ボンドムービーの影の主役=ケン・アダム
60年代のボンドムービーと当時量産された亜流スパイムービーの違いとして決定的なこと。それはセット・デザインの存在感でした。ケン・アダム(1921-2016)によるボンド・ムービーのセット・デザインは、後世のインテリア・デザイナーたちに絶大なる影響を与えるほどに創造性に満ちており、モダンかつハイセンスでした。
そしてそんなセットを背景に、ジェームズ・ボンドや悪党たちは一流のワードローブを身につけるからこそ、役柄に圧倒的な説得力が生まれたのでした。
それは逆説的な意味で、ファッションには、それに相応しい場所が必要であり、ファッションは栄養分がなければ枯れていくということの証とも言えます。つまりは、素敵なセット・デザインが存在してこそ、ボンドスーツは生き生きと永遠の生命力を保つことが出来たと言うことなのです。
ケン・アダムは、『博士の異常な愛情』(1964)、『チキ・チキ・バン・バン』(1966)、『バリー・リンドン』(1975)、『英国万歳!』(1994)の美術監督も手がけ、後の二つの作品ではアカデミー美術賞を獲得しています。

スペクターのアジト

ケン・アダムのセット・デザインにおいて椅子がとても重要な役割を果たします。

ケン・アダムによるデザイン・デッサン。

MI6の会議室。

ケン・アダムによるデザイン・デッサン。
ジェームズ・ボンドのファッション2
ゴールドフィンガー・スーツ
- テーラー:アンソニー・シンクレア
- ブラウン・コーンツイード・ハッキングジャケット(乗馬用上着)、2ボタン、シングル、ナロー・ノッチラペル、シングルベント
- ライトブラウン・トラウザー、サイドアジャスター
- ターンブル&アッサーのライト・エクリュ・ボタンダウン・ドレスシャツ
- ライトブラウン・ニットタイ
- ダークブラウン・スウェード・ダービーシューズ

『007/ゴールドフィンガー』でも着ていたスーツです。

ジェームズ・ボンドのブラウンスーツは物語に緩急をつけるための役割を担っています。

全身のスーツのシルエットが見えるショット。

スーツの生地感が分かる写真。

実はジャケパン・スタイルであることが分かります。
ジェームズ・ボンドのファッション3
ダークネイビー・ポロ
- ダークネイビーのカシミヤのポロシャツ、白い3つのボタン(このポロは実は長袖で、後半のバハマのシーンで再登場します)
- ベージュのチノパン
- ロレックス・サブマリーナーRef.6538

初代ボンドは、ポロシャツをよく着ていました。

ジャネット・ロウセルは、『007/ゴールドフィンガー』にもホテルのメイド役で出演していました。

ロレックス・サブマリーナーRef.6538
オン・オフのスイッチのある男性に女性は惹かれるもの。

勢揃いするボンド・ガール達。一番左にいるのはマネーペニー。
アンソニー・シンクレアが仕立てたスーツの特徴として、
1.2フロント・ボタン
2.ナチュラル・ショルダー
3.ロープドスリーブヘッド
4.ドレープのある胸部
が挙げられます。元々復員兵のためのテーラード・スーツを作るテーラーだったため、ショーン・コネリーのような元ボディビルダーの逞しい肉体をゆったりと包み込む、優雅なシルエット作りはお手の物です。
一方で、JBのリゾート・ウェアは、男性らしい逞しい骨格を生かした(強調しすぎてはいない)健康美溢れるシルエットです。
リゾートにて、快活に女性のお尻を追いかけるボンドのフェロモン溢れる姿がどうしても憎めないのも、彼が着るリゾート・ウェアがここぞとばかりに決まり過ぎていない点にあります。ショーン・コネリー時代のボンド・スタイルの特徴は、スーツのカッコよさと、リゾート・ウェアの可愛らしさのギャップにあります。
ジェームズ・ボンドのファッション4
ネイビーブレザー
- テーラー:アンソニー・シンクレア
- ブラウンのヘリンボーンツイード・カーコート、重量感のある、ノッチラペル、3つボタン、比翼、シングルベント
- ネイビーのフランネルウールブレザー、2ボタン、シングル、ナロー・ノッチラペル、サイドベンツ
- ダークグレー・フランネルウール・トラウザー
- ターンブル&アッサーのライトブルー・ボタンダウン・ドレスシャツ
- ネイビー・シルクタイ

ミンクグローブで愛し合っていたパトリシアとのやり取りがいかにもボンドです。毎日電話するからが、30秒後には、またいつかどこかで会える日を願ってるから・・・と。

オープニングで腕にかけていたコートを着ている宣材写真。同じコートです。

アストンマーチンのカーチェイス。

ブラウンのハンドルと内装とコートのカラーが絶妙にマッチしています。

ターンブル&アッサーのシャツ。

ネイビーブレザーは精悍さよりも、安心感を与えます。

マネーペニーのピンクの秘書ルックも素敵です。

後半ドミノとカーニバル観賞するシーンでも登場します。

ネイビージャケットとスカイブルーシャツの相性の良さ。

フェリックス・ライターを演じるリク・ヴァン・ヌッター(1929-2005)は、撮影当時アニタ・エクバーグと結婚したばかりでした。
ジェームズ・ボンドのファッション5
ブラウン・スリーピーススーツ
- テーラー:アンソニー・シンクレア
- ブラウン×ブラックのモヘアが混合したウールスーツ。スリーピース、2ボタン、ナチュラル・ショルダー、ノーベント、ベストは6ボタン。パンツは少し短め
- ターンブル&アッサーのクリーム・ボタンダウン・ドレスシャツ
- ブラウンのグレナディン織りのタイ
- 黒のガセットブーツ

オールブラウン・ルックはかなり高度なファッションIQを求められます。

オールブラウンのスリーピース。

ピンク・ファッションのマネーペニーと。

ショーン・コネリーは、アンソニー・シンクレアのスーツを着て1966年のGQの表紙を飾りました。
ジェームズ・ボンドのファッション6
ピンク・ピンク・ピンク
- ローズピンクのリネン・ショートスリーブ・ボタンダウン・シャツ、キャンプカラー、胸ポケット、サイドベンツ
- ライト・ブルーのジャンセンのショーツ
- ライトブルーのキャンバス地のスリッポンシューズ
- ロレックス・サブマリーナーRef.6538

バハマのナッソーで、メインのボンドガール、クローディーヌ・オージェが登場します。

ピンク・シャツに水色ののび太パンツの絶妙すぎるバランス。シャツのサイドベンツと、ショーツのロゴ。

ジャンセンのダイビングガールのロゴ

ワルサーPPKにサイレンサーを付けて。

白人男性にのみ与えられた特権。それがピンクです。

バランスの良いリゾートルックであることがよく分かります。

ライトブルーのキャンバス地のスリッポンシューズ

スリッポンを履いた全身写真。
作品データ
作品名:007/サンダーボール作戦 Thunderball(1965)
監督:テレンス・ヤング
衣装:ジョン・ブレイディ
出演者:ショーン・コネリー/クローディーヌ・オージェ/アドルフォ・チェリ/ルチアナ・パルッツィ/マルティーヌ・ベズウィック
- 【007/サンダーボール作戦】最初から最後まで空飛ぶジェームズ・ボンド
- 『007/サンダーボール作戦』Vol.1|空を飛ぶショーン・コネリー
- 『007/サンダーボール作戦』Vol.2|ショーン・コネリーとケン・アダム
- 『007/サンダーボール作戦』Vol.3|ショーン・コネリーとダイビングウェットスーツ
- 『007/サンダーボール作戦』Vol.4|ショーン・コネリーとラグジュアリー・リゾート
- 『007/サンダーボール作戦』Vol.5|クローディーヌ・オージェという絶世の美女
- 『007/サンダーボール作戦』Vol.6|クローディーヌ・オージェ=水中銃を持つ女
- 『007/サンダーボール作戦』Vol.7|クローディーヌ・オージェとウェットスーツ
- 『007/サンダーボール作戦』Vol.8|元祖・峰不二子 ルチアナ・パルッツィ
- 『007/サンダーボール作戦』Vol.9|ルチアナ・パルッツィとレーシングスーツ