オードリーは女性の変身願望の代弁者
オードリー・ヘプバーンは、『昼下りの情事』でも、『ローマの休日』『麗しのサブリナ』『パリの恋人』に引き続き、変身する美少女を演じています。
ここでオードリーがなぜ女性にとっての永遠のファッション・アイコンになりえたのかということを検証してみると、以下の4点に集約されます。
- 15歳以上は年齢の離れている紳士との恋愛を演じ続けた
- 華麗なる変身を繰り返した
- ドレスを着る必要がある映画にたくさん出た
- アンドロギュヌス(=ボーイッシュ)の先駆け
ここで意外だと思われるのが、ボーイッシュな側面を演じるということなのですが、それは『ローマの休日』におけるショートカットにした瞬間や、『麗しのサブリナ』における「バナナ・ソング(Yes, we have no bananas)」を歌うときのショートパンツ・ルック、『パリの恋人』のビートニクルックを指します。そして、それは本作におけるこのパンツスーツ・ルックなのです。
オードリー・ヘプバーンという女優の上手さは、チャールズ・チャップリンの上手さにとてもよく似ています。それは恐るべき変身能力の高さと、そういったことをあっけらかんとやってのけるところにあるのです。
女性のためのパンツスーツ・バイブル
この作品において、歴史上はじめてクロップドパンツとジャケットという女性のためのパンツスーツのアンサンブルが人々の目に披露されました。
あまりにもファッション誌においても無視され続けて来たのですが、オードリーのこのパンツスーツ・スタイルは、時代の50年は先を進んでいたジバンシィのデザインをオードリーが見事に着こなしていると思います。つまり女性の〝パンツスーツ・バイブル〟と言っても過言ではないでしょう。
ただし、公開されてしばらくはあまりにも中性的な佇まいと奇妙な丈感のパンツにより、ほとんど触れられることのなかったファッションと言ってよいでしょう。
アリアーヌのファッション3
パンツスーツ
- デザイナー:ユベール・ド・ジバンシィ
- パンツスーツ、ジャケットの右下にチケットポケット、クロップドパンツ
- 白シャツ
- 黒のバレエシューズ
アリアーヌと真っ白のカーネーション
「初恋は、最初のハイヒールと同じで特別な感傷が生まれるもの」というオードリーの名台詞の時に着ているのがこのリトルホワイトドレスです。
「カルティエが開いてれば、何か買ったのに」「何もいらないわ」
ヴァンドーム広場沿いにあるパリ・リッツに相応しい会話です。そして、「これだけは欲しいわ」と言って、フラナガン(ゲイリー・クーパー)の胸の真っ白のカーネーションを手に取るのです。
アリアーヌのファッション4
リトルホワイトドレス
- デザイン:ユベール・ド・ジバンシィ
- 白のノースリーブドレス、ボートネック、ホワイトシルク、小さなバラ柄のプリント、バックに2つのボウ、オープンスリット
- 白のショートグローブ
- ブラックパテントフラットシューズ
- パテントレザー・ハンドバッグ
アリアーヌのファッション5
ローゲージセーター
- ブラウンのオフタートルネック・ローゲージセーター
- ブラックパンツ
幻のマリーン・ルック
ユベール・ド・ジバンシィが本作のためにデザインした幻のマリーン・ルックです。この衣装のシーンはカットされました。しかし、全く音楽大生のイメージとして違和感がありません。
靴はレネ・マンシーニ。ブラック・パテントレザー・ベルトは1956年にオードリーがエルメスで購入した私物でした。
作品データ
作品名:昼下りの情事 Love in the Afternoon (1957)
監督:ビリー・ワイルダー
衣装:ユベール・ド・ジバンシィ
出演者:オードリー・ヘプバーン/ゲイリー・クーパー/モーリス・シュヴァリエ