「人はドレスを着るべきでない、ドレスの中で生きるべきだ」ウンガロ
「お前らみたいな奴に使われて銃が泣くねえ!」グロリア
グロリアは何をしても様になる女性です。彼女には、ファッションと生き方に拘りがあります。どんな状況であっても自分のスタイルを守り通す人なのです。
だから、逃亡するために荷物をまとめている時でさえも、〝香水〟がバッグに入ってるかをまず何よりも先に気にするのです。そして、服の皺を取るために、いちいち全ての服をバスルームに出し、蒸気にあてるのです。
また寝るときは、必ずキモノガウンを着るのです。それがたとえ場末の売春婦御用達の宿であってもです。この作品は、「1980年代のハンフリー・ボガート」をイメージしてカサヴェテスによって書かれたものなのです。ドレスの中で生きる女のものがたりなのです。
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咥えタバコが似合う女グロリア・スウェンソン。
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指の皺までカッコいいグロリア。
グロリア・スウェンソンのファッション4
ブラック・パワースーツ
- エマニュエル・ウンガロの黒のサテンスカートスーツ
- 赤のキーホール・シルクブラウス
- 常にスーツケースのようなカーペットバッグ
- ベージュのオープントゥスリングバックサンダル
逆襲の時、彼女は、黒のサテンのスカートスーツを着るのです。それはマフィアに対する宣戦布告の意思表示であり、赤のシルクのブラウスでその決意を高めているのです。
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映画の中では赤のシルクのブラウスで合わせています。
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拳銃がホンモノに見えるホンモノの女。
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フィル少年は、ディスコ・ファッションです。約350人の少年の中から選ばれました。
![GLORIA](https://cahiersdemode.com/wp-content/uploads/2016/10/6682f89051e83564a25b17c634752c86-e1670886077291.jpg)
オールブラックにブロンドヘアー。まるで1940年代のフィルムノワールの世界から抜け出てきたかのようです。
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1979年撮影当時、ブロンクスの治安は最悪でした。
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惚れ惚れするほどカッコいい。
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撮影を円滑に進めるために、常に休憩中も二人は役柄の中で生きていました。
グロリア・スウェンソンのファッション5
ピンク・ジャケット
- エマニュエル・ウンガロのピンクのジャケットと同じ黒のプリーツ・スカート
- ショッキングピンクのブラウス(シルバーシルクスーツで着ていたもの)
- ベージュのオープントゥスリングバックサンダル
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スミス&ウェッソンM60を持つグロリア。
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テネシー・ウィリアムズは大絶賛し、3回も映画館で見たという。
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ハイヒールで闊歩するシーンが多いため3足この靴は履きつぶされた。
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ギャングを挑発するグロリア姐さん。
バレンシアガの最後の後継者ウンガロ
彼は自分の欲しいもの、つまり最高のものをつくるんです。作家が本を書くようにデザインする。彼は商売人ではなく、あくまでもクチュリエなんです。
カトリーヌ・ド・リムール
本作の衣装デザインをしたエマニュエル・ウンガロは1933年、フランス南部で生まれました。両親はムッソリーニのファショスト政権を逃れて20年代にフランスに移住したイタリア人で、父は小さな紳士服店を営んでいました。そこでエマニュエルは5才の時からスーツの仕立てを父から学びます。
1957年、23才でパリのモンパルナスに移り、58年からアンドレ・クレージュの推薦によりクリストバル・バレンシアガのアシスタントとして働きはじめました。
そして、1965年に、独立して、「エマニュエル・ウンガロ」をスタートします。エマニュエルは、バレンシアガと同じく、まず生地から作業して、それをもとにデザイン画を描く方法でデザインをする立体裁断の天才でした。
1973年11月28日にヴェルサイユ宮殿で、フランス対アメリカの対抗戦形式で行われた画期的なファッションショー『バトル・オブ・ヴェルサイユ』においてフランスから出場した5人が、イヴ・サンローラン、ユベール・ド・ジバンシィ、ピエール・カルダン、マルク・ボアン(クリスチャン・ディオール)、そして、エマニュエル・ウンガロでした。
一方、アメリカからの5人は、オスカー・デ・ラ・レンタ、ステファン・バロウズ、ホルストン、ビル・ブラス、アン・クラインでした。ここで、アメリカが勝利したことにより、パリモードの終焉が決定付けられたのでした。
グロリア・スウェンソンのファッション6
ラップドレス
- エマニュエル・ウンガロの黒のシルクのラップドレス。黄色のショールカラーと黄と赤の花柄
- 鼈甲のサングラス
- ベージュのオープントゥスリングバックサンダル
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最後の最後に登場する〝華〟のあるファッション。
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それまでのグロリアにはない、昔の恋人に会う女性の色気と艶やかさがあります。
うまくは言えないけれど、あの子は一緒に寝た男の中じゃ最高ね。
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漆黒の中に舞い散るイエローとレッドの花弁。
ぼくは女性に向かって、こう言いたかったんだ。女性は必ず子供を好きになる必要はない。だが女性の心の奥には子供と結びつく何かがあって、それがいい意味で、女性と男性を区別してるんだって。心の奥で子供を理解するってことは、深い本能的なものだ。一種の狂気と言えるかもしれない。
ジョン・カサヴェス
この作品の中で最も魅力的な衣装が、ラストに登場します。エマニュエル・ウンガロのラップドレスです。素晴らしい色彩感覚です。そして、このドレスを着たグロリアは、とても魅力的です。ふんわりと身体を包み込むようでいて、女性らしいボディラインを巧みに引き出すデザインです。
さて、ラストがとてもミステリアスです。フィルが墓地を訪れる時に乗ってきたイエローキャブにはナンバープレートがない。そして、もう一台、ナンバープレートのない黒い車がやって来ます。
そこから喪服を着た老婆に変装したグロリアが現れます。ナンバープレートが存在しない車の意味は何でしょうか?そして、喪服のコートの袖からは、ラップドレスが見えています。2人は生き延びたのだろうか?それとも死後の世界なのだろうか?ジーナ・ローランズのコメントはただ一言です。「この映画は、コメディよ」
美魔女なんかよりもジーナ・ローランズ
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撮影中のジョン・カサヴェテスとジーナ・ローランズ。
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自宅のフィルム保管所兼編集室。
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このふたり。ステキな関係です。
『グロリア』とは中年女性の魅力について教えてくれる〝21世紀の女たちのバイブル〟です。年をとっても若々しくありたい。50才でも30代に見せたい。息子が友達に自慢できるような母親でありたい。それは実に素晴らしいことです。
40代でも女性であることを捨てていない女性はとても魅力的です。ただし、そこには、この一文が加わります。「男に媚びず、自分らしく、痛々しい若作りもせず」。
成熟した女性の魅力とは何でしょうか?美魔女(もはやこの言葉は死語かもしれない)とは何でしょうか?若さを追求することによって、表面的なものに時間を奪われている人々のことを言うのでしょうか?それとも、内面と表面の成熟を同時に迎えつつある本当の意味で熟れている女性のことを言うのでしょうか?
ただひとつ言えることは、この映画のジーナ・ローランズには美魔女という言葉は似合わないでしょう。そんな言葉を越えたところに彼女は存在するのです。彼女はタフな役柄を演じているのですが、それ以上に中年女性の〝可愛らしさ〟を見事に演じあげているのです。中年女性の魅力とは、この〝可愛らしさ〟なのではないでしょうか。
作品データ
作品名:グロリア Gloria (1980)
監督:ジョン・カサヴェテス
衣装:エマニュエル・ウンガロ/ペギー・ファーレル
出演者:ジーナ・ローランズ