ゲルリナーデ
原名:Guerlinade
種類:オード・パルファム
ブランド:ゲラン
調香師:ジャック・ゲラン → ジャン=ポール・ゲラン
発表年:1921年 → 1998年
対象性別:女性
価格:不明
シャリマーと一緒に生み出されたオリジナル版
1921年に「シャリマー」(1925年に発表されたが、調香自体は1921年に完成していた)とほぼ同じ時期にジャック・ゲランにより調香されたこの香りには謎が多い。
この香りの名は、先代調香師エメ・ゲランが生み出したゲランの一子相伝の秘密のレシピ〝ゲルリナーデ〟を冠したものです。
病める花々に、魔法の杖が一振りされ、ローズとジャスミンが蘇える瞬間をボトルに封じ込めるというコンセプトで生み出されたこの香りは、人間の肌を大地に見立て、花は静かに咲き、アイリスが、20世紀はじめに生きる人々を19世紀のまだローズがローズらしく、ジャスミンがジャスミンらしく咲くことが出来た時代に戻してくれるのです。
ベルガモット、ローズ、ジャスミン、トンカビーン、アイリス、バニラがブレンドされ生み出された〝ゲルリナーデ〟のベースに、ムスク、カストリウム、アンバーグリスといった天然のアニマリックな香料が見事に溶け込んでいるというこの香りを私は嗅いだことがありません。
ちなみに、この香りは、2014年よりゲラン本店の〝ホール・オブ・ミラーズ〟で匂いだけ嗅ぐことが出来ます。
幻のライラックの名香だった1998年版
「ゲルリナーデ」は、ゲラン創立170周年を記念し、1998年に四代目調香師ジャン=ポール・ゲランにより再調香され再び世に出ました(40ページの小冊子付き)。
オリジナルとは全く関連性のない香りであり、1年以上の歳月をかけて生み出された新作といってよいクオリティの作品です。ちなみに、2005年に、シャンゼリゼ通り68番地の店舗を改装し、地上3階の「メゾン・ド・ゲラン」 が完成した時に、再び限定発売されています。
「幻のライラックの名香」と呼ばれる1998年版は、ベルガモットが嗅覚をリセットさせるかのように、短い命のかがやきを迸らせるようにしてはじまります。
すぐにボードレールの『巴里の憂鬱』を手に取りたくなる気分を運んでくれる、ライラックを中心とした春から初夏にかけて咲く花々のフローラルブーケがやって来ます。それは明るく咲き誇る花ではなく、花が誘う、ほろ苦い想い出を運んで来るような非常に詩情に満ちた香りです。
実に繊細で壊れやすそうなそのフローラルブーケから、リンデンとジャスミンが時に香りを突出させることによって、その印象をますます深いものにしてくれます。心に悲しみがあると、何も感じ取ることが出来ないように調香されています。
ゲルリナーデがなくても、ゲランはどれだけゲランでありえるかを証明するような香りです。ドライダウンにおける消えて無くなりそうなほど儚いアイリスとバニラの粉雪のような甘さがとんでもなく愛おしく、なぜか涙さえも誘うのです。
ロベール・グラネがデザインしたバカラ製のボトルは、結婚式で使用されるネパール製のブロンズの花瓶からインスパイアされたものです。
フレデリック・マルの「アン パッサン」とよく比較される香りです。
ちなみにこの香りの発表会が行われた翌日の1998年6月11日に、ジャン=ポールは、300ヘクタールある自宅を10人の強盗団に襲撃され、約50億円相当の現金と宝飾品と銀製品を強奪された上に、太ももを撃たれてしまいました。
ルカ・トゥリンは『世界香水ガイド』で、「ゲルリナーデ」を「石鹸様フローラル」と呼び、「この香水には伝説のベースの名がつけられている。ブランド色を出すためにゲランのどの製品にも使われているベースだ。少し知識をひけらかすのをお許しいただければ、この名は教養のないばかさ加減がにじみでている。フランス語の音韻規則ではGuerlain の a は、派生語になっても残すことになっている。だから本来はゲルラナーデとなるべきなのだ。」
「香りはゲラン製品に共通するものがまったく入っていない。それでも心地よい石鹸様のフローラルで、品質は非常に優れている。サンザシとスズランの中間の香りがして、まったくの無害である。」と3つ星(5段階評価)の評価をつけています。
香水データ
香水名:ゲルリナーデ
原名:Guerlinade
種類:オード・パルファム
ブランド:ゲラン
調香師:ジャック・ゲラン → ジャン=ポール・ゲラン
発表年:1921年 → 1998年
対象性別:女性
価格:不明
トップノート:ライラック、ヒヤシンス、カラブリア産ベルガモット、リンデンブロッサム
ミドルノート:アイリス、ジャスミン、エジプト産ローズ、メイローズ
ラストノート:トンカビーン、マヨット産バニラ