いよいよ、ブラッド・ピットの登場!
本当に撮影は楽しかったよ。その理由は、彼のせいで全員が殺されるからさ。
ブラッド・ピット
僅かトータルで4分間しか登場しないブラッド・ピット(1963-)。しかし、その存在感のなさが、すごい存在感を生んでいます。
そのジャンキーっぷりにマフィア(ジェームズ・ガンドルフィーニ)にさえも気を使われてしまい、「一緒にテレビでも見ないか?」と聞くが断られ、マフィアが去った後で、「憐れむような目つきで見やがって!畜生!ぶっ殺してやる。」と一人でつぶやく姿がかなりカッコいいんです。
この撮影は、ブラッド・ピットがロバート・レッドフォード監督の『リバー・ランズ・スルー・イット』(1992年10月全米公開)によってスター街道を駆け上がりはじめた時期に、2日間かけて撮影されました。すべてのセリフは彼自身が即興で考えたものでした。
デニス・ホッパーの警備員の制服
あんたシチリア人か?おれは本が好きだ。特に歴史の本がね。あんたは知ってるかどうかしらないが、シチリア人の祖先はニガーだそうだ。嘘だと思うなら調べてみるがいい。
今から何百年前も昔、シシリー島は肌の黒いムーア人に征服された。そして、ムーア人はシチリア人の女をレイプしまくったんだ。その結果、シチリア人の金髪とブルーアイは、黒い髪と黒い肌に変わったんだ。だから何百年たっても、あんたらシチリア人は体の中にニガーの血が流れてる。
だから、あんたの髪は黒くて、肌も浅黒いんだ。そう、あんたの先祖は黒人だ。あんたの祖先は、黒人とファックしてハーフを子を生んだんだ。さあ今の話が嘘か答えてみな。
クリフォード・ウォリー(デニス・ホッパー)
オレは人の嘘を見抜く天才なんだと豪語するイタリアン・マフィア、ヴィンセンツォ・ココッティ(クリストファー・ウォーケン)に対して「テメエはニガーの息子なんだ」と言い放つパパ・ウォリーを演じるデニス・ホッパー(1936-2010)がステキです。
どうせ殺されるんだったら、相手を徹底的にコケにしてやろうという姿勢なのです。
そして、このシーンの天国の扉が開かれたかのようなライティングと、抜群のタイミングで流れるレオ・ドリーブのオペラ『ラクメ』の《フラワー・デュエット》が本当に美しいです。
パパ・ウォリーの存在に真実味が生まれたのは、その前に、父と息子の和解がしっかりと描かれており、尚且つ、アラバマのピーチの味を味わったパパのお茶目さが描かれていたからでした。更に、孤独であっても愛犬と共に、しがない警備員として生きているムードが、警備会社の制服を着たホッパーから見事に漂っていたからでした。
名優とは、制服に負けない生活感を生み出せるものなのです。
クリストファー・ウォーケンの凄み
シチリア人は嘘がうまい。世界一だ。私のおやじはシチリア人の中でも世界ヘビー級並みの嘘つきだった。そんなおやじが嘘の見破り方を教えてくれた。男が嘘をつくときは、それを示すしぐさが17種類ある。ちなみに女は20種類だ。
ヴィンセンツォ・ココッティ(クリストファー・ウォーケン)
イタリアン・マフィアの相談役ヴィンセンツォ・ココッティを演じたクリストファー・ウォーケン(1943-)のスーツの着こなしが、役柄として完璧です。
ちなみにこのシーンを見て、アル・パチーノは「オレが演じたかった!」と地団駄を踏んで悔しがったと言われています。
そして、前触れもなく、ブラッド・ピットが現れる!
フロイド・ルック1
- 白のTシャツ、半袖をたくし上げる
- ベージュのスウェットパンツ
- 白のソックス
- 黄土色のスニーカー
フロイドの役柄は、すべてブラッド・ピット自身によって創造された。
フロイド・ルック2
- ラスタハット
僕は聞いたんだ、「この男はラリっていることにしていいかな?マリファナでハイになっていることにしても?」。すると、トニー・スコットが答えた「何でも好きなようにしろよ!」
ブラッド・ピット
このフロイドという役柄は、かつてブラッド・ピットの家に居候していた男をヒントにして創作されました。その男は1週間という約束で滞在して、2年間居座り、その間ずっと麻薬づけでソファからほとんど降りなかったのでした。そして、彼は公開当時、精神病院に収監されていました。
さて、この頃、ブラッド・ピットが同棲していたジュリエット・ルイスはクエンティン・タランティーノ脚本、オリバー・ストーン監督の『ナチュラル・ボーン・キラーズ』に出演する準備をしていました。
当初は、ブラッドが相手役の予定でしたが、最終的にブラッドがこのオファーを断り、3年間の同棲に終止符を打ったのでした。こうして、ブラッド・ピットの覚醒が始まるのでした。
1993年9月8日のハリウッド・プレミア
エトロのような烈しい柄シャツとブラウンのコットンパンツのカジュアルな感じが、70年代のヨーロッパの貴公子のようです。
この作品のブラッド・ピットは、以降、現在に至るまでの大きなファッションの潮流となる〝イケメンがだらしない格好をする〟美学の先駆けとなりました。それはやがて間違った形でのオーバーサイズの美学へと結びつき、ファストファッション企業の思惑によって、女性さえも巻き込み、ボロい生地のテキトーなサイズの服をオシャレに見せているつもりになって着ている勘違いファッショニスタ=プチプラ族を輩出することになったのでした。
作品データ
作品名:トゥルー・ロマンス True Romance (1993)
監督:トニー・スコット
衣装:スーザン・ベッカー
出演者:クリスチャン・スレーター/パトリシア・アークエット/ブラッド・ピット/ゲイリー・オールドマン/デニス・ホッパー/クリストファー・ウォーケン/マイケル・ラパポート
- 【トゥルー・ロマンス】獰猛なファッションだけが生き残る
- 『トゥルー・ロマンス』Vol.1|バート・レイノルズを愛する女、パトリシア・アークエット
- 『トゥルー・ロマンス』Vol.2|パトリシア・アークエットの元祖コギャル・ファッション
- 『トゥルー・ロマンス』Vol.3|ナイスボディじゃない女のためのパトリシア・アークエット
- 『トゥルー・ロマンス』Vol.4|クリスチャン・スレーターとエルヴィス・プレスリー
- 『トゥルー・ロマンス』Vol.5|クリスチャン・スレーターとM65フィールドジャケット
- 『トゥルー・ロマンス』Vol.6|クリスチャン・スレイターとオタク主導型ファッション文化
- 『トゥルー・ロマンス』Vol.7|ブラッド・ピット=なんの役にも立たない男
- 『トゥルー・ロマンス』Vol.8|ゲイリー・オールドマンの狂気