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【セルジュ ルタンス】アイリス シルバー ミスト(モーリス・ルーセル)

セルジュ・ルタンス
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アイリス シルバー ミスト

原名:Iris Silver Mist
種類:オード・パルファム
ブランド:セルジュ・ルタンス
調香師:モーリス・ルーセル
発表年:1994年
対象性別:ユニセックス
価格:不明

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モーリス・ルーセル唯一のセルジュ・ルタンス


この香りはシモネッタ・ヴェスプッチのために作った香りです。彼女こそが、サンドロ・ボッティチェッリのミューズであり、『ヴィーナスの誕生』のヴィーナスのモデルです。フィレンツェ一の美女とうたわれた彼女は、15歳でゲイの男性と結婚し、幸せではありませんでした。

そして、当時の上流階級の女性のように太陽の光によってではなく、寒空の下、月の光によって髪を美しいブロンドに脱色していたため、結核にかかり、23歳の若さで死んでしまいました。

セルジュ・ルタンス

セルジュ・ルタンスは、1992年に元々書店があった場所に、レ・サロン・デュ・パレロワイヤル・シセイドーをオープンしました。そのオープンに合わせ「フェミニテ デュ ボワ」を含む五つの香りが発売されました。

その2年後の1994年に発売された「アイリス シルバー ミスト」は、現在、パレ・ロワイヤル本店だけで取り扱われている「レフラコンドターブル」コレクションのひとつとなっています。現在においても、パレロワイヤル限定の香りの中で最も人気の高い香水です。

ちなみにこの香りはセルジュ・ルタンスの香りをほとんど調香しているクリストファー・シェルドレイクによるものではありません。なんと一度っきりのセルジュ・ルタンス降臨となるモーリス・ルーセルによるものでした。

トスカーナ地方では、昔からリネンをしまう戸棚に香り付けするためにアイリスの根茎が置かれていました。その風習からセルジュがインスピレーションを得て生み出されました。

「今までどのアイリスの香りにも存在しなかったほどに、爆発するアイリスを作ってください」とセルジュから依頼されたモーリスは、この香りの創造に相当苦心したらしいです(もしかしたらこの時に、セルジュとモーリスの関係が修復不可能になったのかもしれません)。

とにかくトップノートからセルジュは、爆裂するアイリスノートを希望したのでした。そのためモーリスは、天然と合成のアイリスの香料(強烈な香りのため滅多に使用されないイリバールも含め)をこれでもかというほどブレンドしていったのでした。

ちなみにアイリスの香りは、花から香料が抽出されるのではなく、根茎から香料が抽出されます。フレグランスに使用される品種はジャーマンアイリス(Iris germanica)かイリスパリダ(Iris pallida)の二種類のみです。

アイリスの根茎を許容量を果てしなく越えて使用すると、アーシィーさを突き抜けたメタリックな香り立ちに包まれます。それはもはやアイリスというよりも干し草やニンジンの香りとしか形容しようがない香り立ちとなります。

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幻想世界へと導いてくれる美しいアイリスの爆発


地球上にこの香りほど、美しいパープルカラーが一面に広がるアイリス畑の真ん中に立つ情景を再現した香りはあるでしょうか。真夜中で満月に照らしだされたアイリス畑は小高い丘にあり、その下には静かな湖畔が広がっています。

それはまるで壮麗かつ幽玄に、うっとりするほど美しい表情でアリアを歌うオペラ歌手のようでもあります。このアリアは、美しい歌声を世界に響かせるというよりは、あなたのためだけに、あなたの心に向けて歌われた非常に贅沢なアリアのようです。だからこそ、心に余裕がないと受け止めることの出来ないアリアなのです(崇高なるアイリス)。

間違った場所に天使が舞い降りたような違和感を感じさせる香りから「アイリス シルバー ミスト」ははじまります。苦みを含んだニンジンをすりおろしたようなひんやりと冷たいメタリックなアイリスです。それはまるでアイリス畑に降り注ぐ、シルバーミストの涼しい霧雨のようです。

このメタリックな感触の中に繊細なスパイス(クローブ)が冷たさを与えていることが分かります。

すぐに、甘やかにパウダリーなイリスバターが追加され香りはふんわりと柔らかくなります。ここからモーリス・ルーセルの真骨頂とも言える天然・合成を問わぬあらゆるアイリスの香料を駆使した〝芸術性〟が発揮されてゆくのです。

さらにベチバーとガルバナムが加わり、アーシィーさとモッシィーなグリーンがアイリスをより磨き上げてゆくのです。背後に漂うインセンスによって、太陽がきらめく明るさではなく、霧に包まれてゆく幻想性をより深めてゆくのです。

やがて、ずっと遠くに感じていた音が、鐘の音であることを教えてくれるように、サンダルウッドとヴァージニアシダーがまるで月明かりで照らし出されたアイリス畑のように、メタリックなアイリスに、温かい幽玄美を与えてゆきます。

月の光に呼び戻されて、アイリス畑からほのかな甘さが月に向かって進んでいくように消えてゆく余韻がなんとも言えません。

フェイスパウダーや口紅といったものが連想させるアイリスやヴァイオレットの香りに慣れている人のおでこをちょんと押してくれるような〝真のアイリス〟がそこにあります。

それは、アイリスの美しさを数式によって解き明かそうとしている偉い学者の隣に座っているような気分さえも感じさせるとても浮世離れした香りです。日常に寄り添わないアイリスだからこそ、日常から空想の世界に飛び出したい時に、もってこいの香りと言えます。

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アイリス・ラバジュール


大事な商談に望むスーツスタイルの男女が、身に纏うと、絶大なる後方支援効果を生み出せそうな香りです。極上のアイリスは、肌には乗らず、肌を侵食していくという〝香りのマタンゴ現象〟がよく理解できる香りです。

セルジュ・ルタンスのひらめきは、モロッコの古めかしい図書館で生まれました。ふとグレーのフランネルスーツを着た紳士がつけやすいフローラルのフレグランスを作りたいと思い立ったのでした。

しかし、そんな事よりも何よりも重要なのは、モーリス・ルーセルがフレデリック・マルで「ムスク ラバジュール」を創造する6年前にこの香りを生み出したということです。それは間違いなく、この時の「香りは爆発だ!(芸術は爆発だ!)」経験があればこそ、ムスクもラバジュールしたのでしょう。

そういう意味においてこの香りは、「アイリス・ラバジュール」と名付けるべき香りかもしれません。

ちなみにこの香りには、アイリスの根から分離されたイロンが使用されています。それはイオノンのような感情に訴える温かみを持つ香りではなく、メランコリーなクールな豪奢さを発散します。ちなみにイロンはかなり希少なので、シャネルの「キュイール ドゥ ルシー」など数少ない香水にしか使用されていません。

ルカ・トゥリンは『世界香水ガイド』で、「アイリス シルバー ミスト」を「アイリスの根」と呼び、「アイリスと偽者のアイリス(たいていはこっちだ)が普及するかなり前に、セルジュ・ルタンスはモーリス・ルーセルに極めつきのアイリスを作るように依頼した。どうやらルタンスはアイリスの分量を最大限にするようにしつこく迫ったらしい。」

「その中にはイリバールという滅多に使われない粗野なアイリスニトリスもあった。こうして出来上がったのは、これまでにない粉っぽさと根が香る。想像を絶する不吉なアイリスだった。」と5つ星(5段階評価)の評価をつけています。

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香水データ

香水名:アイリス シルバー ミスト
原名:Iris Silver Mist
種類:オード・パルファム
ブランド:セルジュ・ルタンス
調香師:モーリス・ルーセル
発表年:1994年
対象性別:ユニセックス
価格:不明


シングルノート:ベチバー、ムスク、アイリス、サンダルウッド、ヴァージニアシダー、ガルバナム、クローブ、インセンス、ベンゾイン