【里見八犬伝】
1980年代、それでもこの男は死ななかった・・・『仁義なき戦い』により実録やくざ映画という一大ブームを生み出した深作欣二は、多くの映画監督がテレビ監督に転向する中で、超大作映画を撮り続けるのでした。
そんな深作欣二のひとつの集大成とも言えるのが角川映画『里見八犬伝』でした。それは人気の絶頂にいる薬師丸ひろ子との最初で最後の作品であり、角川春樹の「『南総里見八犬伝』をベースに、『レイダース』『スター・ウォーズ』『アメリカン・グラフィティ』の要素を入れてくれ」という要望にこたえた大人のおもちゃ箱のような作品でした。
しかし何よりも、この作品の全てを持っていったのは、一人の類まれなる才能を持つ女優でした。その女優の名を夏木マリと申します。彼女が演じる玉梓こそ、(日本の女優が演じるのが最も下手な類の)本物の妖怪としか思えないクレオパトラのような悪女を見事に演じ上げたのでした。
安房国の領主である里見家の館山城が突如、黒装束の騎馬兵達によって攻め入られ、一族郎党皆殺しにされました。城を奪った玉梓(夏木マリ)は100年前、里見家によって滅ぼされた蟇田一族が妖怪として転生した物の怪なのです。
唯一里見家の生き残りとして逃亡する静姫(薬師丸ひろ子)は、男装して山中を逃げ惑うところを、地元の村の野武士である犬江親兵衛(真田広之)に助けられます。しかし、すぐに女性であることがばれ、粗野な新兵衛に襲われてしまうのでした。
そこに2人の山伏が現れ、静姫は救出され、霊玉を持つ八犬士のうちの2人として助けに来たと伝えられたのでした。山伏の一人犬山道節(千葉真一)により、一巻の絵巻物を差し出され、100年前の玉梓との因縁を知る静姫。
かくして霊玉を持つ八犬士が続々と集結するのでした。一方、館山城の玉梓はその息子蟇田素藤らと、彼らが奉る「御霊様」と呼ぶ悪霊に最後の里見家の血を捧げるために静姫探しに躍起になっていました。
素藤のおふれを見て、親兵衛は清姫を捕まえて侍にしてもらおうと清姫をさらうのですが、領民たちを虐殺する素藤の冷酷非道の行いを見て変節し、清姫を解放するのでした。しかし、親兵衛自身は玉梓の軍勢に捕まり城へ連行されてしまいます。そして、玉梓が自分の母だと知らされるのでした。
あやうく妖怪にされるところを悪の配下だった一人の男が八犬士だったこともあり、新兵衛は彼に助けられ、共に、静姫の下へ脱出しました。
ついに新兵衛こそが八犬士の最後のひとりだったことが分かり、静姫と愛を確かめ合うのです。しかし、そこに大蛇が現れ、静姫は玉梓達の手に落ちてしまうのでした。さぁ、どうする八犬士達よ!館山城に乗り込み、玉梓との最終決戦のときが来たのだ!
物語のすべてが、ただただ夏木マリ様の魅力を示すためにだけ存在しているようなこの作品がファッション・シーンに与えた影響は、以下の一点です。
- キモノ=和服にしか生み出せない色彩感覚と妖怪世界を見事に結びつけ、日本人にしか生み出せないひとつのファッション空間を生み出した。
1980年代、角川帝国は、21世紀の私たちにまだ掴みきれていない日本のファッションの新たなる可能性の種を撒いてくれたとも言えます。そんなこの作品と『魔界転生』こそは、日本人がキモノを通して感じることが出来る、色彩感覚の素晴らしさを再発見させてくれる作品とも言えるのです。
作品データ
作品名:里見八犬伝 (1983)
監督:深作欣二
衣装:森護/豊中健/山崎武
出演者:薬師丸ひろ子/真田広之/夏木マリ/志穂美悦子/岡田奈々/京本政樹/千葉真一