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『噂の二人』Vol.1|ジバンシィを着ていないオードリー

オードリー・ヘプバーン
オードリー・ヘプバーン
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モードに支配されない、60年代のオードリーを見ることが出来る稀有な作品

この作品が、オードリー・ヘプバーン(1929-1993)の最後の白黒映画でした。彼女は、本作の前にファッション・アイコンとして〝不滅の存在〟となる映画「ティファニーで朝食を」に出演していました。そして、30歳を越えたこともあり、その対極に位置する、〝飾り気のない〟女優(=若さではなく演技力で魅せる)として、演技力を示すことが出来る役柄に挑戦することに決めました。

オードリー作品の中でも、『噂の二人』はかなり知名度が低い作品です。しかし、この作品ほどオードリーのファッションセンスの本質を堪能できる作品はありません。つまりそれはリアルクローズ全盛の現代において、ファッションムービーとして注目に値する作品であるということです。

特に終盤に現れるピーコートをはじめ、ウールのロングコート、カーディガン、そして、白のボタンダウンのシャツ。この作品は、オードリーが、モードに支配されていない(モードを支配していない)姿を見る唯一無二の貴重な作品と言えます。

オードリーは精神の気高い人で、可愛らしい子供のようなところがあり、今でも彼女のことを思い出すと、懐かしさがこみ上げてくる。彼女自身、非常に才能に溢れた人だったので、完璧主義に固執することも些細なことのように思われた。私は彼女のスタイルとファッション感覚が羨ましかった。彼女のそばにいると、自分が粗野でぶざまな人間に思われ、彼女にもそう言ったことがあった。オードリーは、私が悪態のつき方をおしえてくれるなら、ドレスの選び方を教える、と言うのだった。では、そうしましょうと約束したのだが、結局、果たせなかった。

シャーリー・マクレーン『マイ・ラッキー・スターズ』

オードリー・ヘプバーンとシャーリー・マクレーン。

真ん中にジェームズ・ガーナー。

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一般的にオードリー・ヘプバーンらしくないとされる作品。

オードリー自身の姿に、もとも近い役柄だったのかもしれない。

この作品は、『ローマの休日』(1953)の恩師であるウィリアム・ワイラーが、1936年に一度映画化した『この三人』を再映画化したものでした(マーサを演じたミリアム・ホプキンス(1902-1972)がマーサの叔母役で出演しています)。

それも『ベン・ハー』(1959)を大ヒットさせ、アカデミー賞(最優秀監督賞)も獲得し、誰からも注目される次作として、自身の作品のリメイクを選んだほどにワイラーにとって宿願の作品でした。当初ワイラーはキャサリン・ヘプバーンとドリス・デイの配役で考えていました。

1961年3月から7月にかけて撮影され、アカデミー賞衣装デザイン賞(白黒)にもノミネートされて本作は、『ティファニーで朝食を』とほぼ同時期に撮影された作品であり、二作品をパッケージで見たならば、女性にとっての永遠のテーマである「華やかさと清楚さ」を併せ持つためのヒントに満ち溢れた絶好の教材とも言えます。

男女共に最も魅力的に自分を演出する方法はその二面性を見せるところにあります。

ワイラーが1936年に監督した『この三人』。カレンをマール・オベロン、マーサをミリアム・ホプキンスが演じました。

ミリアム・ホプキンスは、マーサの叔母リリー役で出演しています。

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カレン・ライトのファッション1

最も保守的なオードリー・スタイル
  • レースのラッフルカラーの少しタイトなワンピース。白のラッフルカフス
  • フラットシューズ
  • アクセサリーは清楚なチェーンネックレスと腕時計のみ

ワンピースの全体が良く分かるスチール写真。

本作のキーパーソンである大富豪の未亡人を演じるフェイ・ベインター(1893-1968)。『黒蘭の女』(1938)でアカデミー賞助演女優賞を受賞しています。

ワンポイントのチェーンネックレス。

オードリーは、ワンピースの着こなしが抜群にお上手です。

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カレン・ライトのファッション2

カラーオンカラー・カーディガン
  • カラー付きカーディガン。一番下のボタンだけ締める
  • 白のボタンダウンシャツ
  • 膝下丈のウールのスカート
  • レネ・マンシーニのフラットシューズ。黑革のボウ付き。1958/59AW。
  • ウールのチェスターコート
  • シンプルなシフォンスカーフ

ジェームズ・ガーナーと言えば『大脱走』『グランプリ』です。

シャーリー・マクレーンのセーターの着こなしも素敵です。

夫のメル・ファーラーからプレゼントされ、いつも一緒だった愛犬のフェイマスは、撮影中に車に轢かれて死んでしまいます。

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『洗練された洗練』を持つ女性の中にあるもの

オードリーのプレッピースタイルは、現代の成熟した女性にも似合うことでしょう。

深いVラインのニットベストと個性的なネックラインのシャツ。

オードリー・ヘプバーンという女優は、『ローマの休日』(1953)『麗しのサブリナ』(1954)『パリの恋人』において〝若さを洗練する〟という奇跡を行い、更にこの作品を撮影した1960年代前半に『ティファニーで朝食を』『マイ・フェア・レディ』『シャレード』において、〝洗練された洗練〟の領域に到達してゆきます。

そんな最中であっても、彼女はあくまでファッション・アイコンとは関係のない女優としても何かを求める人でした。オードリーの素晴らしさは、何かを創造したい人であることに直結しています。

そもそもファッション・アイコンと呼ばれる人々は、最先端でありながら、伝統を大切にする【二面性】を持つ人々と言えます。そこが、現代のファッション・セレブやイット・ガール(ファッション誌がもてはやす)が、ハリボテの広告塔の印象、もしくは瞬間風速的な影響しか生み出さない決定的な差なのかもしれません。

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カレン・ライトのファッション3

プレッピースタイル
  • ボタンダウンの白シャツ
  • 深いVネックのニットベスト。Vの下にピン
  • プリーツスカート
  • ローヒールパンプス

スカートのプリーツが先生のようでもあり生徒のようでもあります。

ジェームズ・ガーナーは、悲劇的なシーンの撮影中にさえ私たちを笑い転げさせたことがあった」シャーリー・マクレーン。

ニットベストのピンが素敵です。

何を着ても似合うのではなく、自分の似合う服を知る人。

こういう仕草のオードリーってとても素敵です。

どの映画でも共演者に愛されたジェームズ・ガーナー。

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シャーリー・マクレーンの言葉

とても素敵なシャーリー・マクレーンのコート。

若いころに最もがっかりさせられた仕事は、ウィリアム・ワイラーの『噂の二人』だった。・・・私はかなり早い段階から、私の演じるマーサがオードリーの演じるカレンに惹かれていることがわかるように演じてみた。そのほうが観客にわかりやすいだろうと思ったからである。マーサは小さい女の子が彼女の行動を誇張して真似てみせるまで、自分の感情表現がオーバーであることに気がつかなかったのだ。その女の子の誇張の中にも多少の真実があった・・・

オードリーと私はすっかり仲良くなった。彼女が亡くなるまで、私はオードリーが大好きだった。オードリーはワイラーを信頼しており、よく私に向かって、本当に信頼できる人と一緒に仕事ができるのは素晴らしいことだ、と言ったものである。

しかし、撮影終了後、ワイラーはレズビアン的なシーンに不安を抱いたらしく、マーサがカレンに恋心を示すシーンをことごとくカットしてしまった。マーサがカレンの衣服を抱きしめたり、カレンの髪にブラシを当てたり、カレンのためにクッキーを焼いたりする場面は、結局、編集段階で削除されてしまったのだ。カレン自身はマーサが恋心を抱いていることに気づいていないのだが、観客がそのことを知っていれば、それだけ興趣をそそったはずなのだ。

シャーリー・マクレーン『マイ・ラッキー・スターズ』

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カレン・ライトのファッション4

スカートスーツ
  • オードリーらしいスカートスーツ。ダブルのボタン。上質なウール。ショールカラー
  • ローヒールパンプス
  • ウールのチェスターコート
  • アクセサリーは一切なし

オードリーとは違った輝きを放つシャーリー・マクレーン。

レザーベルトもストイックな役柄に合っています。

ロザリーを演じたヴェロニカ・カートライト(1949-)は2年後にアルフレッド・ヒッチコックの『鳥』に出演しました。

スカートスーツの生地感がよく分かる写真。

オードリーのキリンのように長い首に、ぴったりフィットする細マフラー。

コートの生地感がよく分かる写真。

この作品は、主役二人のコートが素敵な〝コートムービー〟です。

シャーリー・マクレーンのコートも素敵です。

シャーリーのコートの美しさが、よく分かる写真。

コートこそ、その人の個性を映し出す鏡です。

このショットのオードリーのコートのシルエットの美しいこと。

作品データ

作品名:噂の二人 The Children’s Hour (1961)
監督:ウィリアム・ワイラー
衣装:ドロシー・ジーキンス
出演者:オードリー・ヘプバーン/シャーリー・マクレーン/ジェームズ・ガーナー/ミリアム・ホプキンス