エルヴィス・プレスリーを愛する、モテない男たちへの挽歌
はじまりはこうです。25歳くらいの童貞青年クラレンス(クリスチャン・スレーター)は、自分の誕生日を祝うために映画館で「ソニー千葉」特集上映を見て、一人過ごしています。
そんな寂しげな青年のもとに、豹柄のコートを着た、赤のボディコン姿のブロンドヘアのかわいい女の子が、ポップコーン片手に自分の後ろの席にやって来たのでした。さぁ、〝世界中のモテない〟男たちへの挽歌のはじまりです。
昨日は最高だった。俺がキミみたいな娘にモテるはずないもんな。一瞬、ちんこのついてる女かと疑ったほどだよ。
クラレンス・ウォリー
その飄々とした雰囲気に癒され、惚れたアラバマは、自分は実はコールガールだとクラレンスに伝えます。その時の彼のセリフが上記のものです。クラレンスは、流行などにはまったく興味がない、ただエルヴィス・プレスリーとソニー千葉とアメリカン・コミック(さらには、パートリッジ・ファミリー)を愛する青年です。
そのファッションの影響は、かなりの部分を、エルヴィス・プレスリーから受けており、ラブシーンで登場するベッドルームもエルヴィス一色です(ちなみにリビングルームは、一面、70年代東映映画のポスター)。
この作品は、そんな90年代のエルヴィス青年の物語であり、実に不思議な現象なのですが、キメ過ぎずにハズした方がモテる21世紀において、ワンポイント、エルヴィス・スタイルを引用するためのメンズ・バイブルになり得る作品なのです。
私はできるだけ多くのエルヴィスの映画を観て、クラレンスのように彼に恋をしようと全力を尽くしました。空想上の友達のエルヴィスは、クラレンスにとって現実のものだったのです。
クリスチャン・スレーター

場末の深夜の映画館で、かわいい女の子とソニー千葉の『激突! 殺人拳』を見ることなんて、宝くじが当たるくらい確立の低いことだ。

監督のトニー・スコットは、タランティーノに『レザボア・ドッグス』かこっちのどっちを監督したいですかと質問されました。答えは両方とも。
クラレンス・ウォリーのファッション1
ロカビリー・スタイル
- グレー・ジャケット、ノッチラペル、ロカビリー・スタイルのシルエット
- 白地に黒ストライプのオープンカラーシャツ
- ピンクのイタリアンカラーシャツ
- 黒のTシャツ
- 黒のトラウザー
- M65フィールド・ジャケット、伍長の階級章の付いたバージョン
オレはオカマじゃないけど、エルヴィスはどんな女よりも美しかった。こう思ったよ、もし万が一、男と寝ることになったら、エルヴィスと寝たいねと。
クラレンス・ウォリー、『監獄ロック』のエルヴィスが最高だと、バーでコールガールらしき女性に話す冒頭シーンにて

作中には登場しなかった同じジャケットによるスタイリング。

ジャケットは50年代のエルヴィス・プレスリーを意識したものでした。
クラレンス・ウォリーのファッション2
ルパン三世を彷彿させるスタイル
- M65フィールド・ジャケット、伍長の階級章の付いたバージョン
- 赤のスポーツジャケット、細身のノッチラペル、2つボタン
- 白地に黒いキャンプカラーのボウリングシャツ、半袖、サイドにブラックライン、前立てなしの5つのフロントボタン
- 白のTシャツ
- 黒のトラウザー
- ダークブラウンの細いレザーベルト
- ブルーレザーのダービーシューズ
- シルバーネックレス
- シルバーのIDブレスレット
実写版ルパン三世そのもののこの姿は、エルヴィス・プレスリーが活躍した1950年代のロカビリー・ファッションを意識したスタイリングです。このTPOを全く考えないM65フィールド・ジャケットとの組み合わせが、実に素晴らしいです。こんなヤツが今の日本にいたら絶対にモテるはずです。
M65フィールドジャケットの本質には、社会に適応できない男たちの情念が渦巻いているのです。

赤のジャケットに、M65フィールドジャケットのアンバランスさ。二人が結婚届を提出したシーン。

しかし、どこへ行くにもこのピンクのボックス型ハンドバッグを手放さないアラバマがとてもかわいい。

当初、クラレンス役は、スティーヴ・ブシェミになる可能性もありました。伍長の階級章が確認できます。

原作:モンキー・パンチ ©TMS
21世紀に入り完全にモード化したクラレンスシャツ

ドレクスルを殺せ!とヴァル・キルマーに命じられるクラレンス。このシーンで白シャツの造形がよく分かります。

クラレンスのチェーンリンク・ブレスレット

この白シャツには、黒のサイドラインが入っています。

ところどころに金ボタンと紋章が散りばめられている。黒襟の白ステッチも素晴らしい。
作品データ
作品名:トゥルーロマンス True Romance(1993)
監督:トニー・スコット
衣装:スーザン・ベッカー
出演者:クリスチャン・スレーター/パトリシア・アークエット/ブラッド・ピット/ゲイリー・オールドマン/デニス・ホッパー/クリストファー・ウォーケン/マイケル・ラパポート
- 【トゥルー・ロマンス】獰猛なファッションだけが生き残る
- 『トゥルー・ロマンス』Vol.1|スーパーヘビー級マフィアと戦うパトリシア・アークエット
- 『トゥルー・ロマンス』Vol.2|パトリシア・アークエットの元祖コギャル・ファッション
- 『トゥルー・ロマンス』Vol.3|ナイスボディじゃない女性の守護神 アラバマ・ウィットマン
- 『トゥルー・ロマンス』Vol.4|クリスチャン・スレーターとエルヴィス・プレスリー
- 『トゥルー・ロマンス』Vol.5|クリスチャン・スレーターとM65フィールドジャケット
- 『トゥルー・ロマンス』Vol.6|クラレンス・ウォリーのアロハシャツ
- 『トゥルー・ロマンス』Vol.7|ブラッド・ピット=なんの役にも立たない男
- 『トゥルー・ロマンス』Vol.8|ゲイリー・オールドマンの狂気