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【エルメス】ツイリー ドゥ エルメス(クリスティーヌ・ナジェル)

エルメス
©Hermès
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ツイリー ドゥ エルメス

原名:Twilly d’Hermes
種類:オード・パルファム
ブランド:エルメス
調香師:クリスティーヌ・ナジェル
発表年:2017年
対象性別:女性
価格:30ml/11,440円、50ml/16,060円、85ml/22,660円
公式ホームページ:エルメス

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エルメスの〝香りのスカーフ〟

マッシュルームカットで話題になったペイトン・ナイト。©Hermès

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私がパリの通りを歩いていると、若い女性たちが私の世代が愛用しているものを、彼女たちのひねりやひらめきといった創造性を加えて、全く違ったコーデによって愛用していることを目の当たりにしました。

それはグレース・ケリーが頭に巻いていたシルク・カレ(エルメスのシルク・スカーフ)を、エイミー・ワインハウスのようにビスチェのように巻いたり、ベルトにしたり、髪にツイリーを結んだり、バッグのハンドルに巻いたり・・・

私にも、古典的な香りの成分にひねりやひらめきを加えることが出来るはずだと考えたところから「ツイリー ドゥ エルメス」は誕生しました。そんな自由な精神で、ジンジャー、チューベローズ、サンダルウッドの3つの天然香料を組み合わせ、今までと全く違った香りを創り上げました。

クリスティーヌ・ナジェル

エルメスの二代目専属調香師クリスティーヌ・ナジェルが、約1年の歳月をかけて、2017年に完成させた「ツイリー ドゥ エルメス」は同年8月に発売されました。自由に結んで楽しむエルメスのシルクスカーフ〝ツイリー〟からインスパイアされたフローラル・オリエンタルの香りです。

エルメスには元々、1937年に生まれた正方形の〝カレ〟というシルクスカーフが存在します。3代目社長エミール・モーリス・エルメス(1871-1951)の時代のエルメスは、存亡の危機に立たされながらも、奇跡的な大躍進を遂げました。

彼こそが馬具製造の伝統を生かしつつ、ファッション部門への進出という大胆なる転進を遂げさせた人でした。第一次世界大戦後、女性のライフスタイルが変わる中、ココ・シャネルが、20世紀の女性ファッションに革命をもたらしたように、エルメスは、女性が外出時に使用する革小物(鞄、財布、ベルト)といったものを誕生させ、上流階級の女性の布文化を革文化へと変えていったのでした。

そして、いよいよアメリカ進出を果たそうとしていた矢先の1929年に世界恐慌が起こり、エルメスは存亡の危機に立たされるのでした。しかし、職人たちが自ら支払いの猶予を申し出たことにより、急場を凌いだエミールは、1937年に〝カレ〟を誕生させ、1944年にはじめての香水を誕生させました。

つまりは大不況の時代に適した高級品という位置づけを、シルクスカーフと香水に託したのでした。そして、1945年にオレンジをエルメス・カラーとして採用し、再び世界制覇に乗り出すのでした。

1980年代半ばからはじまる日本におけるエルメス旋風は、〝カレ・ブーム〟からはじまりました。そんな〝カレ〟の妹分のような存在として2003年に生まれたのが細長いリボンタイプの〝ツイリー〟(32 x2 cm)でした。

この〝ツイリー〟誕生15年目を記念して、その精神を反映させたのがこの「ツイリー ドゥ エルメス」なのです。

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ひとつひとつの香料に対する凄いこだわり

ズズ・タデウスフク ©Hermès

エレン・デ・ ウィアー ©Hermès

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ジンジャーはとても特別な成分なのです。なぜなら、それは通常、香水にフレッシュ感を与えるために、ごく少量しか使用されません。そして、もしジンジャーを使いすぎると、石鹸の香りが強く出てしまいます。それは絶対良くないことです。

しかし、私は、あることに気がつきました。通常、使用されているジンジャーは乾燥した根から抽出されているということです。だから、新鮮な根から抽出してみました。

新鮮なものからは、乾燥したものよりも、かなり少ない量のエッセンスしか抽出できません。しかし、その香りは、量を増せば増すほど、燃えるようなジューシーさとスパイシーさに満ち溢れていくのです。

クリスティーヌ・ナジェル

自由で、大胆で、予測不可能な20代(精神年齢も含める)の女性の精神を反映されるというコンセプトに相応しく、従来の調香の常識では考えられないジンジャーとチューベローズとサンダルウッドという凄い組み合わせで生み出され香りです。

甘いキャラメルやフルーツといった在り来たりな若者向けではない、三つの素材によって生み出されたこの香りは、老舗ラグジュアリー・ブランドによる「若さ」「遊び心」「陽気さ」「気まぐれ」が反映されたスカーフ〝ツイリー〟の精神そのものとも言えます。

まず最初に、ビター・オレンジのジューシーさを加えた、ピリっとスパイシーなジンジャーが、スパークリングしながら飛び出してきます。それはまるで自家製のすりおろしたばかりのジンジャエールのようです。そして、ベルガモットがジンジャーの鋭さを和らげ、フルーティーな感触を与えてゆきます。

フローラルノートとして、私は華やかな香料を求めました。甘く官能的な香りを求められるチュベローズから、私は明るさのみを求めました。それは、若い女性の大人っぽさと子供っぽさの二面性を反映したようなものです。

クリスティーヌ・ナジェル

すぐにチューベローズが、グリーンな側面とインドールの効いたトロピカルでクリーミーな側面をゆっくりと増殖させてゆきます。この香りの素晴らしい所は、無邪気なジンジャーが、天使のようなグリーンと、悪魔のようなインドールに翻弄される姿にあるのです。それでいてこのチューベローズは全体的に透き通るように新鮮なのです。

そして、最後に、サンダルウッドを使用しました。気品があって、希少で、エレガントな香料。これこそが、エルメスのエレガンスにぴったり合致する香料なのです。この香水に使用されているサンダルウッドは、オーストラリアからの特別なものを使用しています。ミルキーさだけでなく、蜂蜜のような甘いアニマリックさも兼ね備えたものです。

クリスティーヌ・ナジェル

やがて、ジャスミンとオレンジ・ブロッサムが香り全体を円やかかつソーピィーなものにしてゆきます。そして、クリーミーなサンダルウッドとバニラとホワイトムスクが、シルクのように滑らかに温かい余韻で、肌を包み込むように結んでくれるのです。

そんな最中においても、ジンジャーはたえず無邪気なのが、この香りの魅力です。

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チャップリンのようなボトルデザイン

©Hermès

市場では、若い女性の香りと言えば甘い香りが主流で、どれも似たようなものばかりだったので、その流れに逆らおうと思いました。

この香りは、若い女性の自由な精神をイメージしたものですが、他の年齢層の女性にも問題なく使えます。実際、私自身にもぴったりだと思います。

クリスティーヌ・ナジェル

クリスティーヌ・ナジェルは1958年生まれであり、当時50代後半でした。そんな彼女が生み出した20代の女性のための〝自由に躍動する若さの賛歌〟であるこの香りは、彼女と同じように、年齢を重ねても新しいことに挑戦する気持ちを忘れない女性のための香りとも言えます。

そして、ひとつ恐ろしいのは、とんでもなく高品質な三つの天然香料で生み出されたこの香りを、若い女性が身に纏ってしまうと、まるで〝目に見えないシルクスカーフ〟を巻きつけ、結んでいくように、知らず知らずのうちに肉体が高級品を記憶してしまうところにあります。

これは良い香料の特徴なのですが、ゆったりと寄せては返す波のように香り立ちます。特にジンジャーの香りが素晴らしく、体の芯から温かくなるような情熱を掻き立てます。

ボトル・デザインは、カレのデザインも手がけるフローランス・マンリクによるものです。この黒の山高帽と、シルクリボンのボトルデザインは本当に可愛らしいです。

恐らくこの香水は、チャールズ・チャップリンが『街の灯』(1931)や『モダンタイムス』(1936)の中で、山高帽にチョビ髭の放浪者を演じた、大恐慌の時代にあっても、たくましく生きた主人公をイメージしたものでしょう。

それは貧しいながらも、希望を持って、頑張って生きている不景気の現代の若き女性たちへの、まずは〝最初のエルメス〟を手にして、諦めないで!という〝エルメスからの応援歌〟なのです。

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香水データ

香水名:ツイリー ドゥ エルメス
原名:Twilly d’Hermes
種類:オード・パルファム
ブランド:エルメス
調香師:クリスティーヌ・ナジェル
発表年:2017年
対象性別:女性
価格:30ml/11,440円、50ml/16,060円、85ml/22,660円
公式ホームページ:エルメス


トップノート:ジンジャー、ベルガモット、ビター・オレンジ
ミドルノート:チューベローズ、ジャスミン、オレンジ・ブロッサム
ラストノート:サンダルウッド、バニラ