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その他の伝説の女優たち

『ゲッタウェイ』Vol.3|アリ・マッグローとトレンチコート

その他の伝説の女優たち
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グレート・アメリカン・スタイル

アリ・マッグロー(1939-)は1991年のピープル・マガジンにおいて、世界で最も美しい50人の1人に選ばれました。彼女はパラマウント映画の伝説的な若手ヘッド・プロデューサー、ロバート・エヴァンスを虜にし、スティーブ・マックイーンさえも夢中にさせた人であり、当時の人気女優キャンディス・バーゲンと無二の大親友である70年代を代表するファッション・アイコン。しかし、日本においては、彼女のルックスは美人とはとても言い難いのです。

スコットランド系の父と、ハンガリー系ユダヤ人移民の母の間にニューヨークで生まれたアリは、大学卒業後、6年間ハーパース・バザーのフォトグラファーのアシスタントとして働くうちに、身長173cmの長身とそのスタイルの良さから、ダイアナ・ヴリーランドに薦められ、ヴォーグでモデル活動(週54ドル)することになります。

そして、1968年に、映画デビューします。『さよならコロンバス』(1969)、アカデミー主演女優賞にノミネートされた『ある愛の詩』(1970)ととんとん拍子にヒット作の主演を飾り、本作で、スティーブ・マックイーンと共演することになります。

この作品がきっかけとなり、1973年8月31日、マックイーンと結婚します(1978年離婚)。一方、前夫は、『ゴッドファーザー』などをプロデュースしたロバート・エヴァンスで、彼とは1969年10月に結婚し、1973年6月に離婚しています(マックイーンとの恋愛が原因)。エヴァンスは、アリを引き止めるために、『華麗なるギャツビー』(1974)のデイジー役と、『チャイナタウン』(1974)のエヴリン役を与えようとしたと言われています。

つまるところ、アリ・マッグローという人は、1970年代初めにおいて最もモテるアメリカン・ガールだったのです。そんな彼女のモテ・エッセンスを学ぶことは、現代女性にとって決して無駄なことではないでしょう。なぜなら今、メディアに溢れている女性は、どうも作られた偶像の匂いがする深みのない見せ掛けの美人ばかりだからです(没個性)。

嗚呼・・・女性は、いつからこうも内面を捨てて、アンチエイジングや若さのみを売り物にする薄っぺらな玩具に成り果てたのでしょうか?

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70年代を象徴するブロンズ肌美人=アリ・マッグロー

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大胆すぎる胸元。夫ドクを出所させるために、有力者に色仕掛けするキャロル。

スティーブ・マックイーンが初対面で夢中になったというアリ・マッグローのブロンズ肌。肉体は細身ですが、走る姿などの身のこなしからは、相当な運動神経の良さが垣間見えます。まさにしなやかな獣のような肉体です。

彼女のブロンズ肌の美脚もそうなのですが、同色のスエードコートも含めて、ブラックスーツのマックイーンとの見事な色彩的対比を生み出しています。

寡黙なアメリカ版極道の妻キャロル。最近つとに多いギャーギャー自己主張の激しいアメリカ女性タイプではない、アラン・ドロンの『サムライ』の女性版のような役柄が、マックイーンとの相性を見事に高めています。

間違いなくこのコンビは『俺たちに明日はない』(1967)のボニー&クライドに匹敵する犯罪者カップルです。

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キャロル・マッコイ スタイル1

悩殺ワンピース
  • ドレープの美しい白のシルクジャージーブラウス、イタリアンカラー付きVゾーンで、デコルテ強調
  • 白のギャザーミニスカート
  • 金のチェーンベルト
  • ダークブラウンのエディターバッグのようなバッグ
  • キャラベルの腕時計
  • 前夫ロバート・エヴァンスよりプレゼントされたカルティエのラブ・ブレスレット

「テキサス中の有力者と寝ることになっても、あなたを刑務所から出してあげるわ!」キャロル・マッコイという女性が結婚する前にしていた仕事は、ストリッパーのような仕事だったのではないでしょうか?

しかし、若い頃に、屈辱を味わいながら生き延びた女性にしか持ち得ない逞しさがあります。

日本の仁侠映画にも通じるガッツのある極妻キャロル。

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こういった女の価値を貶めるファッションが、より彼女の屈辱感を高めます。

カルティエのラブ・ブレスレット

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キャロル・マッコイ スタイル2

プロデューサー巻きルック
  • ベージュのセーターをプロデューサー巻き
  • 白のブラウス(ルック1と同じ)
  • ベージュのミニスカート
  • ローヒールパンプス
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当初、キャロン役は、シビル・シェパード→ダイアン・キャノンで考えられていた。

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こういう爽やかなファッションもドンピシャに似合います。

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世に溢れるトレンチコートに物申します

よく女性誌に載っているトレンチコート・ファッションの代表的な写真がこれです。

確かにトレンチコートを着れば、女性は二倍増しに見えます。しかし、ファストファッションや、OEM生産において、コスト削減の中で作り上げられたトレンチコートは、もはや外見だけがトレンチコートであって、実際のところは、貧相な布切れになってます。

ここでは着心地よりも、見た目という最低ラインの基準で生産されているのですが、生地が悪くて、ちょっと座っただけで、皺だらけになってしまう死体のようなトレンチコートです。これは的確な表現をすれば、ボロボロのクロックスを履いている人並みに惨めなのです。

一方、見た目の最低ラインをクリア出来ていても着心地が良くなければ、トレンチコートとしての機能を果たしません。ファッションは、自分を裏切ることも出来れば、自分を表現することも出来ます。

そして、トレンチコートほど、その人のファッションIQの物差しがわかりやすいアイテムはありません。自分を裏切る死体のようなトレンチコートを着ている人と、生命力溢れるトレンチコートを着ている人とでは、どちらの女性っぷりが上がるかは言うまでもありません。そんなトレンチコートの中でも上級アイテムと言えるのが、スエードのトレンチコートなのです。

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キャロル・マッコイ スタイル3

スエード・トレンチコート
  • ブラウンスエードのトレンチコート、高い衿と狭い肩幅とタイトなシルエット
  • 濃いベージュのウエスタンブラウス
  • ダークブラウンのパンツ
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70年代らしい大きな襟のスエードのトレンチコート。

銃の扱い方を教えるマックイーン。自然な銃の扱いにアリは6週間かかった。1972年5月15日。

スエードのトレンチコートは、今では一歩先をいくアイテムです。

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サム・ペキンパーはアリ・マッグローの資質を見抜いていた

ゲッタウェイの始まり!さぁ、サファリジャケットを着て狩りから逃れよう!

私は自分の演技に我慢ならなかった。映画自体はよかったけど、自分自身を好きになれなかったの。見ているのさえつらかった。

アリ・マッグロー

アリ・マッグローは、喜怒哀楽の表情が美しくないと見抜いたサム・ペキンパーは、彼女に対する演出を“静”を中心にしたものに切り替えました。それが結果的にマックイーンの“静”の魅力と見事な調和を生み出すことになりました。

それは銃撃戦の白煙の中から、出てくるブロンズの美脚も含めてです。この作品は、明確に1970年代に作られたハードボイルド・ムービーなのです。

悪党同士の戦いの中に身を置く女性は多くを語らない方が、クールで格好良いのです。ましてや、“キング・オブ・クール”マックイーンの妻の役柄であるならば尚更です。

特に、ごみ収集車に隠れ、ごみの山の中で、お互いの愛を取り戻すシーンにおける二人の感情が高まるシーンは実に素晴らしいです。“捨てる社会”であるアメリカの中で、二人の愛だけは捨てずに、お互いの愛情を拾い集め合い、メキシコへと立ち去るのでした。

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キャロル・マッコイ スタイル4

サファリ・ルック
  • ベージュのベルト付きホルストン風サファリジャケット、実用的なスカートスーツ
  • Aラインのフレアスカート
  • ブラウンのローヒールパンプス

70年代前半に、イヴ・サンローランを中心にサファリ・ルックが大流行しました。

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この映画は“ハシルオンナ”の映画です。

アリだけを拡大してみよう。

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カモシカのように躍動するアリ。男の銃撃戦の中から現れるブロンズ肌の美脚。

この作品はある意味究極の夫婦愛の物語です。

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スエードを制するもの、女性美を制す

ハーパース・バザー。1971年。

ハーパース・バザー。アリ・マッグロー、1971年。

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本作のリッチヒッピースタイルは、フリーダ・ジャンニーニグッチの2015SSにも影響を与えました。

フランス語である“スエード”の名の由来は、元々スウェーデンから来ており、スウェーデンで考案された加工技術を使った手袋がフランスで流行したことからスエードと呼ばれるようになりました。もともとは子羊の皮を、クロムでなめし内側からサンドペーパーで磨いて起毛させていましたが、現在では、子牛が主流となっています。

このスエードで作られたジャケットやコートをファッションに取り入れることは、1970年代に流行したリッチヒッピースタイルをファッションに取り入れることであり、相当なファッションセンスを問われます。だからこそ、スエードをファッションの中に取り入れる人は、新たなる次元に自分自身の女性美を引き上げた人という印象を用意に人々に与えるのです。まさに圧倒的な存在感を、派手さではなく洗練によって示すアイテムです。

作品データ

作品名:ゲッタウェイ The Getaway (1972)
監督:サム・ペキンパー
衣装:レイ・サマーズ
出演者:スティーブ・マックイーン/アリ・マッグロー