モード色の強いニュー・マネーペニー
まずボンド・ムービーと言えば恒例の〝それだけで並みの映画が5本は作れる〟オープニングアクションシーンから始まります。舞台はイスタンブール。ダニエル・クレイグ扮するジェームズ・ボンドはトム・フォードのスーツで登場します。そんなボンドをアシストするフィールド・エージェントとしてイヴが行動を共にしています。
このイヴこそが、物語の最後に新しいマネーペニーに就任する女性です。演じるナオミ・ハリス(1976-)は、ケンブリッジ大学卒の演劇学校出の本格派女優です。彼女は、ダニー・ボイル監督の『28日後…』(2002)で助演をつとめ、『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズに出演し、知名度を上げてゆきました。
そして本作の後、『007 スペクター』『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』でもマネーペニーとして、レギュラー出演を果たすことになります。そんな彼女の母親は、ジェームズ・ボンドに縁の深いジャマイカ出身です。オープニングのアクションシーンで、<グレース・ジョーンズ並みの>女豹のような野性味を見せる一方で、スーツスタイルになると一転して知性的なムードを醸し出せる人です。
ちなみに彼女自身のマイ・フェイヴァリット・ムービーは『サウンド・オブ・ミュージック』(1965)です。性格はクソがつくほどの真面目な人らしく、お酒や美容に悪いものは、男遊びを含めて、一切摂取せず、もちろんタバコも吸わない自己管理が徹底している人です。
マネーペニーのファッション1
ワックスコットン・ジャケット
- ベルスタッフのベージュのワックスコットン・ジャケット「ニューセルシー」、バイカースタイル
- H&Mの白のタンクトップ
- オメガのシーマスター、アクア・テラ・クオーツ
- J Brandのブラックワックスコットンパンツ
- ブラックレザーベルト
- 白のスニーカー
- ネックレス

オープニングでボンドを見事にアシストするイヴこと後のマネーペニー。

マネーペニーのファースト・クローズ。ジャケットはベルスタッフです。

褐色の肌にオメガのシーマスターの無骨さがカッコいい!そして、肩には、ベルスタッフの〝羽ばたくフェニックス〟のロゴ。

ジャケットの下はホワイトタンク一枚の潔さが、マネーペニーの潔い性格を示しています。

ジャケットの袖もとのアレンジがこなれています。

スタントダブルの女性と打ち合わせするナオミ・ハリス。

動きやすい21世紀の戦闘スタイル。

三色のバランスも絶妙です。

ブラックレザーベルトが全体を引き締めています。
ナオミ・ハリスの本格的トレーニング

撮影前の射撃シーンのトレーニングでナオミが着ているレザージャケット。

このレザージャケットもとてもカッコいいです。
ニュー・マネーペニーは、今までのマネーペニーの定番ルックであるオフィス・ルック=スカートスーツで登場せず、なんと初登場は、動きやすいベルスタッフのワックスコットン・ジャケットを着て現れます。
1924年、エリ・ベロヴィッチとハリー・グロスバーグによってイギリスで創立されたベルスタッフ。そして、この頃ハリーによってエジプト産ワックスコットンを使用したジャケットが生み出されます。後にチェ・ゲバラやスティーブ・マックイーンも愛用したジャケットです。
ちなみにナオミ・ハリスは、アクションの多いこの役柄を演じるために、パーソナルトレーナーをつけて、約2ヶ月間、1日2時間、週5日ヨガ、キックボクシング、ランニング、サーキットトレーニングを行いました。 また1週間のうち1日、戦闘訓練を行い、さらに射撃訓練も行いました。

ベルスタッフの2006AWキャンペーンに登場したケイト。モス。

このジャケットもとんでもなく素敵です。
2000年代に入り、ベルスタッフのジャケットは、大作映画に登場することになります。主だった所では『M:i:III(ミッション: インポッシブル3)』(2006)『アイ・アム・レジェンド』(2007)『イースタン・プロミス』(2007)。そして、『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』(2008)の主人公が着用しています。
2017年に、本格的に日本進出を果たしたベルスタッフは、伊勢丹新宿本店メンズ館、阪急メンズ東京、大丸神戸、ギンザ シックスなど7店舗で展開していたのですが、2019年に全面撤退しています。
マネーペニーのファッション2
セクレタリー・ルック
- ホワイトブラウス、ネックラインと胸ポケットに黒のパイピング
- からし色のタイトミニスカート
- 黒のブーティ
- ネックレス

一転して知性的なスタイルで再登場するマネーペニー。

バックデザインも素敵なブラウス。

良質なブーティは、その人のモードを支配する!

シャツインが生み出すハイウエストと、肘までぎりぎりあげないロールアップ感が生み出す清潔感。
ニュー・マネーペニーが教えてくれる洗練

情熱的なムードを生み出す蛍光色の使い方。

シックな色合わせも完璧です。
ナオミ・ハリスのニュー・マネーペニー・ファッションは30代から40代の仕事の出来る女っぷりを魅せる絶好の教科書とも言えます。そのスタイリングの妙は、ロゴが一切存在しない世界の住人である優雅さです。
21世紀に入り、ボンドガールのファッションセンスが洗練されている理由は、ボンドを引き立てるためにとことんまでミニマルな美を追求しているボンドガールのルックを見ることが出来るからです。
まだまだブランドロゴをひけらかす(ベルファストのロゴ程度ならひけらかしにはならないでしょう)、チープなラグジュアリー・ブランド戦略に人々は振り回されている現状の中、ファッションの本質は、自分が広告塔になったり、レシートを貼り付けて闊歩するようなものではないことを、ボンドガールは教えてくれるのです。
マネーペニーのファッション3
ネオンカラータイトスカート
- 半そでをロールアップしたブライトオレンジのブラウス
- ブライトオレンジのタイトミニスカート
- 茶ベルト(これがポイント)
- ブラックのウェッジソール
- ネックレス

「ファッションは食べたい色で作る」の法則

女豹のような肢体を持つナオミ・ハリスと、相も変わらず素晴らしい肉体美を誇るダニエル・クレイグ。

ステキな胸元の演出は、ネックレスとブラウスの空け感によって。
マネーペニーのファッション4
シャンパンカラー・ドレス
- シャンパン・ペリドット色カクテルドレス、ワンショルダーストラップ、 シルク100%
- 『ダイ・アナザー・デイ』のドレスデザインを担当したアマンダ・ウィークリー、2011年秋冬コレクションの中からジャニー・ティマイムが選んだもの。

ボンドガールの特権。それはドレスを纏える特権。

ナオミ・ハリスを見ていると、女性の魅力はカメレオンであることがよく理解できます。

美の秘訣。定期的にドレスを着る環境に生きること。
マネーペニーのファッション5
パンツスーツ
- ピークドラペルのグレージャケット
- ホワイトブラウス
- グレーパンツ

ピークドラペルのジャケット。

ジャケットの袖のまくりあげ具合がこなれています。

しなやかな肉体にフィットしたジャケット
マネーペニーのファッション6
グレーロングコートとタイトワンピ
- グレーのロングコート、ピークドラペル
- 水色のノースリーブ・タイトワンピース

ロンドンの街並みに合うグレーのロングコート。

その下には、水色のタイトなワンピースを着ています。

生地の雰囲気がよく伝わる写真。

このマネーペニーとMのオフィスは、『007/ドクター・ノオ』のオリジナルのオフィスを再現したものです。
作品データ
作品名:007 スカイフォール Skyfall (2012)
監督:サム・メンデス
衣装:ジャニー・ティマイム
出演者:ダニエル・クレイグ/ハビエル・バルデム/ベン・ウィショー/ベレニス・マーロウ/ナオミ・ハリス