マレーネ・ディートリッヒを生み出した男、ジョセフ・フォン・スタンバーグ
しかし、彼のことを語るときどうして黙っていられようか。私にとって彼がどれほど重要であったか、そして、私の経験したことは、他の女優が、たとえどれほど立派な監督に指導されようと、誰一人経験できないものであったことを明らかにしようとする時、口をつぐむわけにはいかない。
私たちが共に肩を並べて仕事に励んだあの日々を忘れることはできない。その間彼は、いらだちや疲れの片鱗さえ見せなかった。彼は自分を忘れ、自分の願いも要求も忘れ、常に私のためにそこにいたのだ。(中略)
私は年齢を重ね、いろいろなことを学びました。あなたが考え、努力する時肩にかかる孤独の重圧、スタジオに対する責任、そして、何よりも私に対する責任、それらを推し量ることができるようになりました。
私はただ泣くばかり、他にどうすることもできません。「遅過ぎる」とカラスが鳴きました、「もう遅過ぎる」と。ジョセフ・フォン・スタンバーグは比類なき天才でした。あの世代と映画の世界に、ただ一人しかいない天才でした。
『ディートリッヒ自伝』マレーネ・ディートリッヒ
長い引用です。しかし、この引用から伝わる、一人の一流の女性が、一人の一流の男性に対して、ここまで熱い想いを持てることが、私の心を打ちます。
〝マレーネ・ディートリッヒ〟とは、極めて謙虚に美を追求する彼女自身のストイックなスタイルと、ジョセフ・フォン・スタンバーグという、〝カメラのレオナルド・ダ・ヴィンチ〟と後に呼ばれることになる映像の魔術師によって生み出された奇跡なのです。
人間の顔は風景のように扱われるべきだ。まるで目は湖、鼻は丘、頬は広い草原、口はフラワーポット、額は空、髪は雲のように…
ジョセフ・フォン・スタンバーグ
1969年『地獄に堕ちた勇者ども』においてルキノ・ヴィスコンティの演出によりヘルムート・バーガーが、マレーネが『嘆きの天使』で演じたローラ・ローラの女装をし、~ 若い男に用はない 欲しいのは本当の男 ~♪と歌いました。
その姿を見たマレーネは、「スタンバーグが私を生み出した奇跡を、ほかに見たのは、この時だけだった」と絶賛しました。マレーネは、男性が自分の女装をした姿に対してジェンダーを超越した何かを感じ取れる人なのでした。
わたしの心のなかの感情を引き出すことにかけて、ジョー(ジョセフ・フォン・スタンバーグ)はわたし以上に能力があるわ。わたしを演技の苦手な人間にしたのはお母さんなのよ。「感情を隠しなさい・・・感情をむき出しにしないで・・・それはお行儀の悪いことよ・・・」いつもその調子だったから。
ジョーはわたしにどうしろと指図し、わたしはその通りにします。わたしは彼の部下の一兵卒で、彼は指揮官。わたしの一挙手一投足にいたるまで指示するの。「顔を左に向ける。今度は右。ゆっくりと・・・」彼は言葉というよりもイメージを用いる詩人だわ。そして鉛筆の代わりにライトとカメラを使うわけ。
わたしは全面的に彼によって作り出された作品みたいなものよ。彼は陰影を与えることでわたしの頬をくぼませ、わたしの目を大きくするの。わたしはスクリーンに写った自分の顔にすっかり魅せられてしまうものだから。毎日ラッシュを見るたびに、彼の創造物である自分がどんな風にみえるか、それを知るのが楽しみなの。
マレーネ・ディートリッヒ(夫への手紙)
アミー・ジョリーのファッション5
ブラウス・スーツ
- ピンストライプのシルクブラウス・スーツ
- シルクシャツ
- 同じ布地のシルクターバン
- ブルトン
- ストラップ・ハイヒールパンプス
- レザーグローブ、手首に凝ったディテール
ルージュの伝言
トム・ブラウン(ゲイリー・クーパー)が再び出征する事になり、アミー・ジョリーに会いに行くと大富豪から求婚されていることを知り、彼女の楽屋の鏡に“I changed my mind.Good luck!”というルージュの伝言を残していくトム。
この作品から、映画の中で女性、もしくは男性がルージュの伝言を残していくスタイルが定番化していったのでした。彼女が愛用しているリップで、彼女に別れを告げるのです。
アミー・ジョリーのファッション6
キャバレースタイル
- バイカラーのサテンのマント
- ショート丈のスパンコールジャンプスーツ、スパンコールのフリンジが付いている
- スパンコールボレロ
- ガーターストッキング
- ハイヒールパンプス
アミー・ジョリーのファッション7
シフォンドレス
- シフォンのロングドレス
- カロとカプリーヌ
- ハイヒールパンプス
- ブラックグローブ、ミドル丈
作品データ
作品名:モロッコ Morocco (1930)
監督:ジョセフ・フォン・スタンバーグ
衣装:トラヴィス・バントン
出演者:マレーネ・ディートリッヒ/ゲイリー・クーパー