究極のフレグランスガイド!各ブランドの聖典ページ一覧にすすむ

【カルヴェン】マ グリフ(ジャン・カール)

その他のブランド
©Carven
その他のブランド
この記事は約8分で読めます。

マ グリフ

原名:Ma Griffe
種類:オード・パルファム
ブランド:カルヴェン
調香師:ジャン・カール
発表年:1946年
対象性別:女性
価格:不明

スポンサーリンク

〝あなたの素肌の上に残す、私の爪痕〟という名の香り

1995年、マダム・カルヴェンの50周年を祝うショー ©Carven

『マ グリフ – 私のシグネチャー』©Carven

マダム・カルヴェン ©Carven

1945年に、ナチスドイツから解放されたばかりのパリで、155㎝の小柄な女性が、クチュールメゾンを創立しました、そのメゾンの名をカルヴェンと申します。マダム・カルヴェンと呼ばれるこの女性は、小柄な女性のためにデザインした服を発表し、瞬く間に脚光を浴びることとなりました。そしてエディット・ピアフ、ミシェル・モルガン、レスリー・キャロンといった著名人を顧客に持つことになりました。

105歳でお亡くなりになられたマダム・カルヴェンの本名はカルメン・デ・トマソ(1909-2015)です。パリのエコール・デ・ボザールで建築とインテリアデザインを学び、〝小柄な女性のためのファッション・ブランド〟を創立した彼女は、低身長の自分にとってカルメンという名は、まったく似合わず、ずっとその名前が嫌いでした。そのため、ブランド名をカルメンのMのアルファベットを一つずつ置き換えて、名前の響きの良いV、カルヴェン(スラングで「幸運」を意味する)にしました。

そして最初のコレクションで発表した、緑と白のストライプ柄のドレスを『マ グリフ – 私のシグネチャー』と名付けていたので、その名をファースト・フレグランスに命名しました。「マ グリフ」は、ルール・ベルトラン・デュポン社の主任調香師ジャン・カールにより調香されました。

長い暗黒の時代が終わり、明るく爽やかで、明日のように新しい香水を世界に提供するために生み出された香り。 それは精神を高揚させ、心に歌を届ける香りです。清潔で新鮮、重くも軽くもなく、それでいて若さの興奮をすべて備えた香りの誕生でした。

「マ グリフ」とは〝私の爪痕=私の署名〟を意味します。パルファン・カルヴェンの4人の創業者のうちのひとりであるジョルジュ・ボーは、パルファン・ロベール・ピゲを創立し、1944年に「バンデット」を発表した経験がありました。

〝マ グリフ、若者の香水〟というキャッチコピーは、当時とても斬新でした。それまで香水は〝女性のため〟と常々言われていました。しかしこの香りから〝女の子のための香水〟が誕生したのでした。

スポンサーリンク

1946年のある春の朝、パリの空から何千個ものサンプルを投下した。

©Carven

©Carven

当時の私は若く、とてもスポーティでモダンでシックだった。だからファムファタールな香水は欲しくありませんでした。それは濃厚すぎて、強すぎる。その代わりに、少しシャープで、朝の9時から真夜中までつけていられるような香りを望みました。

マダム・カルヴェン

そして1946年のある春の朝、小型飛行機がパリの上空を飛びました。エッフェル塔からセーヌ川を渡ったトロカデロ広場の上空を通過したとき、緑と白の小さなパラシュートが何千個も投下され、それぞれに小さな5mlの香水瓶が付いていました。人々は唖然とし、大渋滞を引き起こしました。その結果、その後数日間、「マ グリフ」の香りが街中に漂いました。

当時、無料で香水のサンプル(約1.5ml)を配布していたのは、ゲランの店頭ぐらいでした。しかし、カルヴェンは5mlもの大容量のサンプルを、香水史上初めて気前よく配布したのでした。

この広報戦略が見事功を奏し、母親の香水を使っていた若い女の子たちは「マ グリフ」を身に纏うようになったのでした。

やがて20社以上のフライト・アテンダントのユニフォーム(1976年オリンピックのフランスチームの制服も)をデザインするようになったカルヴェンは、1959年に、エールフランスから、飛行機の機内で香水を販売した最初の企業となりました。

スポンサーリンク

調香界のベートーヴェン。嗅覚を失っていた調香師が作った香り。

©Carven

©Carven

成功する香水とは、あらゆる角度から爆発する香水です。現代の香水には、コントラストや非常に特徴的な嗅覚的価値が求められます。新しい香水が商業的に成功するかどうかは、独創的なアイデアにかかっています。

ジャン・カール

「マ グリフ」は、ジャン・カールが1935年にダナのために手がけた「エミール」のアルデヒドシプレを発展させた香りです。ごく少量しか抽出されないガーデニア・アブソリュートに含まれるスチラリルアセテートは、1940年代初頭に合成に成功しました。そして、この香りで、はじめて使用されました。

4%もの過剰摂取されたスチラリルアセテートにより、フルーティーなメタリックグリーンの香りが広がります。そこにシトロネラールのピリッとしたグリーン・シトラスの香りが組み合わされ、女性がこれまで経験したことのない、シャープでアグレッシブな爽やかさが生まれています。

グリーンノート時代の幕開けといわれるこの香りを調香した頃、実はジャン・カールは嗅覚を失っていました。それを隠し続け、頭の中で香水を作り続けたのでした。

有名な調香師ジャン・カールの話を聞いたんだ。彼は無嗅覚症になって嗅覚を失ったけど、記憶に頼って香水をつくりつづけた。耳が聞こえなくなったベートーベンのようにね。ジャン・カールがカルヴェンのためにつくった「マ グリフ」は、実際の感覚にはまったく頼らず、想像力のみに基づいて調合されたんだよ。

カールの状態を知っているのは彼自身と息子だけだった。依頼者がやってくると、カールはひと芝居打った。まずさまざまな材料を嗅ぐ振りをしてから、最後に自分が調合した香水を仰々しい身ぶりで見せ、それを嗅ぎ、手で仰いで部屋にその香りを広めたんだ。でも、彼は匂いをまったく映げなかったんだよ!

ルカ・トゥリン『匂いの帝王』より

スポンサーリンク

グリーンノート時代の幕開け

©Carven

©Carven

今日では、大手ブランドが次から次へと香水を発売しています。私たちもそうだった。しかし、「マ グリフ」のような傑作は、一生に一度しか出会えないチャンピオンなのです!

マダム・カルヴェン

もし私が「マ グリフ」を作ったとしたら、とてもとても嬉しかったでしょう。

ジャン=ポール・ゲラン

あなたの素肌に残す、わたしの爪痕〟の香りは、苦いガルバナムと渋いクラリセージとパウダリーグリーンなベチバー、そして『悪魔の糞』と呼ばれる腐敗臭・アサフェティダの陰鬱な森とうなる大地を思わせるシャープな香りからはじまります。

すぐに煌めくようなガーデニアが、アルデハイドとレモンと溶け合いながら、まるでグレープフルーツとルバーブが爆発するように、酸味の効いたフレッシュグリーンが透き通るように広がってゆきます。とても大胆なオープニングです。

そして、鮮やかな草原と青い果実の輝きに呼び覚まされ、酔わせるようなクリーミーなジャスミンとネロリを中心としたスズラン、ローズ、イランイランといった春の花のブーケに、湿ったアーシーグリーンなオークモスが注ぎ込まれ、魅せられるように香りが広がってゆきます。パウダリーなアイリスがベチバーと絶妙なバランスで混ざり合っています。

まるでフレッシュグリーンの中からクールビューティーなジャスミンが立ち上るうっとりするような情景が素肌を満たしてゆきます。グリーンノートの素晴らしい相乗効果が、不協和音を配したこの香りの最大の特長であり、強烈で酔わせるような落ち着いた甘さと、苦くて酸っぱくて辛い、ロマンティックでミステリアスな複雑さで心をよろめかせてくれます。

やがてほんのりとスパイシーなシナモンと温かく甘いお香のようなスティラックス(こちらも過剰に使用されている)が、グリーンシプレに魔法をかけるように広がってゆきます。

加えてクリーミーなサンダルウッド、ベンゾイン、ムスキーなラブダナムが、カルヴェンのシグネチャーカラーである緑と白がひとまとめになるように、最後まで激しく、パウダリーグリーンの煌めく森のシンフォニーで包み込んでくれます。


2013年に再調香され、復活を果たし、〝オリジナルの良さを確実に残しながら、モダンに生まれ変わっている〟というかなりの高評価を得ています。

ルカ・トゥリンは『世界香水ガイド』で、「マ グリフ」を「グリーンシプレ」と呼び、「古風なグリーン系のシプレは「ジバンシィ」ほどハーブっぽくないし、「Y」ほどドライでもない。数多のフローラル系香水よりもフローラルが強い。おぼえている限りでは、現在のバージョンの方が好ましい」と3つ星(5段階評価)の評価をつけています。

スポンサーリンク

香水データ

香水名:マ グリフ
原名:Ma Griffe
種類:オード・パルファム
ブランド:カルヴェン
調香師:ジャン・カール
発表年:1946年
対象性別:女性
価格:不明


トップノート:ガーデニア、クラリセージ、ベルガモット、ガルバナム、アルデハイド、アサフェティダ
ミドルノート:ジャスミン、スズラン、ローズ、イランイラン
ラストノート:スティラックス、オークモス、サンダルウッド、シナモン、ベンゾイン、ラブダナム、ムスク、ベチバー