ジーン・ピーターズという魅力的な女優
実は私はこの作品を初めて見たとき、マリリン・モンローよりもジーン・ピーターズ（1926－2000）のファンになりました。彼女は『愛の泉』（1954）でも好演を見せていたのですが、これからという時に、大富豪ハワード・ヒューズと結婚し、映画界を引退してしまいました。
ちなみに二人はジーンが女優になる前から知り合っていました。ヒューズの死後、スキャンダラスな彼について彼女はインタビューで答えることは一切ありませんでした。
1945年に、オハイオ州立大学で教職に就くための学位取得を目指すかたわら、ミス・オハイオに輝いたジーンは、大学を中退し、映画界に入りました。かなりしっかりした女性で、ステレオタイプなお色気要員的な役柄を拒否していました（1940年代後半に大学に復学し、撮影の合間に学位を取得）。
「私はオハイオの農家で育てられた娘です。実家に帰ると、犬が3匹、猫が18匹、ジョセフィーヌという名のヤギ、アリババという名の子羊を飼っています。だから、パリのクチュールドレスを着て、陰口や陰謀、悪巧みなどをする女性を演じるのに違和感を感じるのです。そういうステレオタイプの役柄ばかり登場する映画ではなく、観客がまるで自分自身を見ているような作品に出演したいのです」
当初ポリー・カトラーの役は、アン・バクスター（マリリンが脇役で出演した『イヴの総て』の主演女優）が演じる予定で、マリリン・モンローより遥かに大きな役でした。しかし、アンが出演を辞退したことにより、マリリンの出番が増えることになりました。
『征服への道』（1947）のジーン・ピーターズ。
ポリー・カトラーのファッション１
50年代のアメリカン・スタイル
- もちろん！ポニーテール
- 薄ピンクのカーディガン。肩がけ
- フロントプリーツブラウス（ホワイト）
- グレーのペンシルスカート
- キャメル色の太ベルト
- グレーのハイヒールパンプス
- ブラウンのクローシュ
- グレーのハンドバッグ
- アクセサリーは一切なし
ジーン・ピーターズのファッションを見ていると、現代のファッションが50年代に回帰していることがよく分かります。
典型的なグッドガールなイメージです。カーディガンの上から襟を出しています。
にじみ出る姉さん女房の雰囲気が、当時の日本人がイメージするアメリカっぽくて良いです。
50年代のオープンカーは、日本人にとってアメリカそのものでした。
マリリン・モンローをより輝かせる存在として。
休憩しているマリリンとジーン。スカートから太ももを見せないエレガンス。
対照的な二人の女優のファッション。
二人は以前競演しており、実際に馬が合いました。同時期、「拾った女・南通りのスリ」で主役を演じていたジーンは、マリリンからアドバイスを沢山もらっていました。
ジーン・ピーターズのスカートのシルエットが素敵です。
この作品は、どうしてもマリリン・モンローだけが注目されがちですが、ストーリーの平坦さを補う役割として、ジーン・ピーターズの健全な50年代オールディーズ・スタイルは、とても重要な役割を担っていました。
スタンダード美女がいたからこそ、マリリンはより対比され、輝きを増したのです。
ポリー・カトラーのファッション２
50年代のアメリカン・スタイル②
- 薄ピンクのボタンダウンシャツ
- 白地にグレーストライプのフレアスカート
- キャメル色の太ベルト
- 白とブラウンのバイカラーパンプス
- アクセサリーは一切なし
『アメリカン・グラフィティ』に出てきそうな50年代スタイル。
ポケットに手を突っ込んでるのが、この時代の流行でした。
ポリー・カトラーのファッション３
ホワイトドレス
- ホワイトレースのシフトドレス、ノースリーブ、特殊なネックライン、バックラインも同じく
- ブラウンのサテンベルト、ボウ付き
- グレーのハイヒールパンプス
- アクセサリーは一切なしでとても健康的
ジーンは超一流の舞台俳優であるジョゼフ・コットンを尊敬していました。
大きすぎないヘアリボンがとてもキュートです。
50年代のアメリカの若者の熱気がよく伝わってきます。
ジーン・ピーターズは実際に性格の良い人としてスタジオではみんなから好かれていました。
コカコーラの瓶がとても似合っています。
全身のスタイルが分かる写真。
実はこのデイドレスは、1951年『素晴らしき哉、定年！』でマリリン・モンローが着ていたドレスでした。
『素晴らしき哉、定年！』のマリリン・モンロー。
ポリー・カトラーのファッション４
ビキニ
- 健康的なビキニスタイル、ワインレッド×ネイビーのタータンチェック
- 水玉模様のヘアリボン
アメリカン・ビューティとは、小麦肌の健康美です。
50年代に流行したビキニです。
ジーン・ピーターズは、ハリウッド式のパーティには一切参加せず、料理と裁縫を好む女性でした。
ポリー・カトラーのファッション５
グレーデイドレス
- ピンストライプのグレーデイドレス。ペタルスリーブを折り返す、オープンカラー、ベルト付き
- 薄ピンクのカーディガン。肩がけ
- グレーのハンドバッグ
- ブラウンのクローシュ
- 白とブラウンのバイカラーパンプス
- アクセサリーは一切なし
マリリン・モンローの赤と黒のファッションと対照的な色使いのジーンのファッション。
グレーのデイドレスにピンクのカーディガンのアンサンブルがとてもハイセンスです。
実際のジーンは、シャツとジーンズを好む女性でした。
全体のとても素敵なシルエットが分かる写真。
ブラウンのクローシュ
グレース・ケリーのようなヘアスタイルです。
ピンストライプの生地です。
このハンドバッグの形が素敵です。
ポリー・カトラーのファッション６
ノースリーブドレス
- ベイビーブルーのノースリーブデイドレス
- ブラックベルト、ゴールドバックル
- 白とブラウンのバイカラーパンプス
- アクセサリーは一切なし
50年代のアメリカのイメージがよく伝わってきます。
くるみボタンが沢山並んでいます。
ベルトのゴールドバックルも印象的です。
ポリー・カトラーのファッション７
ワンピース風セパレーツ
- ネイビーのワンピース風セパレーツ、ラップスカート
- ホワイト・ショートパンツ
- ショートソックスにネイビーのスニーカー
最後の衣装がとても興味深いです。一見、ワンピースに見えます。
でも実はセパレートで、スカートはラップスカートになっています。その下には健康的な白のショートパンツです。
スニーカーとルーズソックス。
スチール写真ではエスパドリーユを組み合わせています。
こちらはサンダルとの組み合わせです。
作品データ
作品名：ナイアガラ Niagara （1953）
監督：ヘンリー・ハサウェイ
衣装：ドロシー・ジーキンス
出演者：マリリン・モンロー／ジーン・ピーターズ／ジョゼフ・コットン