そして、本場ソビエトでも『戦争と平和』は作られた
登場人物が559人にも上るレフ・トルストイの大河小説『戦争と平和』を、ナターシャを中心としたドラマに再構成して、僅か208分にまとめ上げるという神業を監督のキング・ヴィダー(脚本も担当)は短期間の準備期間でやってのけました。
ちなみに本作のあと、1965年から67年にかけて全4部作として公開されたソ連版『戦争と平和』のナターシャ役リュドミラ・サベーリエワに関して、オードリーに瓜二つの女優を選んだという記述がよくありますが、本物のロシア人によるナターシャは、オードリー=ナターシャとはまた違った、より原作に近い雰囲気の女優が選ばれています。
そして、文学を映画化したという完成度から見ると、ソ連版の方が圧倒的に素晴らしいのですが、オードリー・ヘプバーンという女優が唯一出演した文芸大作という点において、イタリア資本のハリウッド版の本作もかなり貴重な作品であることは間違いありません。
何よりも、オードリーが最も美しかった50年代の姿が堪能できるだけで十分な作品と言えます。
ナターシャのファッション17
修道女のようなドレス
- ダークグレーのロングドレス、Vネック、白のレース
バレリーナだったオードリーを連想させる、美しいシニヨンで登場します。この写真を見ていると、美とはコンプレックスの裏返しであることがよく分かります。
ナターシャのファッション18 そして、最後に赤を着る
レッドドレス
- レッドドレス
- 白のショートグローブ
- シルバーのローヒールパンプス
- ベージュ色のボンネット
『戦争と平和』におけるオードリーの最後の衣裳は、彼女が最も嫌いだった赤色です。廃墟の中の赤が、映像にパワーを生み出しています。そして、何よりも、非常に着こなすのが難しい赤色のドレスを見事に着こなしているオードリーはさすがとしか言いようがありません。
このドレスのカラーがあればこそ、ピエールとの再会。そして、本当の愛で完結する物語にも説得力が生みだされたのでした。
クリスチャン・ルブタンの靴も、日本の着物もそうなのですが、赤というカラーは、静謐なるイメージとは正反対のどこか妖しい雰囲気を漂わせるカラーなのですが、廃墟の中でオードリーが着ていると、それは未来に向けての再生を意味する〝聖なる血〟=笑顔を取り戻したロシアの赤のように見えてくるのです。
ファッションにおけるカラーの重要性として、いかに立ち振る舞いが重要であるかをオードリーほど教えてくれる女優様はいません。
最後に撮影中のオードリー
作品データ
作品名:戦争と平和 War and Peace (1956)
監督:キング・ヴィダー
衣装:マリア・デ・マッテイス
出演者:オードリー・ヘプバーン/アニタ・エクバーグ/ヘンリー・フォンダ/メル・ファーラー/ヴィットリオ・ガスマン/ハーバート・ロム/ジェレミー・ブレット