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ゲラン

【ゲラン】ルール ブルー(ジャック・ゲラン)

ゲラン
©GUERLAIN
この記事は約9分で読めます。

ルール ブルー

原名:L’Heure Bleue
種類:香水
ブランド:ゲラン
調香師:ジャック・ゲラン
発表年:1912年
対象性別:女性
価格:30ml/44,000円

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太陽を盗まれた空が、星を見つけ出すまでの香り

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ゲランの香りの素晴らしさが、言葉の領域の先にあることを教えてくれる香り。それが1912年に、三代目調香師ジャック・ゲランによって生み出された「ルール ブルー」です。

「ルール ブルー」とは「青の時間、ブルーアワー」の意味です。それは1911年のある夏の午後、調香作業の気分転換も兼ね、4歳の息子と一緒に、テュイルリー庭園に散歩に出かけた帰路、セーヌ川の川岸でふと立ち止まったときに見たある情景からインスパイアされた香りでした。

それは太陽が沈み、だんだんと暗くなっていく「青くなるひと時」。パリの街が、日中の喧騒から、夜に向けて灯りをともしはじめるほんの一瞬の静寂。それは一番星が目視できる寸前の〝太陽が盗まれたブルースカイ〟の輝きの情景でした。

そして、さらに言うと、この「青の時間」とは、第一次世界大戦(1914-1918)という嵐の時代に突入する前の、ベル・エポックの最後の瞬間の意味もありました。

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最愛の妻への香りのラブレター

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マレーネ・ディートリッヒといえば、あらゆる時計を超越した彼女の長い女優生命は、どうやら<青い時間=ルール ブルー>を使っている証拠だといえそうだ。

フランソワーズ・サガン

悲しみよこんにちは』で有名な作家フランソワーズ・サガンが〝毅然とした香水〟という評価を与えこの香りは、太陽を盗まれ、光を失いつつある空が、一つ目の星を見つけ出すまでの〝中断された青い時間〟をイメージした香りです。

まさにこの香りこそ、ジャック・ゲランが印象派の画家たちから受けた影響の集大成であり、〝ゲランが感情を香り〟にしていた時代の集大成とも言えるのです(今のゲランにこの精神が残っているかいないかは兎も角として)。

そうです。昔のゲランの香りには、〝つかの間をひきのばしてみせること〟が出来たのでした。

リリ・ゲラン(1984-1965)

それは、ジャック・ゲランがこの香りの創造に1年間を費やし、すっかり行き詰まっていた時。当時20代半ばだった最愛の妻リリ(1905年に結婚していた)への想いをただ香りにぶつけてみようと腹をくくり、〝自らの愛情を抽出し香りに注ぎ込んだ〟香りでした。

つまりは、英国またはドイツ的な気品溢れる美しいブルーアイとブロンドヘアーを持つ妻に対して、そんな彼女が身に纏うに相応しい香りを生み出そうとした〝最愛の妻への香りのラブレター〟だったのでした。

だからこそ、この香りが完成した後、〝リリ・ゲランのパフューム〟とまで周囲の人々から呼ばれるほど、リリは、この香りだけを愛したのでした。

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ひとりの女性への愛に忠実だった男の香り

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ルール ブルーはフレッシュ・フラワーのようだ。それはとてもフェミニンでデリケートです。であるにも関わらず、人でいっぱいの部屋の中でもしっかりと香りを放つのです。

それはまさに魔法のようです。ジャック・ゲランは軽くてフレッシュに感じさせる非常に贅沢な香りを作り出したのでした。信じられないほどの偉業です。

ギ・ロベール(「カレーシュ」を調香した人)

コティの「ロリガン」(1905)からの影響を受けているこの香りは、(青と紫の)花々とスパイスをブレンドするというフローラル・オリエンタルの原型を作り出しました。

はじめてアルデハイドを使用したゲランのこの香りには、天然香料を引き立てるためにごく少量だけアルデハイドが使用されています。

「青の時間」のはじまりは、フレッシュなベルガモットにスパイシーなスターアニスが溶け込むように〝空に太陽がある限り〟と太陽が最後に咆哮しているような情熱の爆発からはじまります。

すぐに香りはスウィートシトラスからパウダリーフローラルへと向かいます。

甘いネロリと、(ムスクがブレンドされた)ブルガリアン・ローズを中心としたフローラルを、スパイシーなカーネーションをアクセントに、パウダリーなバイオレットとアイリスがブレンドされ、この香りの〝メランコリーの母〟とも言えるマシュマロのようなパウダリーなヘリオトロープが優しく全てを包み込んでいきます。

太陽が沈むからこそ、星は輝くことが出来るのです。そして、星の輝きは人々がその輝きに対して意識をしないと決して気づかれることのない輝きなのです。この香りのドライダウンには、そんな星に対する万感の想いが込められています。

それは、バニラ、トンカビーン、サンダルウッド、ベンゾイン、オークモスが樹木としめった土の匂いを付け加えながら魅せてくれる、ゲルリナーデにより表現されているのです。

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エリザベス女王とカトリーヌ・ドヌーヴが愛した香り

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エリザベス女王

1953年6月2日の戴冠式のエリザベス女王。

私の人生の中で、男性と香水が存在しない日はありませんでした。私は服を着るのと同じように香水を身に纏います。それは若い時からの習慣です。それは私をすごく安心させます。香水は私にとってとても重要なものです。それは魔法のようなものです。

その愛の深さは、シャネルNo.5のミューズであった時期でさえも、私は「ルール ブルー」またはゲランの香水を愛用していると言ってしまうほどでした。

カトリーヌ・ドヌーヴ

エリザベス女王(1926-2022)が生涯愛した香りとして、1947年11月20日のロイヤル・ウエディングと1953年6月2日の戴冠式で身に纏っていた可能性が最も高い香りと言われています。さらにカトリーヌ・ドヌーヴ(1943-)にとってもこの香りは最愛の香りでした。

他にもロミー・シュナイダー、ライザ・ミネリ、ビアンカ・ジャガー、ミレーヌ・ファルメール、ジュリア・ロバーツ、ケイト・モスなどの世界中の映画女優やセレブリティに愛された香りでした。

ボトル・デザインは、ジョルジュ・シュヴァリエがデザインし、バカラにより製作されました。女性の曲線美を反映させた(1890年代の)アールヌーヴォーの特長を見せるボトルデザインは、「逆さハート」または「二角帽子」のストッパーが特徴的です。

そして、このボトルデザインは1919年に創られた「ミツコ」においても使用されました。ちなみにこの香りは、2005年から06年にかけてIFRAによる香料制限の影響を受け変更されています。

ルカ・トゥリンは『世界香水ガイド』で、「ルール ブルー」を「デザートの空気」と呼び、「ルール ブルーのすばらしいところは、新鮮で重みのない陽気なオレンジの花を大役に抜擢し、両脇にたいそうな成分オイゲノール(クローブ、カーネーション)とイオノン(ウッディバイオレット)を置いたことだ。3人のコーラスはどういうわけかおいしそうなプラリネ(アーモンドをキャラメルで包んだ菓子)になっている。」

「リキュールのきいたトリノの伝統菓子「ジャンドゥーヤ」に近い。これぞ、ゲラン。架空のパティシエの技の極みだ。食べられるか、食べられないかの瀬戸際で、何時間も足を踏み外さずにゆれている香水だ。」と5つ星(5段階評価)の評価をつけています。

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戦場の中でジャック・ゲランを励ました香り

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第一次世界大戦において塹壕で休む兵士達。

この香りが誕生した1912年にタイタニック号が沈没しました。そして、二年後の1914年7月28日から1918年11月11日にかけて1000万人~2000万人の戦死者を生み出すことになる、歴史上初めての世界大戦が勃発することになりました。

そんな大戦前夜の1914年に、ゲランは、本店をパリ・シャンゼリゼ68番地にオープンしたのでした。

ヨーロッパ中で6000万人の人々が動員されたこの世界大戦において、3人の子を持つ親である41歳のジャック・ゲランも、1914年8月1日の総動員の中、出征することになりました。

塹壕戦の中、ジャックを慰めてくれたのは、ハンカチに湿らせた「ルール ブルー」の香りでした。この香りにより最愛の妻リリを想う人間の心を、地獄の戦場の中で持ち続けることが出来たのでした。そして、ジャックは頭を怪我し、片目が見えなくなり、復員することになるのでした。

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2012年に発売された100万円を超えるルール ブルー

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2012年には、「100周年記念」ボトルが発売されました。

ボトルデザインは従来の逆さハートのものではなく、1908年のゲランの香り「リュー ドゥ ラ ペ(平和通り)」のために、ガブリエル・ゲランがデザインし、バカラにより製作された〝クアドリローブ〟ボトルが、再びバカラにより青く着色され復刻したものでした。

更に、グリポワパリによる24カラットゴールドとクリスタルガラスで作られたバイオレットのアクセサリーがあしらわれた豪華なものとなり、このアクセサリーがつくものは490ml、11000ユーロで販売され、アクセサリーなしだと660ユーロという、いずれにしてもかなり高価なものが43本のみ販売されました。

グリポワパリとは、1890年代にサラ・ベルナールのためにコスチューム・ジュエリーを創作したアウグスティナ・グリポワが興した工房です。やがて、ガブリエル・ココ・シャネルのためにジュエリーを製造するようになり、以後、バレンシアガ、ディオール、サンローランなどそうそうたるラグジュアリー・ブランド・ジュエリーの製作を請け負っています。

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香水データ

香水名:ルール ブルー
原名:L’Heure Bleue
種類:香水
ブランド:ゲラン
調香師:ジャック・ゲラン
発表年:1912年
対象性別:女性
価格:30ml/44,000円


トップノート:アニス、コリアンダー、クラリセージ、クローブ、ネロリ、ベルガモット、レモン
ミドルノート:カーネーション、オーキッド、ジャスミン、クローブ、ネロリ、ヘリオトロープ、イランイラン、ブルガリアン・ローズ、バイオレット、バニラ
ラストノート:アイリス、サンダルウッド、ムスク、ベンゾイン、バニラ、ベチバー、トンカビーン