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【コティ】ロリガン(フランソワ・コティ)

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ロリガン

香水名:ロリガン
原名:L’Origan
種類:パルファム
ブランド:コティ
調香師:フランソワ・コティ
発表年:1905年
対象性別:女性
価格:不明

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近代香水の基礎を築いた三人の巨人

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フランソワ・コティは真のチャンピオンでした。彼は香水をラフなスケッチからアートに変えた黒幕と言って良いでしょう。「ロリガン」と「シプレ」(1917)は、香水を芸術の領域に高めた二大マスターピースだ。

さらに彼は、香水産業において最初の販売のプロフェッショナルだった。香水名、ボトル・デザインや包装、プロモーションにも革命を起こした。

エドモン・ルドニツカ

16世紀半ばから〝香水〟が文化として定着していったフランスにおいて、1882年にウビガンが「フジェール ロワイヤル」を発表するまで、すべての香水はアルコールベースであり、ほとんどの香水は花や植物の名を冠したものでした。

やがて19世紀に入り、ソリフローレとフローラルブーケを抽象化した芸術的な香りが流行しました。その頃まで使用されていたのは100%天然香料でした。それはとても手間と費用がかかるアンフルラージュ(冷浸法・温浸法)蒸留法によって採られたジャスミンやチューベローズ、ローズなどの精油や樹脂によって作られていました。この二つの方法で生み出された香水の欠点は、ナチュラルではない平坦な香りになることでした。

そして、この時期に起こる産業革命により、交通手段の発展と新しい抽出法(蒸気を使用した蒸留法と、揮発性溶剤による香気成分の抽出=アブソリュート)により希少な天然香料が手に入るようになり、さらに合成香料の発明、ガラスの工業生産による豪奢な香水瓶の普及により、香水文化は未曾有の興隆を迎えることになるのでした。

近代香水の基礎を築く三人の巨人の登場です。ひとりはウビガンのポール・パルケです。彼は、1882年に「フジェール ロワイヤル」により、合成香料クマリンを使用し、史上初めて合成香料と天然香料のランデブーを香水の中で達成したのでした。

そしてもうひとりはゲランの二代目調香師エメ・ゲランです。1889年にクマリンにリナロール(ベルガモット様)とバニリンという三つの合成香料を組み合わせた「ジッキー」を生み出しました。「ジッキー」こそが、天然香料と合成香料を組み合わせて作られた、(オリジナルの香りが)現在も継続して販売されている最古の香りなのです。そしてこの香りから、香りは芸術になり、感情を持つようになったのでした。

最後のもうひとりはフランソワ・コティ(1874-1934)です。彼こそは20世紀初頭、40年以上に渡り、香水帝国を築き、皇帝として君臨することになるのでした(7歳で孤児になったフランソワのコルシカ島の生家は、ナポレオン・ボナパルトの生家と目と鼻の先だった)。

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フランソワ・コティの下剋上宣言

フランソワ・コティ

1900年まで香水の知識が一切なかったフランソワ・コティは、親友の薬剤師レイモン・コレリーの薬局で販売しているオーデコロンの制作に協力したことから、香水の魅力に取り付かれていきました。

フランソワはその古臭くて、想像力に欠け、無地のガラス瓶に入れられた、粗末に見えるオーデコロンがもっともっと魅力的なものになるはずだと考えました。ちなみに当時、香水は、クリスタルや磁器のボトルに各々がデキャントして使用していたため、香水ボトルの必要性は全く考えられませんでした。

フランソワは、1902年にアントワンヌ・シリス社のグラースの工場を訪問しました。この工場は、1898年に新しい香料の抽出技術を用いた世界で最初の大規模の工場でした。そして、アポなしで社長のレオン・シリスとの面会を求め、受付で押し問答していた時、それを興味深く見ていたレオンに「こいつは面白いヤツだ」と感じてもらい、まんまと面会に成功したのでした。

かくして一年間この工場で香水について学ぶ機会を与えられることになりました。そして、ウビガン、ゲラン、リュバンといった昔から存在する香水メゾンが、乗り気ではなかった新しい抽出法によるジャスミンやローズ、チューベローズ、オレンジ・ブロッサムなどの花々のアブソリュートに対して、全く免疫のないフランソワは純粋に感動し、これはイケる!と感じたのでした。

パリに戻ったフランソワは、義兄から数千フランを借り、妻イヴォンヌと共に小さなアパルトメントで起業し、1904年に最初の香水「ラ ローズ ジャックミノ」を発表しました。この香りは、ドゥ・レール社(De Laire社、のちにシムライズ社に吸収された)のイオノンとロディノールとローズ・アブソリュートにより生み出されたかなりの野心作でした。

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フロリエンタルの元祖「ロリガン」の誕生。

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そして翌1905年にコティは三つの香りを発表したのでした。そのうちのひとつが「ロリガン」でした。〝ロリガン〟とはヨーロッパの地中海沿岸を原産とするシソ科ハナハッカ属の多年草である〝オレガノ(マヨラナ)〟のことです。イタリア料理によく使われるハーブです。

このコティ初のフローラル・オリエンタル(フロリエンタル)の香りは、「ルール ブルー」(1912)「バラ ヴェルサイユ」(1962)「プワゾン」(1985)「ブシュロン」(1988)「トカド」(1994)といった後に続く香りの始祖となりました。これらの香りの特徴は、濃厚なアンバーとスパイスがフローラルの中で甘く渦巻いていくにも関わらず、ねっとりとしたしつこさがなく若々しい香り立ちにあります。

今では「ロリガン」は、フランソワが調香師に指示を出して生み出したのではなく、彼自身で調香したと考えられています(のちに「ロリガン」など10種類のコティの過去の名香を再調香することになるジャン・ケルレオギ・ロベールがそう断言しました)。

フランソワは、セルフ・プロデュースの天才であり、本当か嘘か分からないことも含め、多くの物事を語っているのですが、なぜか自身のことを調香師と呼んだり、香水の調香について語ることはありませんでした。さらにロリガンのオリジナルのフォーミュラ(処方)は見つかっておらず、現存するものは2つの改良版のフォーミュラのみです。そのため実際のところは永遠の謎となっています。

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「ロリガン」の素晴らしさについて。

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ロリガンは6つのノートを大胆にブレンドしたものである。オレンジ・ブロッサム、ヴァイオレット、ジャスミン、ローズ、そして最前線にはカーネーションがあり、スイートグラスの香りが非常に繊細な特徴を与えている。

その成功はすぐさま広がり、フランス内外で無数の模倣品に影響を与えた。『オピウム』(1977)は、まさにその構成において、花のない「ロリガン」とも言える。つまり、コティは20世紀ではじめて強烈な香水を作ったのである。

エドモン・ルドニツカ

「ロリガン」は二つの合成香料を中心に生み出されています。それは、フィルメニッヒ社のイラリア(IRALIA®、メチルイオノンのあらゆる品質の中で最も豊かで甘いフローラルな香りで、強いイリス、ヴァイオレットの特徴とわずかなフルーティノートを持つ)と、Dianthine®大量のオイゲノールが含まれているスパイシーなカーネーションアコード)です。

歴史上初めてイオノン(1893)を使用したヴァイオレットの香水は、1895年にロジェ・ガレにより生み出されました。アンリ・ロジェの調香による「Vera Violetta」です。

はじまりは、フレッシュなベルガモットとジューシーなオレンジが太陽よりも輝く中、颯爽と現れるネロリと(スズラン、ラベンダー、ベルガモット様の芳香を有する)リナロールと辛くてスパイシーなカーネーションが注ぎ込まれていく、フレッシュスパイシーな独特の涼しげな甘やかさからです。フランソワのルーツであるコルシカのマキの香りが「ロリガン」の中心に佇んでいるようです。

すぐに(ヴァイオレットとヘリオトロープを思わせる)ジャスミンとチューベローズを中心とした自然の花々の輝きを、舞い散る粉に体現させたような、うっとりするようなフローラルシャワーで満たされてゆきます。今の時代では感じられないいまはしいものの色香に迷わされるような、粘り強さが干草のようなクマリンとトンキンムスクの豊かな香りにより、付け加えられてゆきます。

花の甘さに頼らずに、大人の女の嫋やかさを、フレッシュなスパイシーさで描き出すと同時に、捉えどころのない豊かさを持つ、素肌に舞い落ちる花の粉が、頽廃の美と叛逆の情熱を謳って、バニラとアンバーの甘さに導かれる新しい美の戦慄を創造しているのです。まさに「ロリガン」は、女性が歩いた後に、火が吹くような、力強い美しさを持つ香りです。

「ロリガン」の強い影響下で、ジャック・ゲランは「アプレロンデ」(1906)を経て「ルールブルー」(1912)を生み出しました。合成香料を駆使して、天然香料の中に眠るフロリエンタルの〝感情の揺れ〟を解き放つことに成功したのでした。

つまりはエドモン・ルドニツカが解説するメチルイオノンの生み出す効果がそのままボトルの中に閉じ込められているのです。

メチルイオノンは、同時に現れる香りの様相とか、時間がたつにつれて展開してゆく香りの変化に従って、イリス、甘草、皮革、木、ベチバー、バイオレットの香りを同時に、または続々と示すことから、人によって必ずしも同じ様相、同じ香りの経過を知覚させるとは限らないことは明らかである。

めいめいその生まれつきの傾向に従って、とくに強い印象を与える指標、例えば木の香りにひきつけられる。また別の指標、たとえば皮革の香りに注意を向けるならば、それに気づくようになるだろう。

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フランソワ・コティによって、香水は〝目も魅了する〟ようになった。

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フランソワ・コティは、香水の品質は女性が香水を購入する要因のひとつに過ぎないと考えていました。香水は鼻だけでなく、目も魅了する必要があると考えていました。

1906年に、フランソワから依頼を受けたルネ・ラリックは特別な香水ボトルを作るというアイデアに興味をもち、スリムなクリスタル製のバカラボトルを製作しました。そして、そのボトルのあまりの素晴らしさから、モリナールやドルセー、ウビガン、ロジェ・ガレも彼にボトルの製作を依頼するようになりました。

フランソワこそが、香水を鼻だけでなく、目にもアピールするようにした最初の人物なのです。ちなみにコティのジェネラル・マネージャーだったアルマン・プティジャンは、1935年にランコムを創業し、次のマネージャーだったセルジュ・エフトレー=ルイシュは1947年にパルファン・クリスチャン・ディオールの最高責任者として創業に携わることになります。つまり、フランソワ・コティは、21世紀に繁栄を誇る香水帝国の始祖のような存在なのです。

ちなみに「ロリガン」は、2004年にダフネ・ブジェにより再調香され、復刻されました。

香水愛好家のバイブルである平田幸子先生による『香水ブランド物語』に、「特に、ロリガンは幕末の志士、坂本龍馬が長崎で手に入れたと言われ、日本の上流婦人の間でも流行しました」と記載されているのですが、龍馬が生きていた時代にはまだフランソワ・コティが誕生していないので、なんらかの誤解なのでしょう。
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香水データ

香水名:ロリガン
原名:L’Origan
種類:パルファム
ブランド:コティ
調香師:フランソワ・コティ
発表年:1905年
対象性別:女性
価格:不明


トップノート:ベルガモット、オレンジ、ネロリ、イランイラン、コリアンダー、ピーチ
ミドルノート:カーネーション、オレンジ・ブロッサム、ヴァイオレット、ジャスミン、ローズ、ナツメグ
ラストノート:バニラ、クマリン、サンダルウッド、ムスク、ベンゾイン、インセンス、シベット、シダー