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カトリーヌ・ドヌーヴ8 『リスボン特急』(3ページ)

カトリーヌ・ドヌーヴ
カトリーヌ・ドヌーヴ
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作品名:リスボン特急 Un flic(1972)
監督:ジャン=ピエール・メルヴィル
衣装:コレット・ボード
出演者:アラン・ドロン/カトリーヌ・ドヌーヴ/リチャード・クレンナ

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アラン・ドロンとカトリーヌ・ドヌーヴの初共演作。

日本公開当時のチラシ。

メルヴィルとカルティエタンクを見せ合いするアラン・ドロン。

1970年代当時、フランス映画界を代表するスターだったアラン・ドロン(1935-)と、カトリーヌ・ドヌーヴ(1943-)の初共演が話題を呼んだ本作は、『サムライ』『仁義』といったアラン・ドロンの最高傑作を撮ったジャン=ピエール・メルヴィル(1917-1973)の遺作という悲しい一面も持ち合わせていました。

それは、アラン・ドロンが脚本を読んだ後に、メルヴィルが「刑事とギャング、どっちを演じたいかキミが選んでくれ」と提案したことからはじまりました。そして、ドロンが、はじめて刑事役を演じることになったのです。しかし、メルヴィルが最後の精魂を込めるが如く、8ヵ月も編集に費やし、商業的には成功を収めたのですが、アラン・ドロンとカトリーヌ・ドヌーヴの間に化学反応は何一つ生まれていませんでした。

さらにもう一点、一番最初にドヌーヴが着ているブラックドレスは、1971年1月、ココ・シャネル亡き後、ファッション・デザイナーとして世界の頂点に上り詰めたイヴ・サンローランによってデザインされたものでした。であるにもかかわらず、こちらもドヌーヴとの間には化学反応は生み出されていませんでした。

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1971年のイヴ・サンローラン

グリーンのフォックス・ファーコート、1971年。

当時、20歳を過ぎたばかりのパブロ・ピカソの娘パロマ・ピカソ(1949-、80年代より、ティファニーのデザイナーをつとめる)と出会ったイヴ・サンローランは衝撃を受けました。パロマは、母フランソワーズ・ジルーに買ってもらったオートクチュールの服と、自分の眼で見つけた蚤の市のヴィンテージを組み合わせた個性的な1940年代ファッションに身を包んでいました。特に、ロンドンのポートベロー・マーケットで見つけたジョーン・クロフォードの黒いクレープのドレスに、灰色の羽根つきのピンクの小さな帽子を着た彼女を見て、イヴは即座にスケッチを取ったのでした。

更に、大親友のアンディ・ウォーホルのファクトリーのドラァグ・クイーンたちの鮮やかな赤の口紅やプラットフォーム・シューズにイヴは魅了されていました。

そして、1971年1月29日に、パロマとドラァグ・クイーンと40年代のアルジェリアでの母との想い出からインスパイアされた、「リベラシオン(自由)」または「キャラント(40)」コレクションを発表しました。しかし、フランス人にとって40年代とはナチス・ドイツによる占領時代の記憶を蘇らせるものであり、ショーの途中で、怒って出て行く人まで現れ、会場は敵意に満ちたのでした。そして、イヴははじめてフィナーレに姿を見せませんでした。

ミック&ビアンカ・ジャガーのウエディング、1971年。

このコレクションは、いまではスキャンダル・コレクション=1940年代ルックと呼ばれています。このコレクションの歴史的な意味は1940年代の復興ではなく、アンダーグラウンドな存在だったドラァグ・クイーンの「悪趣味だから最高に趣味が良い」というファッションセンスをラグジュアリー・ファッション・ブランドが史上初めて取り上げたことでした。

そして、その4ヵ月後の1971年5月13日に、ローリング・ストーンズのミック・ジャガービアンカ・ジャガーが、サントロペで挙げたウエディングにおいて、二人共にイヴ・サンローランのファッションで現れました。


「私はスキャンダルを生み出したいんだ」という言葉と共に、イヴは、同年、ジャンルー・シーフよって、香水『YSL プールオム』の広告のためにヌード写真を撮影したのでした。当初イヴは、脚の間に香水のボトルを置こうとさえ考えていました。

こうして、イヴ・サンローランは、1970年代のゲイ・アイコンとして、新たなる価値観の創造の旗手となったのでした。

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カトリーヌ・ドヌーヴを食ってしまったトランスジェンダー

プランタンのショウウィンドウの前を歩くギャビー。

コールマン警部に会う時はメイクをばっちりと決めます。

豹柄のコートが素晴らしいです。

役柄は、ジャガーに乗るトランスジェンダーの街娼です。

そして、警察の内通者であり、どうやらコールマン警部が好きらしい。

毛皮のコートの下のLBDが決まっています。

ガセネタを流したと勘違いされ、愛する男に叩き出されてしまう。

演じた女性の名はヴァレリー・ウィルソン。

なぜだか分からないのですが、メルヴィルは、ドヌーヴよりも、トランスジェンダーの街娼を演じた(本職は歌手の)ヴァレリー・ウィルソンを魅力的に描いています。暗黒街の情報通でもある彼女がコールマン警部に協力しているのは、売春行為のおめこぼしという名目以上に、コールマンのことが好きだからでしょう。

結果的に愛する男に、「男に戻ってしまえ!」と叩かれ、縁を切られてしまうのです。まさに現代のトランスジェンダーが抱えている悲しい現実を70年代前半に映し出した恐るべきシーンであり、静かに去っていく彼女の姿が、ドヌーヴの最後の表情よりも脳裏に焼き付いて離れません。

この作品の中で、ただ彼女だけが、人間としての魅力をたっぷり兼ね備えた人として描かれている感じがします。