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『タクシー・ドライバー』Vol.5|13才のジョディ・フォスターがストリートガールに

その他の現代の女優たち
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1976年、世界中の12才の少女がストリートガールになりました

人類の歴史のなかで最も踏み込んではいけない敷地に、ジョディ・フォスター(1962-)は踏み込んでいきました。それは、13才の少女が、12才の売春婦を演じることです。より正確に言うと、街角に立つ街娼(ストリートガール)です。

しかも、マーティン・スコセッシ監督の執拗さは、オーディションにおいてハナから同年代の少女だけをオーディションした点でした。彼は、この映画の中に、ホンモノの狂気を求めていました。

ポール・シュレイダーの脚本も狂っていれば、この作品に情熱を傾けたスコセッシ、ロバート・デ・ニーロ、アイリスのポン引きを演じたハーヴェイ・カイテル。そして、何よりもこの役柄を演じたジョディ・フォスター自身も狂気に満ちていました。ちなみに、彼女は13才にして、デ・ニーロやスコセッシよりも経験豊かな女優でした(3才の時から)。

狂気とは、一種の熱気であり、芸術を生み出す人智を超えた力です。この作品で唯一まともな登場人物はベッツィだけであり、究極のリアリズムのようで、実は、ピカソの絵のような作品と言えます。

一人の女優として13才の少女が、12歳の少女売春婦を演じたからこそ、今でもアイリスは、人々の心をとらえて離さないのです。

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汚れ役を演じることが出来る稀有な女優、ジョディ・フォスター

6歳上の姉コニーが、性的なシーンにおいて代役となりました。

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不思議な情景です。

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デ・ニーロが表紙の雑誌を読むジョディ・フォスター。

私は当時、ファッションに全く興味がなくて、自分の衣装が大嫌いでした。初日のフィッティングの時、あのホットパンツ、ダサい大きな帽子、プラットフォームシューズ、へそが出るホルタートップを着なければならなかったので、涙が出てしょうがありませんでした。見事にすべて私が嫌いなものばかりだったのです。

ジョディ・フォスター

「私は当時肌を露出するファッションが大嫌いでした」と言うジョディ・フォスターの前に、アイリスの衣装はこれだよと見せられた衣装のびっくりするほどの露出度に、ジョディは大泣きしたと回想しています。

しかし、当時のニューヨークであっても存在したとは思えない12才の娼婦が、当たり前に存在するかのように演じるためには、余程の演技力が問われていたのでした。結果的に、ジョディの素晴らしい存在感により、彼女のファッションまで、20世紀末から現代の世界中の10代から20代の女性に〝不滅の影響力=へそ出しルック〟を生むことになったのでした。

それは悲劇のアイコンであり、その剥き出しの白いカモシカのような足に対して、ほとんどの男性が、一瞬不純な感情を覚え、それをきつく自戒しないといけない=とまどいを生み出す少女なのです。

ファッション(ヘアメイクを含む)が少女に魔性の力を与える姿を目の当たりにして、世の女性は、自分の中の〝少女魔性〟を蘇らせてみようとふと考えずにおられぬのです。

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アイリスのファッション1

スポーツから逃げてタクシーに乗り込む時の服装
  • 黒のチューブトップ
  • 白のショートパンツ
  • 2列に鋲がついた白のレザーベルト
  • 赤のスエードのウェッジヒール
  • 白地にブリムの縁が赤×黒のキャプリーヌ。ブラウンのリボン
  • ブラウンのヒッピー風コットンショルダーバッグ。フリンジ付き
  • スリーハートのネックレス

1930年代のハリウッド女優風ヘアメイクを12才の少女に施すというかなり斬新なアイデア。

ある意味、ルキノ・ヴィスコンティの「ベニスに死す」に近い狂気が本作の根底には流れています。

元祖へそ出しルック。少年と少女の狭間のような雰囲気があります。

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70年代の少女が、30年代のハリウッド女優になる

アイリスのヘアメイクは1930年代の影響を受けています。

ノーマ・シアラー、1934年

キャロル・ロンバード、1930年代

レイラ・ハイアムズ、1930年代

アイリスのメイクアップ(細いアイブロウ、スモーキーアイ)のモデルは1930年代のハリウッドスター、ノーマ・シアラー(1902-1983)やキャロル・ロンバード(1908-1942)だと言われています。

まるで『華麗なるギャツビー』(1974)に出てきそうな1920年代風カーリーボブとキャプリーヌに、1930年代風ホルターネックのトップスとフラッター・スリーブという、アールデコ・リバイバルに1960年代末からの流れであるストリート・ガールのストリート・チープ・グラマラスをミックスした所が、素晴らしいです。

本作の衣装を担当したのは、『アニー・ホール』(1977年)の衣装も担当したルース・モリー(1925-1991、1962年には『奇跡の人』でアカデミー衣装デザイン賞白黒部門にノミネート)でした。

彼女はオーストリア・ウィーンに生まれ、第二次世界大戦を前にアメリカに亡命し、1951~52年にかけてニューヨーク・シティ・オペラの衣装ディレクターを務めました。元々はブロードウェイの衣装デザイナーとしてのキャリアを持つ人です。

俳優の芝居の助けになる衣装というものの力を、オペラ、ブロードウェイで磨き上げ、最大限に選択する能力に長けている彼女がいたからこそ、アイリス・ルックは生み出されたのです。

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12才の街娼役で、アカデミー助演女優賞にノミネート

1920年代のメイクアップがデ・ニーロの存在感に押しつぶされない強烈な個性を生み出した。

演技とは実生活で自分自身が行うには決して耐えられない事をすることだ。

ロバート・デ・ニーロ

アイリス役への応募者は約250人いたと言われています。その中には、キャリー・フィッシャー、マリエル・ヘミングウェイ、ボー・デレク、キム・キャトラル、ロザンナ・アークエット、クリスティ・マクニコル、ミシェル・ファイファー、エレン・バーキン、キム・ベイシンガー、ジーナ・デイヴィス、ブルック・シールズ、デボラ・ウィンガーもいました。もしブルック・シールズが選ばれていたら、当時10才でした。

一方、オーディションとは別にスコセッシ監督がアイリス役の第一候補に選んでいたのが、メラリー・グリフィスでした。しかし、母親のティッピ・ヘドレンに断られ、第二候補として、『エクソシスト』(1973年)のリンダ・ブレアが選ばれましたが、最終的には、違う候補者から選ぶことになりました。

最終的に応募者も含め5人に絞られました。マリエル・ヘミングウェイ、ジェニファー・ジェイソン・リー、ヘザー・ロックリア、クリスティ・マクニコル、そして、ジョディ・フォスターでした。5人とも1961年もしくは62年生まれでした。

ジョディは元々スコセッシ監督の『アリスの恋』(1974)に出演したことがあるため面接を受けず、最終的にアイリス役に選ばれました。そして、ティーンエイジャーとしてはじめてアカデミー賞にノミネートされることになったのでした。

決定前にジョディの母は、脚本を読みマーティンにこう言い放ちました。「(学生服で隣に立つジョディに目をやりながら)本当に彼女がこのクレイジーな役を演じられると思うのなら、あなたの判断に任せるわ」と。

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アイリスのファッション2

ストリートガール・ルックPart1
  • ピンク地にワインレッドの花柄の半袖クロップシャツ
  • ピンクのショートパンツ
  • 2列に鋲がついた白のレザーベルト
  • 赤のスエードのウェッジヒール
  • 白地にブリムの縁が赤×黒のキャプリーヌ。ブラウンのリボン
  • ブラウンのヒッピー風コットンショルダーバッグ。フリンジ付き
  • トンボサングラス
  • スリーハートのネックレス

少女らしいスリーハートのネックレスを必ずつけているアイリス。

貞操帯のような白いベルト

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コギャル・ファッションの源流

70年代のニューヨークの治安は最悪でした。

しかし、そこにアイリスがいるからこそ、アイリスに真実味が生まれたのでした。

1995年、安室奈美恵旋風の影響を受け流行したコギャル・ファッション。その源流こそがアイリス・ルックなのでした。安室奈美恵から浜崎あゆみ倖田來未へとシフトしていくギャル文化の流れの中で、彼女たちをカリスマと崇めた10代の女子中高生達は、本人の知らぬ間に売春婦というアイリスのテイストも吸収していったのでした。

そんな中、売春行為で荒廃した心を癒そうと、自分の名前と彼氏の名前を結びつけ「フォーエヴァーラブ」などを加えたメールアドレスが流行し、友達同士でプリクラ帳を作ることやカラオケに行くことで、孤独の中、自分と向き合わなくてすむようにする術を学びました。

1997年から渋谷109で働くカリスマ店員がもてはやされます。こんなギャルになりたいという憧れが、ギャル達の表面的な美意識を高めました。そして、渋谷109は海外のファッション業界において〝バービー・モール〟と呼ばれ、注目の的となりました。

やがて、この流れは、2008年の小悪魔アゲハ旋風の中で、ギャルからアゲ嬢へとバトンタッチされていくのでした。そして、2010年代に入り、ファストファッション文化とAKB48ブームの影響を受けて終焉を迎えるにいたりました。さらに2022年現在、崩壊前夜の日本社会において復活の兆しを見せているのです。

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15才にして本職のストリートガール登場

エキストラは全てホンモノの人達でした。

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ジョディ・フォスターとガース・エイヴァリー(右隣)。

ガース・エイヴァリー

諸事情があり、その後のシーンは本物の女優が代役をつとめています。

脚本家のポール・シュレイダーが、15才のガース・エイヴァリーをイースト・ヴィレッジのストリートで見つけたとき、思わず「アイリスがそこにいる!」と叫びました。

早速彼女にお金を与え、自分の部屋に連れてきて一晩泊め、翌朝、スコセッシ監督とジョディ・フォスターを呼びました。そして、彼女からアイリス役のアドバイスを受けました。アイリスが、パンにジャムを塗り、その上にどっさりとシュガーをかけるシーンは、実際にそうしていたガースの所作を見ていたジョディ・フォスターが引用したシーンです。

ガースに対する感謝の気持ちと、これをきっかけに更正して欲しいと願うポールのトラヴィスのような気持ちから、ガース自身の映画出演も決定しました。役柄は、アイリスの友達役です。しかし、アイリスがトラヴィスのタクシーにひかれかけるシーンを撮影した後、二度と撮影現場には戻ってきませんでした(1994年にエイズでこの世を去っています)。

他のシーンにおいて、アイリスの友達役を演じたのは、代役として雇われたプロの女優であるビリー・パーキンスです。

それにしても、夜のストリートをジョディとガースが歩くシーンの、ガースのオーラは完全にジョディを食っています。ふてぶてしく、くわえタバコでガニ股で歩く姿(ヒップハガーズがカッコイイ)も、ポン引きに挨拶する仕草も、男に声をかけて去っていく時の男の頬に手をやる仕草も、半端ではなく、本職の凄味に満ちているのです。

しかも、それ以降の彼女の安否を誰も知らないというのがまた当時のニューヨークの闇を感じさせます。

そんな彼女たちからインスパイアされたファッションがアイリスに乗り移ったと考えれば、このアイリス・ルックの持つ、言葉では表現しがたいタイムレスな磁力に納得がいきます。そこには少女たちの気持ちを代弁するアイリスの姿があるからなのです。

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アイリスのファッション3

ストリートガール・ルックPart2
  • 小花柄の半袖クロップシャツ
  • 白のヒップハガーズ
  • 2列に鋲がついた白のレザーベルト
  • 赤のスエードのウェッジヒール
  • 白地にブリムの縁が赤×黒のキャプリーヌ。ブラウンのリボン
  • ブラウンのヒッピー風コットンショルダーバッグ。フリンジ付き
  • スリーハートのネックレス


作品データ

作品名:タクシー・ドライバー Taxi Driver (1976)
監督:マーティン・スコセッシ
衣装:ルース・モーリー
出演者:ロバート・デ・ニーロ/ジョディ・フォスター/シビル・シェパード/ハーヴェイ・カイテル