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エルメス

【エルメス】シテールの庭(クリスティーヌ・ナジェル)

エルメス
©Paul Rousteau
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シテールの庭

原名:Un Jardin à Cythère
種類:オード・トワレ
ブランド:エルメス
調香師:クリスティーヌ・ナジェル
発表年:2023年
対象性別:ユニセックス
価格:30ml/9,460円、50ml/14,520円、100ml/20,350円
公式ホームページ:エルメス

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太陽に愛されるギリシャの〝喜びの島〟の庭

©Paul Rousteau

©Denis Boulze

船上からシテール島を見た時、丘陵にオリーブの木が広がり、木々の下にはすすきのような高い草が風に吹かれ、黄金の草原を生み出していました。その忘れがたい風景に寄り添う香りを、エルメスの新しい『庭』のひとつに加えたいと思いました。

この香りを構成するイメージのうち、実際にエッセンスとして存在するものはほとんどありませんでした。それはとても面白いチャレンジです。ローズ・エッセンスがあれば、それをボトルに入れればバラの香りになる。

しかし、オリーブのように天然のエッセンスがないものを作るときは、さまざまな材料や素材を探し、頭の中で配合を考えなければならないのです。

クリスティーヌ・ナジェル(以下、すべての引用は彼女からのもの)

2003年に発売された一本の香水が、《香水の歴史》に革命をもたらしました。それまで香水には、上流階級及び娼婦の嗜好品、もしくは、カジュアル使いできるものという二つの側面のみが存在していました。そこに、第三の側面である〝芸術性〟が加えられたのでした。

さらにエレナ自身の著作により、この香水の制作プロセスや、調香師の考えが公にされる中で、人々は、「そうなんだ!過去の香水の中にも芸術品と呼ばれるものが存在するかもしれない」と考えるようになったのでした。この香水の名を「地中海の庭」と申します。ジャン=クロード・エレナが生み出したこの香り以後、調香師たちは積極的に〝香りと旅〟を結びつけるようになったのでした。

2014年3月に、クリスティーヌ・ナジェルはエルメスの専属調香師となり、エレナ(彼は2004年から)と2年間タッグを組み、エルメスのフレグランスを調香しました。そして、2016年にエレナは退任し、クリスティーヌがエルメスの二代目専属調香師に就任したのでした。

そんな彼女にとって、何よりも大きな山、それはエレナが創造した『庭園のフレグランス』シリーズの6作目を生み出すことでした。かくして18ヶ月の歳月をかけヴェネツィア最大の英国式庭園の〝イーデンの庭園〟からインスパイアされた「ラグーナの庭」が誕生し、日本では2019年3月16日に発売されたのでした。

そして、4年の時が経ち、2015年から香水部門の社長であるアニエス・ドゥ・ヴィリエ(2020年以降は、現ビューティ部門の最高責任者であり、MAC、ロレアル、フレデリック・マルで実績を残した人)の指揮の下、2023年4月26日に発売されたのがシリーズ7作目となる「シテールの庭」です。ウッディ・アロマティックの香りは、2年半かけてクリスティーヌ・ナジェルにより調香されました。

私の目には、ギリシャは今も昔も庭であり、その土地のすべてが庭であると映りました。それは、太陽の光をいっぱいに浴びたオリーブの木が、ブロンズ色に輝く野草に囲まれ、歴史に彩られた紺碧の海に向かって傾斜している畑のイメージであり、輝く太陽の眩しい光の中で、澄んだ空の強烈な青に包まれているイメージです。

私にとって、この香りは実際の自然の再現ではなく、象徴的なものです。喜び、驚き、もちろん、輝き、なぜなら、私にとってギリシャは〝太陽〟そのものだからです。そして、快適さです。その理由は、子供のころに食べたシリアルの匂いもそこにあったからです。

2023年現在、エルメスの売上に占めるフレグランスとコスメティックの割合は4%です。
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芸術家を惹きつける島・シテール島について

シテール島

『シテール島の巡礼』アントワーヌ・ヴァトー、1717年。

私のギリシャを色で表すと、〝青、白、ブロンド〟です。地中海のブルー、建ち並ぶ家々の白い壁、そして、あちこちに生えているブロンド色に輝く背の高い枯れ草。

さらに私はそこにいることを想像して、オリーブの木の幹に触れたときの気持ちも考えてみました。それはとても力強いものです。この木はとても古いもので、撫でるとその古さを感じることができるのです。

オリーブの木が香りのバックボーンになるのはもちろんですが、この背の高いブロンド色の枯れ草の暖かさも伝えたいと思いました。それはまるであぶったシリアルや穀物のような香りがするのです。

クリスティーヌ・ナジェルが、20年以上前にギリシャをはじめて旅した時に、シテール島で見た、緑豊かでも、花が咲き誇る庭でもない、黄金色の輝く庭(地中海に面した黄金の草原)からインスピレーションを受け生み出された香り。それは2023年のエルメスの年間テーマである『驚きの発見』ともリンクしています。

何よりも興味深いのは、ギリシャへの渡航を計画していた矢先に、パンデミックに見舞われたので、クリスティーヌは、20年ぶりにシテール島に行くことは出来ず、パリのラボの中で、かつて見て感じた風景の記憶を頼りに、この香りを創造したところにあります。

私は普段、調香を画家の仕事に例える傾向があるので、このアイデアに夢中になりました。画家が風景を描こうとするとき、普通は風景の前に立ち、その風景を描きます。しかし、その風景を見て記憶し、記憶からそれを描くこともできるのです。

それはとても詩的であり、作品に魂を込めやすい気がします。記憶からそれを作り出し、その記憶を蘇らせることができるのですから。

フランスのロココ期の画家アントワーヌ・ヴァトーが1717年に制作した油彩画『シテール島の巡礼』にも描かれたシテール島(キティラ島のフランス語読み)は、古代ギリシャ神話で海の泡から生まれた愛の女神ヴィーナス(アプロディーテー)が上陸した島とされ、〝愛の島〟としてヴィーナス崇拝の中心となっており、エーゲ海の出入口に位置する地中海の島です。

ちなみにこの『シテール島の巡礼』を見たクロード・ドビュッシーが1904年に作曲したのが、『喜びの島』です。

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ピスタチオとオリーブの木と黄金の草原の香り

ピスタチオの実

©HERMES

ピスタチオといえば、普通はアイスクリームを思い浮かべますよね。もしくは、殻のついたアーモンドのようなものを思い浮かべます。

しかし、ギリシャでは、実際に新鮮なピスタチオを見ることが出来ます。それはピンク色の実をつけていてとても官能的です。とても柔らかくて、まるで果肉のようなのです。

フレッシュなピスタチオの香りを「シテールの庭」の中心に置こうと思いついたきっかけは、アーティスティック・ディレクターのピエール=アレクシス・デュマが、ギリシャでの休暇後に持ってきてくれたピンク色のフレッシュなピスタチオでした(ちなみにピエール=アレクシスの母はギリシャ人です)。

黄金色に輝く庭の香りは、太陽に愛されたグリーンなベルガモットとレモンの苦みと酸味が、フレッシュでみずみずしいピスタチオとベチバーと弾け合うようにしてはじまります。

すぐにナッツのように香ばしいオリーブツリーと、爽やかな黄金色の穀物のような、太陽に焼かれた草原の香りも加わり、とても明るく華やかでヘルシーな、心の澱みを吹き飛ばしてくれるような清潔感に包み込まれてゆきます。

やがて太陽と海風に愛された枯れ草が、焦げる瞬間のキャラメル状になった独特な香りを素肌に引き伸ばしてゆきます。そして、スモーキームスキーな幻想的な草と木の温かさがひとつになってゆきます。それはとてもロマンティックな野生を駆け抜ける愛の歓びを描き出しているようです。

とても新しい香りの体験のようです。一言で言うとドレッシングを全身で浴びるような、でもこのドレッシング、明らかに地中海に面した高級ホテルの朝食や昼食で出されるような、控えめで、素材の良さを際立たせ、ヘルシーなラグジュアリーなムードを運んでくれる香りなのです。

肌に乗せれば乗せるほど、相性がよくなる〝地中海のドレッシングに愛される香り〟です。

クリスティーヌ・ナジェルは、この香りを「太陽のような、包み込むような、優しい香り」と表現しています。

パンデミックが明けた後、(香りは既に完成していたのですが)シテール島へ20年ぶりに行きました。そして、自分の記憶が正しかったことが確認できました。

あの庭は、島だけでなく、ペロポネソス半島の至るところで、私が抱いていたアイデアや感覚が生きています。そして、その香りをギリシャ人の同僚(ビューティー部門のクリエイティブディレクターでありメイクアップアーティストのグレゴリス・ピルピリス)に振りかけたところ、「ああ、これは故郷の香りだ」と言われたのです。それは私にとって、とても幸せな瞬間でした。


ギリシャ人アーティストのエリアス・カフロス(エルメスのスカーフのデザインもかつて担当した)による外箱には、陽光を受け金色に輝きながら風にそよぐ草、ピスタチオのすがすがしいピンク、オリーブの木々の緑、背景に海の青が描かれています。

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香水データ

香水名:シテールの庭
原名:Un Jardin à Cythère
種類:オード・トワレ
ブランド:エルメス
調香師:クリスティーヌ・ナジェル
発表年:2023年
対象性別:ユニセックス
価格:30ml/9,460円、50ml/14,520円、100ml/20,350円
公式ホームページ:エルメス


シングルノート:ベルガモット、レモン、ピスタチオ、オリーブツリー、草原(イネ科)