「グレた挙句が堅気になるしかしょうがないんだ」

お嬢様のようなワンピース姿で恋人の母親と初対面する新井茂子。

バカップルという死語が本当にぴったりなこの二人。

ウインクをしたり、笑顔で媚びたり、いちいち表情が魅力的なこの娘。

当時実写版サザエさんでフネを演じていた清川虹子が180度違った役柄を演じています。
母が息子に説教する。「お前みたいなアホは、さしずめギャング学校落第だね。・・・グレた挙句が堅気になるしかしょうがないんだ、おかしな話だけど」と。しかし、母は娘にこう語ります。「お前だっていざとなりゃ弟より亭主のほうが可愛いもんなんだから。あたしには正夫が一番かわいいんだよ。あの子のためだったらお前だって平気で殺すかもしれないよ」。
こういった辺りが、石井輝男の悪女の描き方の巧みさです。彼はドライに映画を作っているのですが、母性こそが悪女性の裏返しなのだと言うことを知っている人なのでした。
登場人物みんながウインクする作品
新井茂子無双

ここまで来て、この作品は、新井茂子がムードメイカーだったことを知る。

東京ジョーの恋人は金髪の外国人という分かりやすい設定。
再びモダンジャズが流れる中、踊りながら「ブラジルってたしかフランスの隣だったね。ねえフランス語教えてよ」という名言を吐く新井茂子。
この作品が東映ギャング・シリーズ(全11作)の中でも最高峰にクールな輝きを放っているのは、間違いなく『勝手にしやがれ』のジーン・セバーグとジャン=ポール・ベルモンドをベースにしたこのカップルの存在があったからこそなのです。