ブルー ドゥ シャネル
原名:Bleu de Chanel
種類:オード・トワレ
ブランド:シャネル
調香師:ジャック・ポルジュ
発表年:2010年
対象性別:男性
価格:50ml/13,640円、100ml/18,480円
公式ホームページ:シャネル
2010年、世界中の男と女を魅了した「青い革命」勃発。

©CHANEL

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1999年に発売された「アリュール オム」以来の、11年ぶりのシャネルのメンズ・フレグランスの新作として「ブルー ドゥ シャネル」は、2010年に発売されました。
史上初めての〝ウッディ・アロマティック〟の香りは、三代目シャネル専属調香師ジャック・ポルジュによって調香されました。女性が使用しても違和感のないパートナーと共有できるフレグランスです。
発売前夜の欧米のメンズ・フレグランス市場は、エルメスの「テール ドゥ エルメス」の独壇場でした。そんな中、その品質の良さと、魔法のような合成香料のブレンド(ノルリンバノールとアンブロキサン)により、発売と同時に「テール ドゥ エルメス」だけでなくドラッグストアに売られている模倣フレグランスまでも凌駕する売れ行きを示し、メンズ・フレグランスに「青い革命」というゲームチェンジをもたらしました。
私はこの香りが嫌いな人の主張がとても理解できます。それはシャネルが男性のために「世界で一番使いやすいフレッシュな香り」を作るというコンセプトで生み出した香りだからです。
誰からも好印象を与える香りは、誰からも好印象を与えるハンサムな男性のように、時間が経つにつれ退屈に感じてしまうきらいがあります。
クリストファー・シェルドレイク
ちなみに、この香りから、シャネルが自社栽培したサンダルウッドがはじめて使用されました。
それは絶滅の危機に瀕していた最高品質のマイソール産サンダルウッドの代替として、シャネルの研究開発ディレクター(品質管理の責任者でもある)であるクリストファー・シェルドレイクが、ニューカレドニアとバヌアツにマイソール原産のサンダルウッドをプランテーションしたものでした。

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なお「ブルー ドゥ シャネル」の名は、エルネスト・ボーにより調香され、1931年に「トリコロール・コレクション」のうちのひとつとして発売された香りから採られました。
世界で一番使いやすいフレッシュな香り

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シトラス、ペパーミント、そしてシダー、これらの香料はすべて極めて特殊な資質を備え、香りの構成は複雑で繊細であり、香りのシルエットは持続性が高く完ぺきです。地中海沿岸部の低木地帯にただよう、ドライで力強い香りを想起させながらも、その表現は詩的です。
シャネルではなにごとも単純に写実することはありません。かならずどこか抽象的で謎めいたところがあります。
ジャック・ポルジュ
シャネルのブルーは、ミッドナイトブルー。スプレーをひと吹きした瞬間、グレープフルーツとベルガモットが素肌を透かして、心に溶け込んでいくような、酸味の効いたアクアティックな爽快感からこの香りははじまります。
素晴らしいメンズ・フレグランスに共通する特徴のひとつは、柑橘類に新たな生命を与えることに成功していることです。それは料理人が、とっておきの隠し味を使用して、ひとつの食材から新たな魅力を引き出すことに成功することとよく似ています。
この香りにおいては、グレープフルーツが、ジンジャーを中心としたピンクペッパー、ナツメグ、ラベンダー、ミントといったスパイス&ハーブとブレンドされ、その恩恵を享受しています。そして渦巻くムスクとパチョリとクマリンの星雲に飲み込まれ、天空に舞い、男たちの素肌に黄金の雨を降らすのです。
すぐにノルリンバノールとアンブロキサンが、素肌に大海原を生み出してゆきます。そしてその海原をドライなシダーウッドとベチバーで作られた帆船が走ってゆきます。どこからともなくやって来た甘美なジャスミンの香りに、大地への憧れを募らせつつ、素肌は、燃える情熱で満たされてゆくのです。
それは、まさに大海原に乗り出す男のロマン、もしくは思わず駆け出したくなるビーチを目にした高揚感があふれていくようです。最後の最後に、存在感を増すサンダルウッドとインセンスの得も言われぬクリーミーな円やかさが、幽玄なる蜃気楼となり、身も心も溺れていく、世界中のほとんどの男女が魅了される心地良さを広がらせてゆくのです。
さあ、ミッドナイトブルーのタキシードを身にまとい、夜の大都会の大海原に乗り出すのです。
ノルリンバノールとアンブロキサン

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ノルリンバノールは最も素晴らしい香りのひとつであり、金と同じ価値がある天才的な分子である。非常に簡単に言えば、ノルリンバノールを嗅げば、極度の乾燥、絶対的な乾燥の香りがする。この分子自体が、五感を刺激するディズニーの乗り物なのだ。
チャンドラー・バール
「ブルー ドゥ シャネル」の「青い革命=ブルー革命」は、二つの合成香料により生み出されました。それはノルリンバノールとアンブロキサンです。
ノルリンバノール(NORLIMBANOL®)とは、フィルメニッヒ社の合成香料であり、フレッシュなトップノートと香りの持続性を高める、力強くチクチクするドライウッディなアンバーの香り立ちが特徴です。
アンブロキサン(AMBROXAN)は、合成香料アンブロキシド(Ambroxide)の商品名であり、合成香料の中でも高価です。柔らかなアンバーグリス(龍涎香)の香りを生み出し、あらゆる香りに温かみ、ボリューム、甘さを与えます。また、トップノートに拡散性と香りの持続性を高めてくれます。
「ブルー ドゥ シャネル」において、ノルリンバノールの方が優先されています。一方、後続のオードゥパルファムとパルファムではアンブロキサンが優先されています。そしてディオールの「ソヴァージュ」が約10%ものアンブロキサンを過剰摂取し、天下を奪い取るのでした。
ギャスパー・ウリエルとマーティン・スコセッシ

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キャンペーン・モデルとして、2007年に『ハンニバル・ライジング』で、若き日のハンニバル・レクターを演じ、2016年に『たかが世界の終わり』でセザール賞主演男優賞を受賞することになるギャスパー・ウリエル(1983-2022)が起用されました。キャンペーン・フィルムは〝生きる伝説〟マーティン・スコセッシにより監督されました。
名前のブルーとは裏腹にダークブルーなボトルカラーと、磁力でパチッと閉まるキャップが印象的です。
メンズ市場におけるニッチフレグランスの成功が、少量生産された、高額の商品により、香水愛好家を唸らせ、香水保管場所に置いてもらうことであるとするならば、ファッションフレグランスの成功は、大量生産された、手の届く価格帯により、フレグランスをボディスプレーのような役割で、バスルームに置いてもらうことなのです。
そういう意味においては、「ブルー ドゥ シャネル」は、一般的な男性にとって、メンズ・ファッションが存在しない敷居の高いシャネルにおいて、最も手に入れやすい、クールな〝シャネル〟ロゴのついたステイタス商品だと言えます。
香水データ
香水名:ブルードゥシャネル
原名:Bleu de Chanel
種類:オード・トワレ
ブランド:シャネル
調香師:ジャック・ポルジュ
発表年:2010年
対象性別:男性
価格:50ml/13,640円、100ml/18,480円
公式ホームページ:シャネル
トップノート:レモン、ミント、ピンクペッパー、グレープフルーツ
ミドルノート:ジンジャー、イソEスーパー、ナツメグ、ジャスミン
ラストノート:ラブダナム、サンダルウッド、パチョリ、ベチバー、インセンス、シダー、ホワイトムスク