ボンド・ムービーの隠れた名曲「愛はすべてを越えて」
背中を向けたトレーシーの震える肩に、手をかけるボンド。そして、優しく囁く「トレイシー、誤解されるのは嫌なんだ。特に友人と・・・そして、恋人には・・・」。
その瞬間、振り返ったトレーシーの目から大粒の涙が溢れかえっていた。気丈な表情で必死にこらえながらも、溢れるその涙を円を描くように優しく指で拭うボンド。と同時に「We Have All The Time In The World」が流れます。「私達には十分すぎる時間がある」という意味の挿入歌をルイ・アームストロング(1901-1971)が歌いました。
1967年に「この素晴らしき世界(What a Wonderful World)」を全英No.1ヒット(アメリカではヒットせず)させ、時の人だったルイは、本曲のレコーディングの時にはすでに入退院を一年間繰り返しており、体調も良くない状態でした。
僅か数年後に心筋梗塞で亡くなる彼にとって、「もう残された時間はほとんどない」状態でこの歌詞を歌い切ったのです。ルイのヴォーカルに包まれながら、恋が芽生え、キラキラしている若き二人の姿が映し出されます。なぜか胸の奥底から暖かくなる曲調と、そのダミ声のギャップが、この曲を唯一無二のバラードへと昇華させています。この曲の邦題は「愛はすべてを越えて」。それもこれも含めてすべてが美しいボンド・ムービー史上最高のラブソングです。
ちなみに本曲を作曲したジョン・バリーは、1968年にジェーン・バーキンと離婚したばかりでした。
スーパー・モードなホワイト・スーツ
ポルトガルのリゾート地を反映させたかのようなサマー・リゾート・スタイルで登場するニュー・ボンド。スリムなパンツが生み出すスーパーモードなシルエットが、唯一無二の二代目ボンド・スタイルの中でも、アイコニック・スーツとも言える存在感を示しています。
ジェームズ・ボンド・スタイル3
ホワイト・スーツ
- テーラー:ディミ・メイジャー
- クリーム・リネンスーツ、ノッチラペル、短めのジャケット、深いダブルベンツ、2フロント・ボタン
- ピンクのシャツ
- ネイビー・シルクニットタイ
- クリーム・スリッポン、モンクストラップ付き
ジェームズ・ボンド・スタイル4
リングジップのゴルフウェア
- ブラウン・ブルゾン、ノーカラー、フロント・リングジップ、バイスウィング、素材はポリエステル
- 同色同素材のスラックス、ローライズ
- オレンジのポロネックニット
- ブラウンスエード・スリッポン、モンクストラップ付き
グッチのレザースーツケース
ジェームズ・ボンド・スタイル5
スリーピーススーツ
- ネイビーのスリーピース・ヘリンボーンスーツ、三つボタン、シングル、ノッチラペル、ダブルベンツ、プリーツなしのトラウザー
- ダークネイビーのニットタイ、ハーフ・ウィンザー・ノット
- フランク・フォスターの白の透けたドレスシャツ
- ブラック・キャップトゥ・ダービー
- ロレックスのサブマリーナー5513
- グッチのレザー・スーツケース
ここで今までショーン・コネリーのジェームズ・ボンドが2つボタンのスーツだったのに対して、ジョージ・レーゼンビーは3つボタンのスーツで登場します。
そして、トラウザーも英国式のフォワードプリーツのものからプリーツなしになりました。以後、ティモシー・ダルトンの4代目ボンドまでフォワードプリーツをボンドが履くことはありませんでした。
ジェームズ・ボンド・スタイル6
乗馬服
- テーラー:ディミ・メイジャー
- ハウンドトゥースチェックのレッド・オーバーチェック・ジャケット、バーリーコーン(麦粒柄)ツイード、ノッチラペル、パッド入りショルダー、深いシングルベント、3つボタン、膨れた胸部と絞られたウエスト
- ベージュ・シルク・シャツ、乗馬用のストック・タイとストックピン
- ベージュの乗馬パンツ
- ブラウンの乗馬用レザーブーツ
ジェームズ・ボンド・スタイル7
ライトブルースーツ
- テーラー:ディミ・メイジャー
- ライトブルースーツ、3つボタン、ダブルベンツ
- ダークネイビーのニットタイ、ハーフ・ウィンザー・ノット
- フランク・フォスターのホワイトドレスシャツ
- ブラック・キャップトゥ・ダービー
作品データ
作品名:女王陛下の007 On Her Majesty’s Secret Service(1969)
監督:ピーター・ハント
衣装:マージョリー・コーネリアス
出演者:ジョージ・レーゼンビー/ダイアナ・リグ/テリー・サバラス/アンジェラ・スコーラー/カトリーヌ・シェル
- 【女王陛下の007】スタイリッシュなスウィンギング・ボンド
- 『女王陛下の007』Vol.1|二代目ジェームズ・ボンド、ジョージ・レーゼンビー
- 『女王陛下の007』Vol.2|ジョージ・レーゼンビーとルイ・アームストロング
- 『女王陛下の007』Vol.3|ジョージ・レーゼンビーのモッズ・スタイル
- 『女王陛下の007』Vol.4|ジョージ・レーゼンビーとテリー・サバラス
- 『女王陛下の007』Vol.5|素晴らしかったジョージ・レーゼンビー
- 『女王陛下の007』Vol.6|女王陛下のボンドガール、ダイアナ・リグ
- 『女王陛下の007』Vol.7|ダイアナ・リグ、ルールブルーを愛するボンドガール
- 『女王陛下の007』Vol.8|ダイアナ・リグは永遠に不滅です。
- 『女王陛下の007』Vol.9|12人のボンドガール=死の天使たち