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【グッチ】ラッシュ(ミシェル・アルメラック)

グッチ
©GUCCI
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ラッシュ

原名:Rush
種類:オード・トワレ
ブランド:グッチ
調香師:ミシェル・アルメラック
発表年:1999年
対象性別:女性
価格:不明

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「カシミアを着た狼」アルノーに狙われたトム・フォード。

©GUCCI

1999年当時のグッチのクリエイティブ・ディレクターは、トム・フォードでした。1994年にディレクター就任以来、グッチは奇跡の復活を遂げ、未曾有の黄金時代を迎えました。そんな世紀末に、彼は一本の香水をプロデュースしたのでした。

ラッシュ」という名のその香りの意味は、「急ぐ、猪突猛進する」です。しかし、真のコンセプトは、1980年代にアメリカで流行したドラッグから来ていました。つまりは、〝絶対に夢中になってはいけない悪魔の香水〟を彼は作りたいと渇望したのでした。

ラッシュとはポッパーズ(興奮剤)の有名なブランドで、窒素化合物のガスで官能的な能力を促進すると言われている。そして、それは60年代の終わりごろからアメリカのゲイ社会共通のグッズとして流通していた。

そして、危険なムード漂うこの香りが生み出された舞台裏でも、仁義なき戦いが繰り広げられていたのでした。さあここで一人の男の登場をお願いしましょう。この男は、「カシミアを着た狼」と呼ばれるLVMHグループの総帥ベルナール・アルノーです。

アルノーはかつて1994年にグッチは投資する価値もない企業だと見切りをつけていました。しかし、1999年当時、トム・フォードとCEOドメニコ・デ・ソーレにより、グッチはルイ・ヴィトンと張り合うことの出来る人気ファッション・ブランドの地位に駆け上っていたのでした。

1999年1月12日に、アルノーは大きな勝負に出ました。あろうことかミラノのジョルジオ・アルマーニのメンズ・ショーに乗り込み、ランウェイの最前列のど真ん中に陣取ったのでした。そして、デ・ソーレを呼びつけ、アルマーニと三者会談を行い、LVMH傘下に、アルマーニとグッチを引き込もうとしたのでした。

さらに、アルノーは、デ・ソーレとトム・フォードを仲違いさせようとルール無用のアプローチを繰り返しました。そんな権謀術が渦巻く真っ只中に産声をあげた「ラッシュ」、それはトムの「赤い香りが欲しい!」という号令によって生み出された香りでした。シプレフルーティの香りとしてミシェル・アルメラックにより調香されました。

「さあ、急いで美を手に入れるのよ!」と言わんばかりに、整形、豊胸、露出過多なファッションに身を包む女性のための香り。ルール無用に美を手っ取り早く手に入れんとする欲望に満ちた女性のためのエリクサー。そう!自然に生み出すことの出来ない美を徹底的に追求した香りとも言えます。

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スーパーモデルとバービーガールの香り

©GUCCI

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「ラッシュ」をはじめて嗅いだ瞬間、覚えのある香りだと感じた。すっかり忘れていたのに懐かしい顔を見たかのようだった。何分か頭をひねって思い出した…「ディオレッセンス」だ!ただし、すべてがそっくりというわけではない。似ているのは、2,3時間のあいだ物語へいざなわれ、刺激的な言葉をささやく熱い息を耳に感じるところだけだ。その息が戻ってきたのだ。こんどは強く、大きく、圧倒的になって。その官能的な風に吹かれると、だれもがぱっちりと目覚め、無分別なことをしてしまう・・・

ルカ・トゥリン

90年代の最後を飾るこの香りのイメージは、スーパーモデルとバービーガールです。

ジューシーで甘酸っぱいピーチにパチョリが溶け込み、スパークリングするような煌めきからこの香りははじまります。厳密に言うと、三つの合成香料を中心に生み出された香りです。グリーンなアルデヒドC-12と「ミツコ」にも使用されているγ-デカラクトンに、ジャスミンラクトンがブレンドされています。

フルーツではなく、肉欲の中迸る甘い汗を連想させるこの香りのピーチ。その自然体ではなく、不健全さを感じさせる活気に満ちたはじまりが「ラッシュ」を「ラッシュ」たらしめているのです。

すぐに、グリーンなガーデニアとフレッシュなフリージアといったみずみずしいフローラルが注ぎ込まれ、プラスチックのような独特なミルキーさに包まれてゆきます。さあ、いよいよヘアスプレーを振りかけ、ピンヒールを履いた夜の女王=ジャスミンの到来となるのです。

やがて、コリアンダーが甘くスパイシーなアクセントを加えながら、華やかなダマスクローズのパウダリーさに、パチョリ、バニラ、ベチバーが円やかに絡み合いながら、ビターかつアーシィーな甘さで、ピーチとホワイトフローラルに溶け込んでゆくのです。

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若き日のケイト・モスとSHIBUYA109のギャル達の挽歌


この香水の魅力はきわめて人工的で、たとえば花などの自然界の要素はまったく含まれていない。人の匂いがするのだ。厳密にいえば、ミルキーなラクトンの香りのおかげで、母親のヘアスプレーが混じった赤ちゃんの息の匂いがする…

「ラッシュ」は、あらゆる偉大な芸術と同様に、わたしたちの胸に憧憬を掻きたて、、幻の過去の偽りの記憶で満たすのだ。

ルカ・トゥリン

かつて存在したギャル文化真っ只中の、SHIBUYA109(海外ではバービービルと呼ばれた)で出会うバービー人形のようなギャル達の熱気を思い起こさせる香りです。ツンとエゴイスティックに見えるギャルが、一瞬見せる、その笑顔の信じられないほどの優しさと愛らしさと幼さ。それがこの香りのすべてです。

もしくは90年代のケイト・モス。つまりは、ロリポップを咥えるセクシーギャルの香りなのです。大胆で、制御不能なまでに奇抜、不可解でいたずら好き、でもってとても傷つきやすい『かわいい悪魔』のテーマ曲のような香水。

そして、もし、日本で再販されたら、これから復活する可能性のあるネオギャル・カルチャーの心も捉える可能性のある香りです。

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香水という芸術の領域をポップアートにまで押し広げた作品

そして、この香りは、1991年に爆発的にヒット(全米No.1)したポーラ・アブドゥルの「ラッシュ ラッシュ(あふれる想い)」からかなりの部分がインスパイアされているとも言われています。ちなみに『理由なき反抗』をリメイクしたようなMVには、若き日のキアーヌ・リーブス(1964-)が出演しています。

真っ赤な唇、真っ赤なマニキュア、真っ赤なパンプスを連想させる、赤いボトルのデザインは、VHSのビデオカセットテープの形から想起されたものです。

もしかしたら、この香りは、世界ではじめて香水という芸術の領域をポップアートにまで押し広げた作品なのかもしれません。

キャンペーン・モデルは分かりにくいのですが、当時人気のファッション・モデルだったマルゴシア・ベラです。

タニア・サンチェスは『世界香水ガイド』で、「ラッシュ」を「ラクトン調シプレ」と呼び、「夜出かけるときに身につけるのに、これよりふさわしい香水を作った人がいるだろうか?この香水を嗅いだ後、トム・フォードは、たった2秒で処方にゴーサインを出したと伝えられている。もしも、それ以上時間がかかる人がいたら、鼻詰まりの薬を手渡ししてあげよう。」

「ミルキーで、ウッディなピーチ・ジャスミンのこの香水が赤く不透明な長方形のプラスチック容器に入って店頭を飾ったときには、ボブ・ディランがエレキギターを使い始めたときのような衝撃が走った。」

「だが、ラッシュは優しくて可愛らしいラクトン系フローラルの香りで、何十年にもわたって、育ちのよいお嬢さんたちが愛用してきた香りの品格がある。ヘアスプレーを使いながら、みんなで楽しそうにおしゃべりに花を咲かせているような、そんな雰囲気だ。」

「職場や劇場、正餐用のフレグランスではない。自堕落でご機嫌な香りを四方八方に振りまき、嗅覚をほかに使いたいと思っている近隣の人たちの悩みの種となる。これはスケールの大きな野外芸術だ。その上、こんなにも斬新で、自信にあふれ、無謀な、時代に合った香りだというのに、「ラッシュ」はすべての段階で、くつろげる香りでいきいきとしていて、決してよそよそしく他人行儀になることはない。」

「この創造物は宇宙のどこかから来たのかもしれない。しかし温かい血が通っている」と4つ星(5段階評価)の評価をつけています。

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香水データ

香水名:ラッシュ
原名:Rush
種類:オード・トワレ
ブランド:グッチ
調香師:ミシェル・アルメラック
発表年:1999年
対象性別:女性
価格:不明


トップノート:ピーチ、カリフォルニア産ガーデニア、フリージア
ミドルノート:コリアンダー、ダマスクローズ、ジャスミン
ラストノート:パチョリ、バニラ、ベチバー