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美人香水100選資生堂

【資生堂】禅 ZEN(ジョセフィン・カタパノ)

美人香水100選
©Shiseido
この記事は約6分で読めます。

原名:Zen
種類:オーデコロン
ブランド:資生堂
調香師:ジョセフィン・カタパノ
発表年:1964年
対象性別:女性
価格:80ml/2,200円

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1964年、東京オリンピックの年に発売された『ZEN』

©Shiseido

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1868年の明治維新により、日本は200年以上続いた鎖国の呪縛から完全に開放され、文明開化が進んでゆきました。そんな中、1872年に福原有信氏により「資生堂薬局」が創業され、資生堂の歴史ははじまりました。

しかし、日清戦争・日露戦争・韓国併合・第一次世界大戦などを経て、日本は帝国主義化し、1940年の日独伊三国同盟により、第二次世界大戦の波に飲み込まれてゆきます。そして、1945年に敗戦を経験することになるのでした。

そんな焼け野原から見事に蘇り、東京五輪を迎えた1964年にこの香り「ZEN(禅)」は発売されました。日本国内において欧米の美しさに対する憧れがピークに達していたこの頃、資生堂は、アメリカとヨーロッパに向けて、巧妙に考えを逆転させ、東洋に対する深い関心を見事に捉えたこの香りを、資生堂としてはじめて世界に向けて発売する香水としてローンチしました。

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『フィジー』のジョセフィン・カタパノが生み出した日本の香り

秋草蒔絵歌書箪笥

絢爛たる桃山美術の傑作『高台寺蒔絵』。その一面に配された秋の草花をモダンにアレンジした漆黒のボトルデザインがとても印象的です。パッケージデザインを担当した山本武夫氏は、日本画家・小村雪岱氏に師事し、日本画や舞台美術を学んだ方です。

この香りの開発にあたり資生堂は、〝日本文化は日本人の手によって〟という狭い価値観から脱却するため、海外の一流調香師による日本のイメージを香りにしようと考えました。そして、1953年にエスティローダーの最初の香り「ユースデュー」を調香したIFFのジョセフィン・カタパノに調香を依頼したのでした。ちなみに「ZEN」の二年後の1966年に、彼女は歴史的名香ギ・ラロッシュの「フィジー」を発表することになります。

翌1965年資生堂は、ニューヨークに資生堂コスメティックス・オブ・アメリカを設立し、福原義春氏(セルジュ・ルタンスを生み出した男)が社長に就任し、アメリカ市場開拓に乗り出したのでした。一方、日本航空の機内販売品として「ZEN」は取り上げられたこともあり、欧米人の間に徐々に浸透するようになったのでした。

そして、1973年に、日本人形のような山口小夜子様と専属モデル契約(1986年まで)を結ぶことにより、「ZEN」は彼女のイメージと共に、「禅」として日本に逆輸入されるようになったのでした。ちなみに現在の「禅」は、1986年に、欧米の香りの流れに合うように改良されたものです。

以後、2000年にナタリー・ローソンにより再調香され(白ボトルになる)、2007年にミシェル・アルメラックにより再々調香されるのですが、オリジナルは今も発売され続けています。

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池の中から大きな鯉がぽんっと跳ね、禅の精神が解放される。

©Shiseido

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ルカ・トゥリンが「完璧なウッディローズ」だと絶賛したこの香りは、山口小夜子様の「禅」の広告に書き記された3つのキャッチコピーによりその世界観を明確に理解することができます。

  • あかい心 しずかに 胸に染まる
  • あかいひかり 胸にふかく千々に翔ぶ日
  • 清らかな香りほど妖しい。

美しい香りが、意味もなく、言葉もなく、ふとあらわれて消えてゆく。それが「禅」です。フレッシュでビターなベルガモットとフルーティに煌くオレンジ・ブロッサムの爽やかな風からはじまるこの香りは、西欧人に受け止められる日本の風を吹かせようと、まずは西洋人に馴染みのある香り立ちからはじまります。

すぐにビターなガルバナムと緑彩る透き通るようなヒヤシンス、さらにスパイシーなカーネーションが円やかに溶け合い、スパイシーグリーンな和音で全てを包み込んでゆきます。そして、オークモスがグリーンシプレの神秘の森へと導いてくれるのです。

神秘の苔むす森を進んでゆくと、ローズ、ジャスミン、水仙、ヴァイオレット、ミモザといった花々が囁きあう、安らかなる気持ち誘う浄土式庭園が現れるのです。どこからともなく現れる薄靄のようなパウダリーなアイリスの香りが全体を覆い、幽玄なムードを作り上げてゆきます。

真ん中には大きな池、左側には三重塔、右側には九体の阿弥陀如来像がおられる本堂があります。そして、池の中から大きな鯉がぽんっと跳ね、本堂からしめやかなお香と神木(サンダルウッドとシダー)のかおりが、スモーキーなベチバーと合わさり、赤いシプレローズに染められながら、しずかに心に染み込んでゆくのです。それはまるで薔薇の香りのする墨汁のようでもあります。

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そして、「ノンブル ノワール」の漆黒の花が開く…

©Shiseido

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「禅」が後世の資生堂の香りに与えた影響は計り知れません。ただひとつ確かなことは、オリエンタルシプレのこの香りが消えてゆく時、18年後に現れる幻の名香「ノンブル ノワール」の扉は静かに開かれたということです。

公式に記載されているミュゲ(スズラン)とガーデニアの香りについては、どちらもそのもの自体からは香料が採れない花々なので、他の花々の香りが混じり合い、二つの香りを連想させると伝えてくれているのでしょう。

それにしても、ここまで完璧に日本の精神を捉えた香りはなかなか存在しないのではないでしょうか?もしかしたらジョセフィン・カタパノは、調香にあたり、日本訪問を資生堂の招聘により果たしていたのかもしれません。それくらいにドナルド・キーンが書く日本文学の文芸評論並みに日本の本質を捉えているのです。

山口小夜子様のヴィジュアル・イメージともピッタリ一致している名香です。

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香水データ

香水名:禅
原名:Zen
種類:オーデコロン
ブランド:資生堂
調香師:ジョセフィン・カタパノ
発表年:1964年
対象性別:女性
価格:80ml/2,200円


トップノート:ヒヤシンス、ガルバナム、オレンジ・ブロッサム、ベルガモット
ミドルノート:オリスルート、カーネーション、水仙、ジャスミン、ミモザ、ヴァイオレット、ローズ
ラストノート:オークモス、サンダルウッド、シダー、ムスク、アンバー