【シティ オブ ゴッド】
Cidade de Deus 2002年から2003年にかけて世界中で公開された一本のブラジル映画(2002年5月のカンヌ国際映画祭で初公開)が、人々に衝撃を与えました。どんな映画の中でも、最低限守られるモラルが全て突き破られた映画。あっさりと子供さえも殺されてしまい、前兆なく、突然、人々が死んでいく、改心の余地のない究極のクズ人間たちが蠢くこの作品の世界観の、振り切った修羅のパワーに世界は呆気にとられました。
特に、もはやどんな言葉もこの青年を止めることは出来ないであろう主人公の一人リトル・ゼ。彼の〝純粋悪〟っぷりにカタルシスさえも感じてしまう自分自身に、世界中の鑑賞者たちは自らに戦慄を覚えたのでした。
この作品の凄い所は〝救いようのない日常〟を見せながらも、ブラジルのリオデジャネイロに対する憧れを何故か掻き立ててくれる所にあります。あらゆる人間の中に潜む〝悪魔〟を思い出させる作品、それが『シティ オブ ゴッド』です。
ブラジル史上最高の興行収入記録を樹立(観客動員数330万人)したこの作品は、1960年代から80年代にかけて、最も危険な時期だったリオデジャネイロのファヴェーラ〝神の街〟が舞台にした、実話を基にした物語です。
監督のフェルナンド・メイレレス(1955-)は、現地のファヴェーラの子供たち2000人の中からオーディションで100人を選抜し、8ヶ月のワークショップを経て、彼らのアドリブを生かしながら作品を作り上げていきました。彼は、この作品の成功により、2016年、リオデジャネイロ・オリンピックの開会式の演出を手がけました。
あらすじ
軍事独裁下にある1960年代後半のブラジル・リオデジャネイロ。1966年1月にハリケーンが襲来し、5万人の貧困層の住人が家を失いました。この後、〝神の街〟のようなファヴェーラが政府により作られていきました。
〝神の街〟で漁師の息子として生まれたブスカペ。彼の兄マヘクは、悪友二人と共に「優しき三人組」と呼ばれる有名なチンピラでした。そんな三人が年少の少年リトル・ダイスが提案したモーテル襲撃計画を実行し、破滅の道へと進んでゆきます。結果的に、マヘクはリトル・ダイスに秘かに殺害されました。
時は過ぎ、1970年代、18歳になったリトル・ダイスは相棒のベネと共に、友人関係にあった麻薬の売人たちを片っ端から処刑し、〝神の街〟で下剋上を起こしました。そしてその名をリトル・ゼと改めたのでした。
一方、ブスカペはカメラ好きが高じて報道カメラマンとしての一歩を歩みだします。やがてベネの死により、暴走機関車のように荒ぶるリトル・ゼは、真面目な美男子の青年〝二枚目マネ〟の恋人を犯し、家族を虐殺するのでした。
〝修羅の街〟と化した〝神の街〟で、すべてを失い、復讐の鬼と化したマネとリトル・ゼの全面戦争の火ぶたが切って落とされるのでした。
ファッション・シーンに与えた影響
『シティ オブ ゴッド』とは、のび太のような短パン姿にビーチサンダルの少年たちが〝笑いながら人を殺す〟映画です。この作品には、グレース・ケリーやオードリー・ヘプバーンが私達に与えてくれるようなファッションのエレガンスも、ボンドムービーやスティーブ・マックイーン、ブラッド・ピットが与えてくれるような〝男の教科書〟の要素なども微塵も存在しません。
ただ、Tシャツに短パン、ビーチサンダル姿の青少年(?)たちが、銃器を片手に貧民窟(ファヴェーラ)を、育児放棄という言葉が生温いほどの環境の中で、文字通り駆け抜けていくのです。
そんな強烈な登場人物しか出てこないこの作品の中でも、まず間違いなく鑑賞者の印象に残る、実質的な主人公と言えるのが、リトル・ダイス=リトル・ゼ青年です。ここまで悪と負の要素がぎっしり詰まった主人公もそうそういないのですが、なぜか、この青年には得も言わせぬ磁力があります。
改心の余地のない究極のクズ人間の、振り切ったパワーとでも言いましょうか?もはやどんな言葉もこの青年を止めることは出来ない〝純粋悪〟っぷりにカタルシスさえも感じさせてしまうのです。それだけこの作品の主人公は、〝生命力〟に溢れているのです。
最近の映画でよく見る、見た目重視で、生命力のない軽い存在の悪党とは対極の存在感に満ち溢れているのです。だからこそ、これほどの〝悪の化身〟が身に纏うファッションがなぜかカッコ良く見えてしょうがないのです。
作品データ
作品名:シティ・オブ・ゴッド Cidade de Deus(2002)
監督:フェルナンド・メイレレス、カティア・ルンド
衣装:ビア・サルガド、イネス・サルガド
出演者:レアンドロ・フィルミノ・ダ・オーラ/ドゥグラス・シゥヴァ/フィリップ・アージェンセン