〝トニー・モンタナ〟という一つのアイコンが誕生した瞬間
1990年代から現在に至るまで、黒人やヒスパニック系のファッション&カルチャーに最も影響を与えた映画を三つ挙げよと言われたならば、そのうちのひとつに『スカーフェイス』が入ることは間違いないでしょう。
さらにこの作品は、ジョン・ウーの『男たちの挽歌』(1986)からはじまる香港ノワールという、香港映画に新たなるジャンルを生み出すきっかけにもなりました。
本作の主人公トニー・モンタナを演じるアル・パチーノ(1940-)には、あのマフィア界のエリートである『ゴッドファーザー』シリーズのマイケル・コルレオーネの面影は微塵もありません。
そこには、『仁義なき戦い・広島死闘編』(1973)の千葉真一か『仁義の墓場』(1975)の渡哲也のように、ただひたすら欲望の赴くままに、成り上がることだけを考えて、疾走し、そしてその成り上がり方の滅茶苦茶な分だけ、戻ってくる荒波にもみくちゃになりながらも、周りを巻き込むだけ巻き込んで、見苦しく朽ち果てる悪党の〝滅びの美学=虫けらの美学〟がありました。
それはある種の感情を揺さぶる姿でした。170㎝もないハリウッド・スターが40代を越え、肉体改造をし、キューバ人に成り切り、カメレオンのようにトニー・モンタナへと転生した姿がそこにあります。
「なぜ、礼儀正しく生きる必要があるんだ?」そんな反骨精神だけで生きているトニー・モンタナという男は、派手なアロハシャツや、ストライプのダブルスーツという見るからにチンピラそのもののスタイルと共に、21世紀を生きる男たちの「野性」を揺さぶる〝不滅の存在〟へと昇華したのでした。
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『セルピコ』『狼たちの午後』を一緒に生み出したプロデューサーと共に、アル・パチーノの新境地を開拓した作品。
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スカーフェイスのモデルは、1920年代のシカゴ・ギャング、アル・カポネ。
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1932年、ハワード・ホークス監督、ポール・ムニ主演により『暗黒街の顔役』(原題はスカーフェイス)が公開され、大ヒットしました。
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ブライアン・デ・パルマの1987年の作品『アンタッチャブル』でアル・カポネを演じるロバート・デ・ニーロ。
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同じくロバート・デ・ニーロ。
ヤルからには徹底するんだよ!!
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『スカーフェイス』の世界観を端的に示すポスター。
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このにやけっぷり!『アウトレイジ』の椎名桔平様はかなり影響を受けているはず。
「トニー・モンタナは私のお気に入りの役のひとつだ」とアル・パチーノが回想するこの男の強烈なキャラクターは、オープニングの移民局のシーンからすでに炸裂しています。
入国審査をパスするために、抜け目なく嘘八百つき、軽口を叩くこの男のファッションは、アロハシャツです。それを仰々しくパンツの中に入れ、ソフトなイメージを作ろうと狡猾に立ち回ります。
しかし、隠すことの出来ない、片眉から頬骨にかけて横切り下に伸びるスカーフェイス(顔の傷)が、彼には平穏な成り上がりを許さない運命を決定付けているようでした。彼はキューバからアメリカに「自分の分け前」を手に入れるためにやって来たのでした。
この作品は、当初、ロバート・デ・ニーロにオファーされ、ジェフ・ブリッジスが主役決定寸前だったところを、アル・パチーノが強烈なラブコールにより、その役柄を獲得した作品でした。
その肉体は、アロハシャツの上からでも、ボクサーのように引き締まっていることが認識できます。パチーノは、現役のプロボクサー“石の拳”ロベルト・デュランを雇い肉体改造していたのでした。
トニー・モンタナのファッション1
アロハシャツ
- アールデコ調のオウムが描かれたペールイエローのアロハシャツ
- 白のランニングシャツ
- 黒のレザーベルト
- 黒のトラウザー
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「オンナのアソコを舐めて、どうやってこんな傷がつく?」
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移民局にて、シャツをパンツに入れて、政治亡命者を装うが、あっさりと前科者であることがバレ、収容所送りになる。
男ならひたすら前進あるのみ!
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とにかく金持ちになりたい!と貪欲に前進する男の物語。
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実は厳寒の中で行われていた収容所シーンの撮影。
本作は、1920年代のシカゴ・ギャングのアル・カポネを題材にしたギャング映画の名作『暗黒街の顔役』(1932)のリメイク作品です。
設定をマイアミのキューバ難民に変えて、当初はフロリダ州マイアミで撮影を行う予定でしたが、キューバ系のギャングとのトラブルを恐れたマイアミ市に撮影協力を拒否され、ほとんどのシーンはロサンゼルスのハリウッド近郊で行われることになりました。
1982年11月22日から1983年5月6日まで24週間かけて撮影され、公開当時『暗黒街の顔役』への冒涜とまで酷評されたのですが、大ヒットとなりました。
そして現在においては、あらゆる年齢層の男たちを燃え上がらせる「男のバイブル」として、チャールズ・ブロンソンやスティーブ・マックイーンの映画並みにタイムレスな輝きに満ちた作品の地位を獲得しています。
トニー・モンタナのファッション2
バンダナ&アロハシャツ
- 緑×赤い鳥が描かれたアロハシャツ
- 白のランニングシャツ
- ブルーデニムジーンズ
- バンダナを頭に巻く
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アロハシャツを着た殺し屋。
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相棒のマニーを演じるのは、スティーヴン・バウアー。彼は本物のキューバ系アメリカ人でした。
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バンダナとスカーフェイス。
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パチーノは、役柄によって歩く姿勢をがらっと変えてきます。
作品データ
作品名:スカーフェイス Scarface (1983)
監督:ブライアン・デ・パルマ
衣装:パトリシア・ノリス
出演者:アル・パチーノ/ミシェル・ファイファー/スティーヴン・バウアー/ポール・シェナー
- 【スカーフェイス】トニー・モンタナ帝国とアル・パチーノ
- 『スカーフェイス』Vol.1|アル・パチーノとアル・カポネ
- 『スカーフェイス』Vol.2|アル・パチーノとアロハシャツとチェーンソー
- 『スカーフェイス』Vol.3|トニー・モンタナと世界で最も薄い高級時計
- 『スカーフェイス』Vol.4|トニー・モンタナと『白と赤の美学』
- 『スカーフェイス』Vol.5|アル・パチーノ=トニー・モンタナ愛用香水
- 『スカーフェイス』Vol.6|アル・パチーノのトニー・モンタナ伝説
- 『スカーフェイス』Vol.7|ミシェル・ファイファーのショートボブ
- 『スカーフェイス』Vol.8|ミシェル・ファイファーのディスコ・ドレス
- 『スカーフェイス』Vol.9|ミシェル・ファイファーの元祖ウェイフルック