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【ゲラン】サンタル パオロッサ(デルフィーヌ・ジェルク)

ゲラン
©GUERLAIN
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サンタル パオロッサ

【特別監修】Le Chercheur de Parfum様
【特別監修】カイエデモードが崇拝するフレグランス・スペシャリスト様

原名:Santal Pao Rosa
種類:オード・パルファム
ブランド:ゲラン
調香師:デルフィーヌ・ジェルク
発表年:2021年
対象性別:ユニセックス
価格:50ml/35,310円、100ml/49,500円、200ml/70,290円
公式ホームページ:ゲラン

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新しいゲラン帝国の幕開けを告げる香り

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2005年、パリ・シャンゼリゼ通り68番地のゲラン本店のリニューアルオープンを記念して発売された「ラール エ ラ マティエール(芸術と貴重なる生の素材)」コレクション。

この〝世界で最も貴重な原料を使ってゲランのパッションを表現して欲しい〟というコンセプトにより生み出されるコレクションの第十四弾として、2021年9月1日から「サンタル パオロッサ」と「ローズ シェリー」が同時発売されました。

そして、この機会に「ラール エ ラ マティエール」はボトル・デザインを一新し、「究極のゲラン帝国の香りのコレクション」としての明確なる位置づけを世に示すことにしたのでした。

この香りは、ゲラン帝国の香料確保に世界中を飛び回っている五代目専属調香師ティエリー・ワッサーの代わりに、新作の調香を担当するようになったデルフィーヌ・ジェルクにより調香されました。

全ての「ラール エ ラ マティエール」の香りは、ある貴重な1つの素材に絞り、それをいまだかつてない芸術的な側面から、新たな光を当て、素材の深みやコントラストを強調することにより生み出されています。

従ってこの「サンタル パオロッサ」も、その名から連想させる、サンダルウッドとパオロッサという2つの素材に焦点を当てたのではなく、サンダルウッドだけに焦点を当てた「パオロッサのようなサンダルウッド」の香りなのです。

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1877年にエメ・ゲランが生み出した「パオロッサ」とは?

©Sylvaine Delacourte

「サンタル パオロッサ」の名前の由来は、1877年にエメ・ゲランにより生み出された幻のフローラル・スパイシーのフレグランスに由来します。その名を「パオロッサ Pao Rosa」と申します。

ムスキーベースのコロンであり、ベルガモットとネロリが弾け合うトップノートからはじまり、華やかなローズのミドルノートが現れ、チベット産ムスク(トンキンムスク)とシベットがブレンドされたアニマリックな香りにより、すべてが包み込まれてゆく香りでした。

また、この「パオロッサ」は、ロシアの作家であるフョードル・ソログープ(1863-1927)の最も有名な小説『小悪魔』の中で、少女と見紛う美少年サーシャに惚れ込んだリュドミラが使っていた香水としても知られています。

男の子にとっていちばんいい年頃なのよ、14、5歳ってのはね。まだほんとうには何一つできやしないし、知りやしないんだけど、もう何もかも感じとっているの。何から何まですっかり。それでいて厭な顎髭はまだない。(リュドミラ)

「パオロッサ」は、1894年まで販売されていたことは確認されていますが、それ以降は消息不明なまさに幻の香水でした。

〝愛〟に香りをつけると、それは〝自由〟な香りであるべきね。そして、それは私にとってローズなの。ローズは私のお気に入りで、香水にも使うのが最も好きな香料です。私は〝愛のない香り〟を作りません。だからローズは常に、私の作品に存在しているのよ。

デルフィーヌ・ジェルク

更にエメ・ゲランの「幻の香り=パオロッサ」へのオマージュであると同時に、パオロッサの名は、〝ウッドとローズの出会い〟を感じさせる名でもあります。なぜなら、パオロッサとは、ローズウッドの一種で、材木にかすかなバラの芳香を感じさせるからです。

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ゲランとサンダルウッド

©GUERLAIN

このサンダルウッドはインド産で、抽出できる大きさに成熟するまでに最低15年の月日を要します。(公式サイトより)

ゲランの公式サイトで述べられている通り、サンダルウッドから精油を抽出するには植えた木が成熟するまで長い年月を待たなければなりません。最低15年とあるように、基本的には25年~30年の時間を要します。

ちなみに2021年現在、ゲランで使われているサンダルウッドの産地は三箇所です。

  1. オーストラリア産
  2. スリランカ産
  3. ニューカレドニア産

ゲランの多くのクラシックな香水にはサンダルウッドが使用されており、その原料の調達は、歴代の専属調香師にとって、最も重要な仕事のひとつでした。まず最初に調達されたサンダルウッドのほとんどはサムサラに使用されます。そして、残りがジッキーシャリマーなど他の香水たちに充てられてゆきます。

実は、ゲランに入った最初の年。私は自分のコンポジションの中でサンダルウッドを大胆に使うことが嫌でした。というのも、サンダルウッドの買い付けは手間がかかり、サムサラのために大量に必要だったからです。

ティエリー・ワッサー

そんなティエリーがパリで開かれた香料の国際展示会であるSIMPPAR(International Exhibition of Raw Materials for Perfumery)に参加した時のことです。彼はオーストラリア産のサンダルウッドに出会い、その考えが一変したのでした。

その香料を作っていた人たちはオーストラリアの北部で、マイソール産のサンダルウッドを育てており、それはインドで育てられたマイソール産にとても近い香りだったのです。

それ以降、ティエリーは2014年に「サンタル ロイヤル」、2017年に「モン ゲラン」など、自分の作品にサンダルウッドを積極的に取り入れるようになったのでした。

今ではそのサンダルウッド(オーストラリア産)をメインで使っているのですが、同じ種がスリランカでも栽培されているので、そちらも使用しています。しかし、特別なプロジェクトの時には、我々はニューカレドニア産のサンダルウッドしか使いません。

ティエリー・ワッサー

ティエリーは「サンタル パオロッサ」では、インド産(公式ホームページではオーストラリア産)のサンダルウッドを使用したと言及しています。つまり「インドのマイソール原産であった、今ではオーストラリアで栽培されているサンダルウッド」がここでは使用されていると考えられます。

サンダルウッドは、時折、ローズのようなピンク色のイメージを帯びることがあります。そして、「サンタル パオロッサ」は、ウッディの力強さとフローラルの気高さを持ち合わせます。まさに神聖な愛のような香りなのです。

デルフィーヌ・ジェルク

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最上級のサンダルウッドに最も相応しい仕事

©GUERLAIN

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「サンタル パオロッサ」の香りの裏に秘められたメッセージは、薔薇が開花する際の、実際の姿と幻想的なムードのコントラストです。

ティエリー・ワッサー

新しい「ラール エ ラ マティエール」の魅力のひとつは、〝ゲラン帝国の威風堂々とした佇まいを最前列で体感できる〟ように一新されたボトルデザインにあります。さらにゲランの香りという芸術に対する深い想いと誇りを、愛や狂気をもって、様々な液体のカラーに投影し、飲み干し、解き放たんとする幻想的な色彩感覚にあります。

ディオニューソスの葡萄酒を並々と注ぎ込んだような「サンタル パオロッサ」のボトルを手に取り、スプレーを押すと、かなりキメの細かい香りの精が、ゆっくりと広がりながら、肌に到達します。それは、まるで接吻のようです。

「サンタル パオロッサ」のはじまりは、(コールドスパイスの代表格である)澄み渡る天空に突き抜ける一筋の光のようなカルダモンのスパイシーさからはじまります。そして、時を同じくして、どこからともなくウードとミルラの力強く重厚感のある香りがゆっくりと立ち昇ってきます。

最初からサンダルウッドを強くは感じません。あくまで、サンダルウッドの本領が発揮されるのは、その時まで待たねばなりません。

カルダモンの冷たい光の風が落ち着くと、ウードとミルラの上に根を張った赤い薔薇がゆっくりと開花してゆきます。その妙なる芳香は、まるで最高級の紫檀により生みだされた唐木細工のように、品格と温もりを持ち、香りに輝きと艶を生み出してゆきます。

この香りの薔薇は多くの言葉を語りません。であるにも関わらず誰もが薔薇の存在をしっかりと感じ取ることが出来るのです。

いよいよ時を告げるクリーミーなフィグとヘーゼルナッツの芳しき香りと共に、溢れ出さんばかりの魅力に包まれた主役のサンダルウッドが登場します。ミルキーかつフローラルな香りを纏ったサンダルウッドは、ことさら自身を誇張しすぎる必要もなく、すべてを包み込み、至福の余韻を肌に降り注いでくれるのです。

サンダルウッドは、自身の根から土壌の栄養分を吸収できないために、近隣の植物の根から樹液を取り込む半寄生植物です。同じく「サンタル パオロッサ」も、サンダルウッドが結びつきやすいスパイス・バルサミック・フローラル・ミルキーな香りをすべて吸収していきます。それは、それらを自身の輝きに変える半寄生だからこそ持ちうる美しさを描いているようです。

つまり、この香りにおけるサンダルウッドは主役でありながら、主役ではなく、すべてを輝かせるために存在します。最上級のサンダルウッドに、非常に贅沢な、最も相応しい仕事を与えたところにこの香りの真骨頂があると言えます。そして、これこそが新たなる「ラール エ ラ マティエール」でゲランがあえてサンダルウッドを取り上げた理由なのです。

その理由を示す一文としてもっとも相応しいのは、日本を代表する調香師である大沢さとり様のこの一文ではないでしょうか。

良質なサンダルウッドの匂いは、ウッディノートというよりもむしろムスク、アンバー、パウダリー、フローラル・ノートで構成される。ミルキーな甘さと艶があるがしつこくはない。

この世界観を生み出すことに成功したサンダルウッドの香りは、ほとんどありません。

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ジュゼッペ・ペノーネの精神を反映した〝香りの彫刻〟

シダーの樹の中にある若いシダーの樹 ©Archivio Penone

私は森が呼吸しているように感じます。そして、木々がゆっくりと、(時の流れに)抗えない成長をしている声が聞こえます。

ジュゼッペ・ペノーネ

ゲランは公式サイトにおいて、この香りは「彫刻に例えるならば、ジュゼッペ・ペノーネの木の彫刻です」とたとえています。

ジュゼッペ・ペノーネ(1947-)とは彫刻家であり、1960年代後半から1970年代前半にかけてイタリアで起こった芸術運動の代表的な人物です。

その運動の名はアルテ・ポーヴェラ(貧しい芸術の意)。それはこれまで芸術作品で使っていた画材を放棄し、鉄・廃材・布切れといった日常的で質素な素材や石・土・植物などの未加工の自然物を用いて芸術作品を生み出す運動でした。

特に樹木からインスピレーションを受け、人間と自然をテーマに作品を生み出してゆきました。そのため彼の作品からは、自然の木の香りが漂ってくるのです。

さしずめ、「サンタル パオロッサ」は、ジュゼッペ・ペノーネの世界観を、サンダルウッドとローズによって表現した〝香りの彫刻〟なのかもしれません。ただし、この香りは到底アルテ・ポーヴェラではありません。

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他のサンダルウッドの香りとの比較

タムダオ ©DIPTYQUE

ウードとミルラの重厚感、サンダルウッドの少しドライなクリーミー感、カルダモンの冷たいスパイスとほんのり香るローズ。これらを総合し、あらゆるサンダルウッドの香りと比較すると、かなり近い香りはディプティックの「タムダオ」です。

「タムダオ」は、スパイシーではないもののマートルが冷たさを担い、サンダルウッドとシダーの二重奏がドライなクリーミー感を生み出しています。そして、ローズとブラジリアンローズウッドにより、ほんのり香るローズがウードと混ざったような奥深さを伴わせてゆきます。

また、「エッセンツェ マドラスカルダモン」(エルメネジルド・ゼニア)との比較も面白いでしょう。

©GUERLAIN

ちなみに、サンダルウッドをメインにした香水は3つに分かれます。

  1. オリエンタル&フローラル・・・サムサラサンタル ロイヤルドリス ヴァン ノッテン
  2. スパイシー&ミルキー・・・サンダル ブラッシュセルジュ・ルタンスのほとんどのサンダルウッドの香りと、サンタル マソイアサンタル33
  3. ウッディバルサミック・・・タムダオ

1と2が「サンタル パオロッサ」とまったく違うのは、カルダモンが効いているためです。「サムサラ」はよりフローラルで、フルーティーな甘さがあり、ルイ・ヴィトンの「オー アザール」は、サンダルウッドのウッディ感がより強調されています。

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フレグランス・スペシャリストによるLVの香りとの比較

©LOUIS VUITTON

最後に「グルマン コキャン」と共にこの香りにハマってしまう程好きになるかもしれないと言っておられるカイエデモードが崇拝するフレグランス・スペシャリスト様に、この香りについて分析して頂きました。以下この方のお言葉です。

実は「サンタル パオロッサ」のボトルを店頭ではじめて見せていただいた時、瞬時に頭に浮かんだのが、クリードの「サンタル」の赤いボトルだったのです。クリードの「サンタル」は完全にメンズ仕様なのであのイメージで香ってみたら、まぁなんて女性的で美しい赤が似合う明るい香りなのかしらと感激しました。

〝力強くて逞しい!〟〝誰かを守るんだ!〟という勇猛果敢な香りというよりは、自分が持つ明るいオーラで人々に勇気を与えるような、そんな女性を思わせるような香りだと思いました。

とても綺麗なスパイスのエッセンスです。スパイシーな香り独特の力強さや荒削りな感じが一切無く、ルビーのような赤い輝きを感じるスパイス。そして、サンタルと銘打っているくらいなのでサンダルウッドの香りがメインだと思うのですが、ゲランのウッディってこんなに軽やかなの?と思うくらい〝繊細〟だけど明るい香り。

ルビーのような鮮やかな赤い光をもたらす香り…私はメゾン フランシス クルジャンの「バカラ ルージュ540」、ブルガリの「オ パフメ オーテルージュ」、エルメスの「オー ドゥ ルバーブ エカルラット」、ランコムの「マニフィーク」を愛しているのですが、やっぱり〝赤い〟イメージの香りに惹かれるのかも知れません。

ルイ・ヴィトンの香りと比較すると「マティエール ノワール」と「オー アザール」を重ねたようなイメージかなと。「マティエール ノワール」をもっと明度を上げて更に輝きを足したような香りだと感じました。

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香水データ

香水名:サンタルパオロッサ
原名:Santal Pao Rosa
種類:オード・パルファム
ブランド:ゲラン
調香師:デルフィーヌ・ジェルク
発表年:2021年
対象性別:ユニセックス
価格:50ml/35,310円、100ml/49,500円、200ml/70,290円
公式ホームページ:ゲラン


シングルノート:サンダルウッド、ミルラ、カルダモン、アガーウッド(ウード)、イチジク、ナッツ