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アニック・グタール

【グタール】プチシェリー オードトワレ(アニック・グタール/イザベル・ドワイヤン)

アニック・グタール
©Goutal Paris
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プチシェリー オードトワレ

原名:Petite Cherie Eau de Toilette
種類:オード・トワレ
ブランド:グタール
調香師:アニック・グタール、イザベル・ドワイヤン
発表年:1998年
対象性別:女性
価格:50ml/20,130円、100ml/28,050
販売代理店ホームページ:ラトリエ デ パルファム

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死を予感した母が、愛する娘のために遺した香り

30歳のときのアニック・グタールと娘のカミーユ。

アニック・グタールとカミーユ。

私たちは、感情を香りで表現することに重きを置いています。だからこそ、母親が娘のために「プチシェリー」を購入している姿を見ると嬉しくてたまらないのです。これは、この香水を作ったときに母が私にしたことと同じ『娘への永遠の愛の宣言』なのですから。

カミーユ・グタール

アニック・グタール(1946-1999)によって、1981年に『アニック・グタール』は創業されました。そして、すぐにアニックは二人の娘のための香りを作りました。一つは1980年に再婚した夫の連れ子シャルロット(カミーユより4歳年上)のために1982年に作った「オー ド シャルロット」でした。

そして、もうひとつは、自身の元夫との間の娘カミーユ(1975-)のために、彼女のリクエストに応えて1983年に作った〝家庭菜園のような香り〟「オードカミーユ」でした。

30才のとき(1976年)、乳癌になったアニックは、回復するも、1988年に乳癌を再発し、以後12年間癌と戦うことになるのでした。そんな中、1998年に23歳になったカミーユが最初の子(娘)を出産したのでした。

1997年に話は遡ります。日々体調の悪化を感じていたアニックは、もう自分にはあまり多くの時間が残されていないことを感じていました。そして、彼女はカミーユの中で生きてくれるような香りを作りたいと心の底から願うようになりました。

かくして1998年に生み出された「プチシェリー」(=愛しの我が娘の意味であり、母がカミーユを呼ぶときの愛称)は、20代の娘カミーユと生まれたばかりの孫娘マイラのために全身全霊を捧げ、盟友イザベル・ドワイヤンと共に創り上げた香りでした。

一般的には、当時20歳のカミーユのために作られた香りというストーリーが流布しており、それは正確ではありませんが、この香りの精神を的確に伝えています。つまりこの香りは、大人の女性へと成長しつつある娘を祝福する〝母の愛〟の香りなのです。

7歳のとき母に「オードカミーユ」を作ってもらったのは、「なぜシャルロットだけなの?」と母にゴネたからなのです。母は「あなたはまだ若すぎるから必要ないと思ったのよ」と言いいながら、私の好みを聞いて作ってくれました。

しかし、「プチシェリー」は、面白いことに私に何一つ聞かずに、当時の20代前半の私のイメージを膨らませて作ってくれた香りなのです。20歳の頃は、とにかく楽しみたい、若いから何もしなくても可愛い…だからとても爽やかで、楽しくて幸せな香りなのです。

カミーユ・グタール

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シェイクスピアの『夏の夜の夢』を再現した香り

©Goutal Paris

〝若いお母さんが剥いたばかりの〟という形容こそが相応しい、瑞々しい洋ナシにムスキーなローズを重ね生み出された、ほのかに重なるベイビーのほっぺの香り。一瞬感じる違和感からはじまり、すぐに匂いを嗅いでいるうちに女性の母性を呼び覚ます香り=「愛を込めてキスを浴びせたくなるような、おいしそうな頬の香り」。

この香りには、天然のトルコ産ムスク・ローズというかなり希少なローズが使用されています。

通常ローズの精油を採取するために使用されるローズは、センティフォリアローズ(メイローズ)とダマスクローズの二種類だけです。なぜならそれ以外のローズは香りの成分をわずかしか含んでいないので、抽出しても採算が取れないためです。

であるにも関わらずアニック・グタールがムスク・ローズにこだわったのは、シェイクスピアの『夏の夜の夢』のある一節をこの香りの中で再現したかったためでした。

それは、惚れ薬を瞼に塗られることになる妖精の女王ティターニアは夜になると、タイム(立麝香草)の花が咲き乱れる堤を訪れ、スイカズラ、ムスク・ローズ、エグランタイン(ノバラ)を天蓋のように覆いかぶせ、花々の中で夢を結ぶという一節でした(ティターニア=死すべき定めである人間を哀れむ妖精の女王)。

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アニック・グタールの天然香料に対するこだわり

©Goutal Paris

©Goutal Paris

さらにアニック・グタールは、ウイリアム種の梨の分子(梨の分子にはおおよそ150の種類がある)、天然のレユニオン島産のバニラ、ピーチと刈り立ての芝生も天然のものを使用しています。

つまりここで言う天然とは、本当に刈り取った草を香りに詰め込んでいるのではなく、草を刈り取った瞬間に発散され、たちどころに消えてしまう分子と同じ天然分子を使用しているということです。

だからこそ、「プチシェリー」を肌に乗せると、自然の中の果実・花・草の新鮮さと、それらが腐敗していく気配を感じ取ることができるのです。そして、その気配が肌の上に浸透し〝儚さと哀愁、そして、親愛の情の目覚め〟にまで繋がっていくことをしっかりと体感できるのです。

男性から嗅いだこの香りの印象が、〝清潔感溢れる女性の香り〟であり、思わずその肉体に頬ずりしたくなるほどの危険性をはらむのもそのためなのです。つまり、世に存在する香りの中で、もっとも男性の弱点を突いた香りと言って差し支えないでしょう。

それはトム・フォードの「ブラック オーキッド」のような確信犯的なものを全く感じさせないので、余計に性質が悪いとも言えます。

形容するならば、「ブラック オーキッド」は、かなりの美女から発散される、男性が心を折られる香りであり、この「プチシェリー」は、近所にいそうなガールネクストドアな清潔感溢れる女性から発散される、男性に勇気を与えてしまう香りなのです。

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お母さんから愛する娘に渡す〝香りのラブレター〟

©Goutal Paris

プチシェリー」の成功の秘訣は、今日でも前衛的であり続けていることです。他の香りとは異なり、フルーティーでとてもフレッシュです。通常フルーティーな香りはより甘くなります。

さらに、ローズの繊細な香りが柔らかな側面を与えてゆきますが、ホワイトムスクの官能的な側面もあり、とても魅力的です。でありながら、それらは圧倒的ではありません。

「プチシェリー」には年齢はありません。7歳から77歳まで着用でき、完全に時代を超越しています。

カミーユ・グタール

お母さんから愛する娘に渡す〝香りのラブレター〟。そんな意味もある「プチシェリー」の香りは、疑いようのない無償の愛を感じさせる、煌くようにフレッシュな洋梨(かなりリアルな洋梨)と、恥じらうジューシーなピーチが遭遇してシャンパンのようにキラキラする瞬間からはじまります。

すぐに刈り取られたばかりの草の上を裸足で歩いたときに感じる涼しげな芳香が加わり、ほのかにスパイシーな緑のヴェールが、フルーツの酸味とほど良い調和を見せ、キューカンバーのような側面を生み出してゆきます。

だんだんとサクサクした青リンゴのような洋梨の甘さが熟していく中、草の中から(高級石鹸のような)ムスク・ローズが顔を覗かせてゆくのです。そこにライラック、ジャスミンが清潔感溢れる可憐なフローラルのアクセントを与えてゆきます。

やがて、ローズはホワイトムスクとミルキーなバニラ(バニラは本当にアクセント程度)に温かくほんのりとパウダリーな余韻を与えられ、静かに肌に向かって進んでゆくのです。

それはまるで赤ちゃんの唾液が肌の上で広がっていくような滑らかな甘い白ワインの香りです。つまり「プチシェリー」とは、究極のスキン・パフュームなのです。

タニア・サンチェスは『世界香水ガイド』で、「プチシェリー」を「洋梨 フローラル」と呼び、「このフレグランスにはちょっと同情する。それというのも、かなり深刻な欠点が2つもあるから。」

「本来なら快活で、西洋ナシと春の花々の、少女っぽい香りなのに、その原料のうちのひとつ(おそらく、キュウリのような香りのバイオレット・ニトリルだと思う)が、鼻につく濡れた犬の匂いを、多くの人たちに連想させてしまう一面を含んでいる。」

「それに、西洋ナシの原料そのものがとても不安定で、香水ファンたちの間では購入して数ヶ月もたつと期待はずれの匂いになることで知られる。悪名高いフレグランス。」と2つ星(5段階評価)の評価をつけています。

ちなみにとてもびっくりすることなのですが、松田優作の遺作でもある『ブラック・レイン』や『ウォール街』で有名なマイケル・ダグラスがずっと愛用している香りとしても有名です。

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香水データ

香水名:プチシェリー オードトワレ
原名:Petite Cherie Eau de Toilette
種類:オード・トワレ
ブランド:グタール
調香師:アニック・グタール、イザベル・ドワイヤン
発表年:1998年
対象性別:女性
価格:50ml/20,130円、100ml/28,050
販売代理店ホームページ:ラトリエ デ パルファム


トップノート:洋梨、グラス(草)、ピーチ
ミドルノート:ローズ、ヘディオン、ライラック
ラストノート:バニラ、ホワイトムスク