ココ・シャネルがデザインしなかった二着のフェザードレス
ホワイトフェザードレスとブラックフェザードレスの二着のみは、セイリグ以外の衣裳デザインを担当したベルナール・エヴァン(1929-2006)により手がけられました。
彼はヌーヴェルバーグの美術監督とも言われた人であり、ルイ・マル監督、ジャンヌ・モロー主演の『恋人たち』(1958)、ジャン=リュック・ゴダール監督の『女は女である』(1961)、ジャック・ドゥミ監督、カトリーヌ・ドヌーヴ主演の『シェルブールの雨傘』(1963)などの衣裳デザインを手がけました。

この作品で重要な役割を果たす、白と黒の2着のフェザードレス。

カラーだとあまりにも悪魔的すぎます。
女Aのファッション9
ホワイトフェザードレス
- デザイナー:ベルナール・エヴァン
- ホワイトフェザードレス
- シルバー・サンダル

フランツ・フォン・シュトゥックの絵画のようです。

このフェザードレスのフェザー以外の部分が、プリーツになっていることが分かる写真。

プードルのようなシルエットがうつくしい。

圧倒的なマダムのオーラ。超パワーショルダー。

白いフェザードレスという発想の面白さ。

それは間違いなく黒髪だからこそフィットするデザインでした。

後ろから見ると、永遠に開かない天使の翼のようです。

白鳥のように飛ぼうとする!フェザードレス。

彼女は天使?それとも悪魔?

引き寄せられる写真。そして、恐らくそれは善良ではないパワーを感じさせます。

自分の写真を並べてニムをするA。
なぜ白と黒のフェザードレスを登場させたのだろうか?

『去年マリエンバートで』を象徴する写真。

明らかに1930年代のあの作品から影響を受けたドレス。
私がアラン・レネから台本を渡された時、Aという役は、グレース・ケリーのためにあって、私のためではないと感じました。
デルフィーヌ・セイリグ(1973年の回想)
現実的かつ幻想的なシャネル・ドレスから一転して、天使と悪魔のような非現実的なフェザードレスが登場します。そうなのだ!すべてはこのためにあったのだ!
なぜアラン・レネとデルフィーヌ・セイリグは、パリのメゾンを渡り歩いた末に、シャネルの衣装を着ることに決めたのだろうか?それは、シャネルこそが、ファッション・デザイナーによるリアルクローズの中でも最も突飛ではないデザインでエレガンスを体現しており、普遍性を持っていたからです。
このシンプルなエレガンスがあればこそ、シャネルがデザインしなかった白と黒の2着のフェザードレスは、『去年マリエンバートで』に浮遊感を与える両翼(=善悪の彼岸を生み出すドレス)になり得たのでしょう。
女Aのファッション10
ブラックフェザードレス
- デザイナー:ベルナール・エヴァン
- ブラックフェザードレス
- 豪華なネックレス
- シャネルのバイカラーハイヒールパンプス

『上海特急』のマレーネ・ディートリッヒ。エルメスで特注したレザー・グローブが妖艶に輝く。

『上海特急』のマレーネのフェザードレスからインスパイアされたドレス。

それは後に東映特撮ヒーローものの悪の女王役の衣装に、大きな影響を与えることになるのでした。

このドレスが登場する〝時〟は、現実ではない〝時〟だったのだろう。

監督のアラン・レネと共に(コートが渋い)。

1961年。それはまだフランス人が空を飛べた時代。
作品データ
作品名:去年マリエンバートで Last Year in Marienbad / L’Année dernière à Marienbad(1961)
監督:アラン・レネ
衣装:ココ・シャネル
出演者:デルフィーヌ・セイリグ/ジョルジュ・アルベルタッツィ/サッシャ・ピトエフ