バイオレット ブロンド
原名:Violet Blonde
種類:オード・パルファム
ブランド:トム・フォード
調香師:アントワン・リー
発表年:2011年
対象性別:女性
価格:日本未発売
ヴァイオレットから〝グラマラス〟を抽出した香り
トム・フォードの『シグネチャー コレクション』から「ブラック オーキッド」「ホワイト パチョリ」に続く女性用フレグランス第三弾として、2011年9月に「バイオレット ブロンド」は発売されました。アントワン・リーにより調香されました。
元々は、2007年に発表された『プライベート ブレンド コレクション』の最初の10種類のうちのひとつ「ブラック ヴァイオレット」(クレメント・ガヴァリーにより調香された)がこの香りの原型と言われています。
ファッションがグラマラスだった、1970年代から80年代に対するオマージュとして作られた同名のメイクアップ・ラインのシグネチャーの香りとして発売されました。
〝新時代のフェミニングラマー〟な香り
1990年代以降、フレグランスは、癒しの領域、または身に纏っていないような香りが主流となり、21世紀に入ると、食べたくなるような甘い香りが流行しました。そんな風潮に対して、かつて人気があった〝贅沢なドレスアップ・フレグランス〟を再構築して見せたのがこの「バイオレット ブロンド」です。
ヴァイオレットに、トム・フォードのイブニングドレスを着せたようなこの香りは、ヴァイオレットとアイリスのパウダリーな香りの新たな魅力=〝新時代のフェミニングラマー〟を引き出そうとした香りです。
完全に自分の美をコントロールしている女性の〝完全犯罪の凶器〟
フォーマルで磨き上げられた、美しく着飾った女性がそこにいるように、その洗練された存在感に魅了され、やがて心が囚われ、蜘蛛の糸に絡めとられ、どんどん引き込まれていくようにこの香りは展開してゆきます。
フルーティなピンクペッパーにより弾き出されるマンダリン・オレンジの香りが広がる中、ヴァイオレットリーフのスパイシーグリーンが強く〝美を刺激する〟ようにしてはじまります。ヌーディカラーのアイブロウに、頬に強めのチークを入れたグラマラスなブロンド美女がそこに現れたようです。
眩しすぎるヴァイオレットリーフの香りに、心がすっかり折れてしまったその瞬間、うっとりするようなアイリスが、シダーの温かさと共に、ヴァイオレットリーフの氷の心を溶かしていくように広がってゆくのです。このアーシィーさの中でヴァイオレットの花が開花してゆきます。
まるで柔らかなフェイスパウダーの輝きを思わせるその香りに、折れていた心が、すっかり自信に満ち溢れたとき、力強く現れるジャスミンが、ベンゾインとイリスバターによりクリーミーにかき混ぜられてゆくのです。
ヴァイオレットは徐々に減退し、ジャスミンとアイリスの相反する魅力が生み出す、パウダリーな甘い吐息を吹きかけられるのです。それはまるで〝スーパーモデルのブロンド美女がふいに見せる人懐っこい笑顔〟のようです。
天真爛漫な、太陽のような輝く笑顔ではなく、ダークでセクシーな、照明に照らしだされたグラマラスな笑顔。それが「バイオレット ブロンド」なのです。つまりは、完全に自分の美をコントロールしている女性の〝完全犯罪の凶器〟なのです。
最後に鎮魂歌のように流れるスエードの香りが、実にクールビューティです。それは、自分の美しさに誇りを持ち、大切にする女性に捧げられたジャスミンとアイリスによる鎮魂歌なのです。そして、僅か5年後に、葬られたのでした(同じ年に発売された「ジャスミン ルージュ」がその精神を吸収した)。
独自の信念で美に立ち向かう女性のための香り
オープニングの重さが、多くの女性の嫌悪感を掻き立てずにはいられないこの香りは、トム・フォードイズムの真骨頂とも言えます。最初に、嫌悪させて、虜にさせるのがTFの流儀なのです。
決して周りに迎合することなく、真の芸術を愛し、最先端のファッションを愛しはするが、ファッションの奴隷ではない。SNSのバズりには全く興味がなく、独自の信念で美に立ち向かう女性のための香りです。
この香りは、プラダの「インフュージョン イリス」(2007年、ダニエラ・アンドリエ)やゲランの「アンソレンス」(2006年、モーリス・ルーセル)、ヴァン クリーフ&アーペルの「フェアリー」(2008年、アントワーヌ・メゾンデュー)、クリードの「ラブ イン ブラック」などの香りの究極形態だったのかもしれません。
キャンペーン・モデルは、トム・フォード・ビューティの2011年冬キャンペーンのミューズをつとめたオランダ出身のファッション・モデル、ララ・ストーン(1983-)でした。フォトグラファーは、マート・アラス&マーカス・ピゴットでした。
香水データ
香水名:バイオレット ブロンド
原名:Violet Blonde
種類:オード・パルファム
ブランド:トム・フォード
調香師:アントワン・リー
発表年:2011年
対象性別:女性
価格:日本未発売
トップノート:ヴァイオレット・リーフ、ピンクペッパー、マンダリン・オレンジ
ミドルノート:トスカーナ産アイリス・アブソリュート、イリスバター、ジャスミンサンバック、サンパギータ
ラストノート:スエード、ベンゾイン、ムスク、ベチバー、ヴァージニア産シダー