最も残念なボンドスーツを着るティモシー・ダルトン
007シリーズ第16弾にして、四代目ジェームズ・ボンド=ティモシー・ダルトン(1946-)の二作目かつ最後の作品となった本作のボンド・ファッションは、一言で言うと特筆すべきところは全くありません。
ボンドスーツをテーラードしたステファノ・ リッチ(1972年ブランド創立、1994年プリーツタイで話題となる)のスーツのシルエットは、恐ろしく凡庸な80年代シルエットでした。下手をすると採寸ミスだと感じられるほどに、ジャケットもパンツもボンドスーツを洗練からかけ離れた野暮ったさで覆い尽くしてしまいました。
この作品のボンド・ファッションは徹頭徹尾良くないです。

黒のワンピース水着を着たボンドガール二人と、どこか恥ずかしそうなティモシー・ダルトン。

そこには、ボンドのクールネスよりも、美女二人と記念撮影している中年男の哀愁が漂う。
史上最高に美しいガンバレル

ただし、この作品のガンバレルシーンは特筆に価します。
歴代ボンドの中でも、シェイクスピア俳優が演じるボンドは、立ち姿・歩く姿がとんでもなく美しいです。特に、ガンバレルの中を歩くボンドの姿を見ていると、歴代の中でも最も美しいガンバレルと言いたくなるほどにエレガントで洗練されています。
ジェームズ・ボンド・スタイル1
グレーモーニング・スタイル
- テーラー:ステファノ・ リッチ
- グレーのモーニング、ピークドラペル、1つボタン
- ライトグレーのベスト、5つボタン
- ウイングカラーのホワイトシャツ
- クラバット、グレー・ブラック・ホワイトのストライプ
- グレーのストライプパンツ
- ブラックのキャプトゥレースアップシューズ
- ロレックスのサブマリーナーRef.16800/168000
- ロック&コーハッターズのグレー・トップハット

ボンド史上初めてかもしれないモーニング姿。

肩のシルエットがなんとも・・・

休憩中にスプライトを飲むボンド。

いかにも80年代的なパンツのルーズなシルエット。

本作が、ボンドムービーで最後に登場するロレックスになりました。

タリサ・ソトと打ち合わせするティモシー・ダルトン。

ロレックスのサブマリーナーRef.16800/168000

『007 死ぬのは奴らだ』にも出演していた同じ俳優によるフェリックス・ライター。
グラディス・ナイトによる隠れた名曲
本作において主題歌を歌うのは、ソウルの女帝グラディス・ナイト(1944-)です。グラディス・ナイトと言えば、1973年に全米No.1ヒットになった「夜汽車よ! ジョージアへ(Midnight Train to Georgia)」ですが、この主題歌も、実にムーディーかつパワフルな〝隠れた名曲〟です。
モーリス・ビンダーの最後の007

オリンパスの一眼レフ・カメラからはじまるタイトルデザイン。

本作で香港忍者部隊の一員として出演していたダイアナ・リーが、メインモデルとして出演しています。

もしかしたらモーリスは中国が舞台の作品だと勘違いしていたのかもしれない。
そして、本作は、『007 サンダーボール作戦』から13作品連続でタイトルデザインを担当してきたモーリス・ビンダー(1925-1991)の最後のボンドムービーになりました。
作品データ
作品名:007 消されたライセンス Licence to Kill(1989)
監督:ジョン・グレン
衣装:ジョディ・リン・ティレン
出演者:ティモシー・ダルトン/キャリー・ローウェル/タリサ・ソト/ベニチオ・デル・トロ/ロバート・デヴィ
- 【007 消されたライセンス】復讐のために戦うジェームズ・ボンド
- 『007 消されたライセンス』Vol.1|ティモシー・ダルトンの冴えないボンドスーツ
- 『007 消されたライセンス』Vol.2|ネクタイを締めないボンド=ティモシー・ダルトン
- 『007 消されたライセンス』Vol.3|傷だらけのティモシー・ダルトン
- 『007 消されたライセンス』Vol.4|ディオールオムの象徴=ベニチオ・デル・トロ
- 『007 消されたライセンス』Vol.5|キャリー・ローウェルと80年代スカートスーツ
- 『007 消されたライセンス』Vol.6|ヴェリーショートが美しいキャリー・ローウェル
- 『007 消されたライセンス』Vol.7|キャリー・ローウェルとジョディ・リン・ティレン
- 『007 消されたライセンス』Vol.8|タリサ・ソトとオスカー・デ・ラ・レンタ
- 『007 消されたライセンス』Vol.9|タリサ・ソト、ボンドムービー史上初のラテン系ボンドガール