イヴ・サンローラン

マレーネ・ディートリッヒ2 『モロッコ』2(2ページ)

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作品名:モロッコ Morocco (1930)
監督:ジョセフ・フォン・スタンバーグ
衣装:トラビス・バントン
出演者:マレーネ・ディートリヒ / ゲイリー・クーパー




男装の麗人。その遺伝子は、イヴ・サンローランに受け継がれる。

もう一人の同志の名は、トラヴィス・バントン。パラマウント社のチーフ衣装デザイナーだった彼は、華麗なデザインよりも、都会的で洗練されたデザインを得意としました。そんなバントンが、マレーネ・ディートリッヒに会い、従来のハリウッドスターにはない知性と感性を感じたのでした。マレーネは、少女時代にヴァイオリンのソリストを目指し、ゲーテを神のごとく崇め、リルケの詩を愛する女性でした。そんなマレーネからのアイデアが、女性が、男性の装いである黒のタキシードを着るというアイデアでした。

それはマレーネが教養のある女性だったからこそ示せた、正装したときに感じさせる神聖なる存在感だったのかもしれません。そんな彼女の男装だったからこそ、男装=コスプレではなく、女性の装いとして明確に機能し、知性を露呈する女性の装いへと昇華し、定番化したのでした。

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タキシードルック。くわえタバコにシルクハット。アンドロギュヌスの美。

タキシード・ルック
  • 黒のシルクハット。簡単に収納出来る伸縮自在のハットであり、それを斜めにかぶる様式美。
  • 広めのピークドラペルの黒のジャケット。胸ポケットに純白のポケットチーフ。肩パッドにより作り上げられたワイドショルダーが、女性の華奢な肩にそっと差し伸べられた男性の手のように、男性的な魅力を兼ね備えさせる。そして、丈を短くし、ウエストに絞りを入れることにより、少年らしさと女性らしさを奇妙に同居させています。
  • ボウタイとジレとシャツ。全てが白。ここでボウタイが黒でないところが実に生きている。
  • ハイウエストのパンツのシルエットはゆったりしており、どこかガウチョパンツぽさもあり、上半身のシャープなシルエットと見事に対比されている。ただし、生地の良さが、アングルにより、彼女のパンツを太くも細くも見せ、その中に秘められし美脚に対する妄想を否応なしに掻き立てます。

実は劇場マネージャーとマレーネのタキシードがほぼ同じものであることに注目して欲しい(ラペルの幅などはかなり違うが)。女性と男性の間のアンバランスなバランス。これが、アンドロギュヌスの美であり、1930年にして、すでに21世紀の美の萌芽が生み出されていました。特に〝Quand l’amour meurt(愛が終わる時)〟を口ずさみながら、男装しているマレーネの仕草が可愛らしい。格好良すぎ(=男前)な結果、可愛らしいと感じさせるのが、マレーネの神話性なのではないでしょうか?そこには少女が男装しているような雰囲気もあり、バックステージに引っ込むときに一礼する姿が、「あなたは本当に育ちのいい人なんですね」と感じさせるのでした。



ファッションを生かすも殺すもその人次第

Marlene Dietrich in Morocco (Josef von Sternberg, 1930)

撮影当時(1930年)、アメリカでは、スラックスを履く女性はいませんでした。だから、パラマウントの重役は、どんな男もズボンをはいた女になど目もくれないと、このシーンの撮影を反対しました。しかし、スタンバーグ監督が、彼らに一言こう言ったのでした。「彼女はわたしが選んだものを着ます!」と。そして、ファッション界に影響を与える名シーンが生まれたのでした。

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マレーネは自分の髪は自分自身でスタイリングしていました。

あの映画の中でいちばん太いものが、この腕なんだから。この大きな腿にも困ったわ。もちろん、脚を見せなきゃならないんだけど、ジョー(ジョセフ・フォン・スタンバーグ)はもうガーター・ベルトでごまかしたがらなかったの。それに、アメリカ人はガーター・ベルトに強い反感を持ってるのよ。それを見るとショックを受けるらしいのね━何かサドっぽいものを感じて。それでヒップを隠すためにボックス・カットのショーツをデザインして、黒のベルベットでそれを仕立てたんだけど、ところがそれでも困ったことが起きたの。ショーツの黒いラインのせいで、わたしの白い腿がものすごく太くみえちゃうのよ。だけど、房飾り付きの長い襟巻き(ボア)でごまかしたわ。つまり、どっちでもカメラに近い方の腿の上にそれを垂らしたってわけ。

マレーネ・ディートリッヒ

シルクハットをポンッと弾き、指2本で挨拶する仕草。男装したマレーネ・ディートリッヒが、女性にキスをする背徳感。ファッションとは、デザイナーが作り上げ、それを着る人によって完成する所に最大の魅力があります。それは本来のファッションの魅力とは、ファッションショーでモデルが着て歩くランウェイの姿だけでは、決して語れない部分に魅力があるのです。

「生きたファッション」を示した人たち。それが映画の黄金期(1930年代~1960年代)のスター達だったのです。さらに言うと、マレーネの男装が生きたのも、アイシャドウをつけたゲイリー・クーパーの野性味溢れる〝宝塚的〟男性の魅力が対比されていたからなのです。この後、キャサリン・ヘプバーンは、マレーネのタキシード・ルックを私生活に取り入れ、日本においては、宝塚歌劇団が、女性が男性を演じる様式美を、新しき日本の和の文化の中枢にどっしりと根を張らせる偉業を成し遂げました。



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