ブルードゥシャネル
Bleu de Chanel 2006年に発売されたひとつの香りが瞬く間に世界中(特に欧米)の男性を虜にしました。その香りの名を「テール ドゥ エルメス」と申します。
そして、この香りのあおりを受け、1999年以降着実に売り上げを伸ばしていたシャネルの「アリュール オム」シリーズは苦戦するようになりました。
かくして打倒「テール ドゥ エルメス」の号令の下、11年ぶりのシャネルのメンズ・フレグランスとして2010年に「ブルー ドゥ シャネル」が生み出されたのでした。
三代目シャネル専属調香師ジャック・ポルジュによって調香されたこの香りにより、「テール ドゥ エルメス」だけでなく、ドラッグ・ストアに売られている模倣フレグランスを、その品質の良さと、魔法のような合成香料のブレンド(ノルリンバノールとアンブロキサン)で駆逐し、メンズ・フレグランスに「青い革命」というゲームチェンジをもたらしたのでした。
次世代のスーパースター、ティモシー・シャラメがアンバサダーに。

©CHANEL
「ブルー ドゥ シャネル」と「エゴイスト」は正反対のメンズ・フレグランスです。「エゴイスト」は女性のフレグランスから触発されたフレグランスなのですが、「ブルー ドゥ シャネル」には女性的な要素は一切存在しません。
メンズ・フレグランスとは、依然シェービング・クリームの影響下にあります。そして、「ブルー ドゥ シャネル」はそういった要素を全て詰め込んだものなのです。一切のファンタジーも存在しない香りなのです。
ジャック・ポルジュ
ジャック・エリュによるクールなボトル・デザインと共に、「ブルー革命」が始動しました。その勢いに乗り、メンズ・フレグランス市場の覇権の確立を目指し、2014年夏に発進させたのが「ブルー ドゥ シャネル オードゥ パルファム」でした。
しかし、この一年後に、かつての盟友であり、ディオールの初代専属調香師になっていたフランソワ・ドゥマシーにより、さらにアンブロキサンとジョニー・デップを核爆弾並みに爆発させた「ソヴァージュ」が発売され、シャネルの「青い革命」は、ディオールの「ソヴァージュ旋風」に取って代わられようとしていたのでした。
そんな中、2015年2月に四代目シャネル専属調香師に就任したジャックの息子オリヴィエ・ポルジュにより、2018年6月に発売されたのが「ブルー ドゥ シャネル パルファム」でした。
2023年に、アンバサダーだったギャスパー・ウリエル(1983-2022)の急逝(スキー事故)を経て、新しいアンバサダーとして、『君の名前で僕を呼んで』『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』等の活躍で次世代のスーパースターと呼ばれているフランス系アメリカ人俳優ティモシー・シャラメ(1995-)が3500万ドルのギャランティを得て就任しました。
この決定は明らかに、ハリウッド・スターのレジェンドであるジョニー・デップのイメージと共に快進撃を続けるディオールの「ソヴァージュ」に対抗したものなのでしょう。
ただひとつ心配なのは、マーティン・スコセッシ監督がキャンペーン・フィルムで演出したティモシー・シャラメの魅力が、マリオ・ソレンティが撮影した広告フォトにおいて全く反映されていないところです。
男性のための〝はじめてのシャネル〟

初代アンバサダー、ギャスパー・ウリエル ©CHANEL
「ブルー ドゥ シャネル」の明確なるターゲット層は、以下に記す三つの層です。そしてこの層は「ソヴァージュ」のターゲット層と全く同じです。だからこそ、PR戦略も含め、この『青い戦争』から目が離せないのです。
- ファッション感度は高いが、フレグランスには興味のない男性
- 人に尋ねられたときに、お洒落だと思ってもらえるフレグランスとして、何十年も定番の香りとして使い続けてくれる男性
- パートナーがシャネルの香りを付けてくれることに喜びを感じる女性
ごく平凡な万人受けする香りとクールな広告イメージ、さらに意図的に、女性が使用しても違和感のないパートナーと共有できるフレグランスとして、普段はラグジュアリー・ブランドに興味のない層に対しても、アプローチしているのです。
「ブルー ドゥ シャネル」とは、フレグランスに対してまだ詳しくない(もしくは興味のない)男女層をターゲットにした「はじめてのシャネル」の香りなのです。
ブルー ドゥ シャネル三部作
2010年
ブルー ドゥ シャネル
「世界で一番使いやすいフレッシュな香り」のコンセプトで生み出された記念すべき第一作。グレープフルーツに男の熱い心を抽入した香り。
2014年
ブルー ドゥ シャネル オードゥ パルファム
アンバーとムスクが追加され、涼しげな爽快感と温かい官能性の秤の上に身も心もあずけるような〝シャネルを着た危険な男〟の香り。
2018年
ブルー ドゥ シャネル パルファム
レモンとシダーとサンダルウッドによって生み出される、意味もなく、言葉もなく、ただ美しい形がふとあらわれて消えて行く〝男に美しさだけを求めた〟香り。