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『マイ・フェア・レディ』2|オードリー・ヘプバーンと「踊り明かそう」

オードリー・ヘプバーン
オードリー・ヘプバーン
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「私の夢は、カラー作品で白黒映画を撮ることなんだ。」J.P.メルヴィル

女性はモノトーン、男性はグレーの様式美。

前髪が残されている所に絶妙なセンスの良さを感じさせます。

『007美しき獲物たち』でも登場したアスコット競馬場のシーン。こちらは全てセットです。

この大きなハットが、ジャミロクワイやワンピースに与えた影響は計り知れない。

当時のアスコット競馬場のドレス・コードは、グレーのモーニングにシルクハットでした。一方、ヒギンズ教授はコードを無視したブラウンの3ピースのスーツにフェドーラです。

オードリーの本作におけるアイコニック・ショット。

エドワード朝時代にしてはタイトすぎるドレスです。

これだけのアイテムを絶妙に配置するセシル・ビートンの能力の高さ。

「モノトーン・ストライプの美学」の代表例。

セシルは、モディリアーニの作品をイメージしてシャッターを押した。

このドレスを着ているときはしっかりとは座れない。

セシル・ビートンによるデザイン画。

イライザ・ドゥーリトル・ルック9 マイ・フェア・レディ・ドレス
  • ホワイト×ブラック・シルクドレス。白いシルク地にレースを重ねたタイトドレス、帽子と胸と裾に配置されたストライプのリボンがポイント
  • マダム・ポーレットのヘッドドレス、唯一帽子に挿された真紅のポピーの花が全体のアクセントになる。〝カート・ホイール(車輪)〟のような格別大きいブリム
  • ホワイト・レース・グローブ
  • レネ・マンシーニの白サテンシューズ
  • エレノア・アビーの日傘

(アスコット競馬場でのシーンを撮るときのこと)おおぜいの観戦客が集まるなか、オードリーがあの豪華な衣装と髪型でテスト撮影のために姿を現した。まさにオードリー・ヘプバーンここにあり、だ。ファッション・リーダーという名声にこれほどふさわしいと思わせる瞬間はほかになく、彼女の魅力がこれほど象徴的に発揮されたことはなかったーオードリーは輝くように、あるいは少しはにかんだようにほほえみ、長いまつ毛を優雅に動かし、目を伏せ、まばたきをし、自分を魅力的に見せるあらゆるトリックを自信を持って使っていた。彼女がカメラの前でくるりとまわると、200人ものエキストラがその様子をかたずを飲んで見守った。競馬観戦用のめがねごしに自分のほうをじっと見ている何人かの人々に気づいたとき、彼女は心底、愉快そうな表情を浮かべたよ。

セシル・ビートン

本作のハイライト・シーンであるアスコット競馬場のシーンは、あっと驚く変身を遂げたオードリー・ヘプバーン扮するイライザが登場する最も重要なシーンです。そこには、女性が華やかに変身するときのごく自然な、自信に満ちた、それでいて少しはにかんだ優雅さが、画面上を支配します。

そして、このアスコット競馬場のシーンは、白と黒のモノトーンだけで支配された、かつて、ジャン=ポール・メルヴィルが渇望した「私の夢は、カラー作品で白黒映画を撮る」ことの実現でもあったのです。

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レディ・ダイアン・クーパー

レディ・ダイアナ・クーパー様。1937年、ヴォーグ。

サイレント映画女優時代のレディ・ダイアナ・クーパー。

レディ・ダイアン・クーパー、1944年。息子と共に。彼女のトレードマークであるミリタリー・キャップ姿。

舞台劇では20人だった女性エキストラが映画では100人以上に膨れ上がり、より当時(1912年)のアスコット競馬場の雰囲気を再現するために。セシル・ビートンは友人の上流社交界の女王、レディ・ダイアナ・クーパー(1892-1986)にアドバイスを求めます。そして、彼女は、その時代にアスコットで着用されたドレスや帽子をトランク一杯送ってくれたのでした。

セシルはその貴重なファッション・アーカイブを活用しようと意気込んでいました。しかし、そのために集められたエキストラの女性たちを見て唖然としました。なんとそこには、カリフォルニアのビーチからやって来たような、ピチピチした健康的な小麦肌の美女たちが集結していたのでした。そんな60年代の現代娘たちに、白と黒のアールヌーボーのドレスがマッチするはずがありません。そのためセシルはスケッチより帽子を大きくして、顔を半分以上を隠したのでした。

ドレスアップしたカリフォルニア・ガールズと誰よりも目立っているセシル・ビートン。

セシルは、1912年当時の花形のオートクチュール・デザイナー、ポール・ポワレルシールに引けをとらないドレスをアスコット・シーンに投入しました。特にイライザのドレスの美しさは圧巻であり、そこには、ただ美しいだけではない、女性美を強調する挑発的なシルエットと、個性が宿っていました。

高い襟、長い袖、細く締めたウエスト、スカートの後ろのギャザーなどエドワード朝時代のドレスの特徴が再現されつつも、社交界デビューにおいて衝撃を与えるかのごとく、男性の下心をくすぐるテイストさえも内包させているのです。いわゆる〝隙のある絶世の美女〟という構図です。このドレスのデザインが、上流階級の中に突然現れた、ストリート育ちの娘のある種の妖しさを見事に演出しています。

そして、これこそが、20世紀後半から始まるストリート・ラグジュアリーの予言でもあったのです。ラグジュアリー・ファッションの中に、突然現れた異質なストリート・ファッションが、ウイルスのようにラグジュアリーを食い潰していく様を・・・。