ヨーロッパの空気が、ファッション・アイコンを生み出す。
グレース・ケリー・ルック5 グレー・チャイナ風ドレス
- 茶色のコクーンシルエットのウールコート。
- くすんだグレーの七分袖のドレス。Yライン、身頃にネイビーのパイピング、プリーツスカート
- アクセサリーは一切なし
撮影は、アメリカで行われているのですが、物語の舞台は、ロンドンであり、監督のアルフレッド・ヒッチコックは、ロンドン生まれ、そして、グレース・ケリー自身もアイルランド系であり、共演のレイ・ミランドもイギリスのウェールズ出身という英国気風の中、本作は撮影されました。後の『裏窓』のソーシャリスト兼ファッション・モデル、『泥棒成金』のリヴィエラの美女といった役柄によって、グレースのイメージは、完全に洗練されたファッション・アイコンとなりました。
それは、1956年のモナコにおけるロイヤル・ウエディングにおいて神の領域にまで達するのですが、その背景には、50年代という女性も男性もまだエレガントであることが許された最後の時代であったこともプラスに作用しています。
ヒッチコック自身も60年代以降は、もはやエレガントな作品を生み出せなかったように、50年代とは、映画が神話を生み出せる時代であり、女性が女神になりえる最後の時代だったのです。だからこそ、21世紀を生きる私達にとって、特にファッション業界に関わるものにとって、この時代の空気を感じることは、「大前提」とも言えるほどに重要な事なのです。
本当のグレース・ケリー。それは、よく笑う人。
グレース・ケリーの最大の魅力は、少ない出演作の中で、様々な一面を見せているにも関わらず、ケリー・バッグやファッション雑誌などで彼女を知る現代の女性達に対しては、“クール・ビューティー”と“プリンセス”という二つのイメージの上に君臨している所にあります。
今では、彼女の動く映像を見た上で、グレースが好きになる人よりも、写真等のイメージで盲目的に崇拝する人が多いのです。それは結局のところ、現在のファッション雑誌で取り上げられるブロガーやイット・ガール的な人々が、インスタントに発生し、インスタントに忘れられていく存在にすぎないことを示す反動かもしれません。
自分自身で自分を発信する女性に対しては、もうお腹がいっぱいという空気が、どんどん女性の間で支配的になりつつあります。やはりファッション・アイコンというのは、露出しすぎると神通力が失われていくものなのです。だからこそ、グレース・ケリーやオードリー・ヘプバーン、カトリーヌ・ドヌーヴといった過去の女優やファッション・モデル、ミュージシャン達が、時代を越えたファッション・アイコンとして、時代を越えて脚光を浴ているわけなのではないでしょうか?