりで構成された従者達。その輝きとは対照的に、すさんでいく住人の姿。それはわずか20数分しか登場しないシャーロット・ランプリングが演じるエリーザベトにおいては、特に著しい。
冒頭のイブニングドレス姿の輝くばかりの美しさ。それは華麗さではなく可憐さ。その哀愁を帯びた眼差し。細くて長い肉体のライン。ただ優雅なだけではない、独特な雰囲気。ドレスを着ることがごく自然なその選ばれし存在感。
毎日ドレスを着ている貴婦人を静かに演じる彼女のオーラは、明確に美以上に知性によりもたらされたものでした。
なぜ21世紀に入り、世界中の一流女優たちはシャーロット・ランプリングの名を、尊敬する女優として挙げたくなるのでしょうか?それは彼女の美しさではなく、その気品からなのです。
どうやら、一流の女性にとって最も重要なことは、アンチ・エイジングや蝋人形化する整形に夢中になることよりも、そんなものを超越した堂々とした〝佇まい〟を手にすることなのでしょう。
ハリウッド風ではない、1930年代の退廃的な優雅さを求めて…

「私はオールドファッションな女性です」と告白するシャーロット。

画面の隅々まで、生命力に満ちているヴィスコンティの構図。

シャーロットの身長は170cmです。

ドレスがここまで様になる人もそういない。
私が衣装デザイナーとして初めて一緒に仕事をした監督は、ルキノ・ヴィスコンティでした。当時彼のアシスタントだったフランコ・ゼフィレッリの紹介で知り合ったのですが、1951年に『ベリッシマ』の衣装を担当しました。長年一緒に仕事をしてきましたが、映画の時代背景と衣装の合致、そして正確な再現に対して、彼の要求は常に妥協なきものでした。
ピエロ・トージ
ナチス・ドイツが台頭する時代のドイツの上流階級のファッションを再現するために、ヴィスコンティは、衣装デザイナーのピエロ・トージに、同時代のジーン・ハーロウやマレーネ・ディートリッヒのようなハリウッド女優たちのスターの華やかさではなく、寧ろそれを一切感じさせないで欲しいという、かなり難しい要求を出していました。
そのためハリウッドが映画を通じて広めた華やかさや光沢のあるグラマラスなイメージとは異なる、あの特定の歴史的瞬間におけるドイツの上流階級の世界の洗練され落ち着いたスタイルを、映画の登場人物の外見を通して再発見してゆきました。
フランス人デザイナーであるマドレーヌ・ヴィオネやジャン・パトゥ、エドワード・モリニューによる、1930年代初頭に特徴的な柔らかく滑らかなラインを表現するには、クレープやシルクカディといった柔らかく垂れ下がる素材が必要でした。
しかし60年代後半のファッションは幾何学的で直線的なスタイルを支えるために、硬めの生地が主流でした。そのため、古い倉庫で見つけた毛皮のカバーを使うしかありませんでした。
ピエロ・トージ
エリザベートのファッション1
イブニングドレス×オールパールルック
- ピンクベージュのイブニングドレス、ロングスリーブ、腕と胸元にレース
- 左肩にコサージュ
- ティアドロップのパールイヤリング
- 三連パールブレスレット
- 三連パールネックレス
- 白のヒールサンダル

すべてのアクセサリーはパールです。

笑顔の時に見せる無邪気な少女性のギャップ。仕草が表現になる人。

イブニングドレスがとても似合っています。運動神経がとても良さそうです。

後ろから見たドレスの刺繡がとても美しい。

何よりも凄いのは、ハリウッド的なグラマラスが一切存在しないイブニングドレスでありながら、不滅のオーラを放っているところです。

素敵なパールのイヤリングとネックレス。

隣の男性は、夫役のウンベルト・オルシーニ。

ヘルムート・バーガーのボウタイを直してあげるシャーロット。

シャーロットに演技指導するルキノ・ヴィスコンティ監督。
静をもって動となすヨーロッパの女優。

逃亡する夫が着ているカーキのトレンチコート。襟にファーを使用。
ヴィスコンティからこの作品への出演依頼を受けた時、私はこう言いました。「私は22歳です。この役は私には無理です」。すると彼は「君ならできるはずだ」と言い、私は「どうやって?」と尋ねると、彼は「君の目の奥に見えている。よく聞いてくれ。君をメイクアップして、スタイルを変えて、30代の女性に見せる。美しい衣装、美しい舞台装置、そして美しい人々に囲まれる。君をその場所に送り込み、あとは君はベストを尽くせばいいだけなんだ」。
そして私は出演を決めました。ヘルムート・バーガーに対しては、彼は完全な暴君でした。ヘルムートにやるべきことすべての動きを指示しました。でも私に対してはまるでプリンセスのように扱ってくれました。心から愛され、ドレスアップされ、メイクアップされた状態で「さあ、私のために演技しておくれ」と言うのです。信じられないほど素晴らしい状況に私を連れて行ってくれるんです。女優たちに対してはそんな感じでした。男優たちやスタッフたちとは全く違いました。
撮影中に私のシーンを見せてもらった瞬間、私は衝撃を受けました。私は自分自身の演技を見て驚きました。自分がそんなことができるとは思っていなかったので、ひどく感動しました。
シャーロット・ランプリング
- 一度見ると忘れられない特徴的なルックス
- 万人受けしない(特に男性に対して)美女タイプ
- 演技が上手いのか、雰囲気を作るのが上手なのかわからない人
つまりこれが、女優にとっての西條の美徳の三要素なのです。男性には理解しがたい女性の領域を示す人。それがシャーロット・ランプリングなのです。
だからこそ、女性の領域を知りたい男性にとって彼女は、ひとつの極星になるのです。彼女こそスーパーモデルの源流であり、そのひょろりとした肢体に纏わりつく布地の美しさを示してくれる人なのです。
そして、時間をかけてゆっくりと評価を高めた人にだけ持ちうる凄みを感じさせる人なのです。完璧さが美しさを生み出す重要な要素ではなく、未完成なものを残しつつ、非対称の美を体現する、まさに陶器の器のような美を、悲劇の中で昇華させることが出来た人なのです。だからこそ彼女の美は、動ではなく、静なのです。
エリザベートのファッション2
ナイトウェア
- パールカラーのショートナイトガウン
- パールカラーのノースリーブ・ロングスリップ
- ペールブルーのヘアバンド

オープニングの幸福に満ちた姿から一転して悲劇的な展開に飲み込まれるシャーロット。

ショートナイトガウンを着ているシーン。

ナチスドイツに蹂躙される貴婦人役が見事にハマっています。

モデル体型であることを気品に変えた女優シャーロット・ランプリング。
作品データ
作品名:地獄に堕ちた勇者ども The Damned(1969)
監督:ルキノ・ヴィスコンティ
衣装:ピエロ・トージ
出演者:ダーク・ボガード/イングリッド・チューリン/ヘルムート・バーガー/シャーロット・ランプリング