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【ル ラボ】アルデヒド44 ダラス(ヤン・ヴァスニエ)

ルラボ
©LE LABO
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アルデヒド44 ダラス

【特別監修】Le Chercheur de Parfum様

原名:Aldehyde 44 Dallas
種類:オード・パルファム
ブランド:ル ラボ
調香師:ヤン・ヴァスニエ
発表年:2006年
対象性別:ユニセックス
価格:1.5ml/1,850円、15ml/20,900円、50ml/45,100円、100ml/69,850円
公式ホームページ:ルラボ

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シャネルNo.5を誰よりも愛する男が作った香り

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ル ラボが出店している都市ごとの限定の香り「シティ エクスクルーシブ コレクション」。2006年に発売された最初のふたつのうちのひとつであるテキサス・ダラス限定の香りが「アルデヒド44」です(順序としては「チュベローズ40 ニューヨーク」が先)。

合成香料アルデヒド(アルデハイド)と言えば、脂肪族アルデヒド(C10、C11、C12)であり、まず想い出されるのはシャネルの「N°5」と「N°22」です。

そんなアルデハイドがふんだんに使用されたフローラル・ウッディー・ムスクの香りは、シャネルのヴィンテージ香水に心酔しているヤン・ヴァスニエにより調香されました。彼はあのトム・フォードの「サンタル ブラッシュ」を作った人です。

ヤンは、13歳の頃から、おこづかいの全てを使い、香水収集をはじめました。何よりも、シャネルのヴィンテージ香水のコレクションを開始し、早くも調香師になることを決意し、青年期に、2年間で3000種類の香水のカタログを自作し、香水の研究に励んだほどでした。

私は青春時代の思い出の香りを大切にしています。それは塩、バター、クレープ、キャラメル、そして自家製のフルーツジャムの香りです。ブルターニュは家畜の街なので、牛や豚の匂い、そして、薔薇、雨の日の香り、岩が多い海岸の香り、そして、ビーチの香り。何よりも、私は両親が常に身に纏っていたシャネルに包まれて大人になったのです。

ヤン・ヴァスニエ


2006年に「フルール ドランジェ27」を調香したフランソワーズ・ キャロンはヤン・ヴァスニエのメンターでした(ヤンのデビュー作であるコムデギャルソンの「パリサンダー」は彼女との共作)。その頃、二人は、2007年にジボダンに買収される前のクエストに在籍していました。

彼女のつながりでヤンは、この作品を調香することになったのでした。

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ボディースナッチャーされる悦び

メタリック・アニマルが獲物を見つけ、歓喜しながら飛び掛かるような、そんな躍動感と煌きに満ちたアルデハイド(C12)の渦に飲み込まれていくような感覚からこの香りははじまります。

すぐに(メタリックに)凍りついたその心を溶かしていくようにバニラと共にアンブレット(正確にはジボダンのアンブレットリド)とムスクが現れ、ボディスナッチャーのようにあなたの肉体を乗っ取りにかかります。

氷が溶け、花の芽が現れ、開花していくように(甘い)水仙や(インドール豊かな)ジャスミン、ネロリ、チューベローズの花蜜がアルデハイドと共鳴し、雪の女王のようなひとつの新たなる花の輝きを生み出してゆきます。そして、温かなバニラを背景に、滑らかな身体の動きで翻弄する美女のように、冷ややかな微笑と情熱的な眼差しを向け、酔わせる様に〝春の舞〟を舞います。

キュっと引き締まった美女の足首と、くびれた腰つきが、悪夢と感じるようになるまで、走馬灯のように延々と繰り返され、やがて、その悪夢を愛するようになる。これが、この香りの全体像です。

特筆すべきは、アブソリュートでありながら、(パウダリーは控えめに)存在を主張しすぎない4つのフローラルの妙な存在感です。それは知らず知らずのうちに、肌の上に咲く花のようです。

この香りには、妖艶さだけでなく、優雅さも存在します。アルデハイドのクリスタルシャワーと共に導かれし〝踊りの精〟がフローラルのバックダンサーを従え、バニラとムスクの熱い眼差しの中、甘くソーピィーな香りによって、真っ白に燃え尽きていくようにあなたの肉体をボディースナッチするのです。

嗚呼…この香りは、香りではなく〝新たなるわたしの体臭〟だったのですね…と諦めにも似た悦びを感じさせてくれる香りです。

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50年代のエレガンスを21世紀に蘇らせた香り


トースターでこんがり焼いたパンの上に滑らかなバターが広がるように塗られ、熱によって溶けてゆき、パンの生地に浸透してゆく。そんな情景が肌の上で行われていく香り。

アルデハイドがムスクに移行する瞬間。それはクラシック・ビューティーな女性があなたをロックオンし、激しく誘惑し、冷たくつれない態度を取り、甘い囁くような声で、あなたを骨抜きにする儀式のようなのです。

それにしてもルラボにしては、びっくりするほど名前に忠実な香りです。

ダラスのバーニーズ・ニューヨークが2013年3月にクローズした時に製造中止になったこの香りは、2017年に見事「復活の日」を迎えました(ハイランド・パーク・ヴィレッジ内に)。

ルカ・トゥリンは『世界香水ガイド』で、「アルデヒド44 ダラス」を「冴えないアルデヒド調」と呼び、「はじめ彼らはサンプルを送るのを嫌がった。まあ、ひとつふたつそういう会社もあったのだが、拒否の理由は「香水の批評なんてありえない」し、「香水について書くなんて、建築を踊りで表現するようなもの」だからだとか。しかし、ありがたいことに、「もし、プレスにまともな批評家がいれば、そこらのブランドがくだらない香水を出すのを控えるかもしれない」という意見ももっていた。さあ、混乱したかな?」

「むろん私もだ。でもタニアがかけあってくれた。結局彼らは、私たちが香りのわかる人間だと知って態度を和らげた。彼らの哲学は、フランス語のとおりに解釈すると、抑えることが豊かさを生むといったことのようだ。ずっと思っていたのだが、フランス人の傲慢さはほんの少しくらいならおもしろいが、多過ぎるとそれどころではない。」

「以下はウェブサイトからの引用になる、「ルラボ製の10種の香水のすべてが、グラースからじかに取り寄せた最高級の天然エッセンスを使用している。グラースはフランスの「香りのメッカ」といわれる。」馬鹿なことを。グラースにあるようなものは世界中どこにでもある。それにアルデヒドは合成品だからどこから来ようが同じだ。」

「まあそれはともかく、この香水はどうかというと、若く有能なヤン・ヴァスニエが作った。これはエスティローダーの「ホワイト リネン」のミニチュア版だーその雪のように白いアルデヒドが姿を変えて、ほのかなピンクのフルーティノートと水色のウッディアンバーになった。テキサスのローズを捨てさせるほどたいしたものではないが、悪くない。」と3つ星(5段階評価)の評価をつけています。

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なぜダラス=アルデハイドなのか?


「シティ エクスクルーシブ コレクション」には、ただ純粋に香りを楽しむだけでなく、どうしてこの都市がこの香りなのかということを推察する楽しみもあります。

最後に、「なぜダラスがアルデハイドなのか?」ということを考察していきたいと思います。

  1. ダラスと言えば、高層ビルが立ち並ぶ巨大都市=アスファルト・ジャングルです。アルデハイドといえばメタリックであると表現されますが、「アルデヒド44」こそまさにそうであり、ツーンとした冷たさを感じる、それは金属の表面に鼻を近づけたような感覚を想起させます。それはまるでリキッドイマジネの限定品「リキッド」と同じ感覚です。
  2. ダラスは人口も多く、犯罪もワーストクラスの都市です。JFKが暗殺されたのもダラスでした(そして、世界的にはダラスと聞けばこの事件がいまだにイメージに浮かぶはず)。東京もそうですが、人口の多さ故の冷たい心、犯罪や暗殺が跋扈する血なまぐささ(実際にアルデハイドやこの香りは血液=鉄分を感じさせます)が表現されていると考えることもできます。
  3. ダラスは石油化学工業・軍事産業が発達している都市であり、石油化学でアルデハイドはよく出てくるワードです。香水で使われるようなアルデハイドは炭素数が多いので全く違うものである可能性は高いのですが、アルデハイドという共通ワードが存在するのは事実です。
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香水データ

香水名:アルデヒド44 ダラス
原名:Aldehyde 44 Dallas
種類:オード・パルファム
ブランド:ル ラボ
調香師:ヤン・ヴァスニエ
発表年:2006年
対象性別:ユニセックス
価格:1.5ml/1,850円、15ml/20,900円、50ml/45,100円、100ml/69,850円
公式ホームページ:ルラボ


シングルノート:ムスク、ジャスミン、チューベローズ、スイセン、アルデハイド、ネロリ、バニラ、アンブレット