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【エルメス】李氏の庭(ジャン=クロード・エレナ)

エルメス
©Hermès
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李氏の庭

原名:Le Jardin de Monsieur Li
種類:オード・トワレ
ブランド:エルメス
調香師:ジャン=クロード・エレナ
発表年:2015年
対象性別:ユニセックス
価格:30ml/9,460円、50ml/14,520円、100ml/20,350円
公式ホームページ:エルメス

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長江から、中国の竹林の庭園へとつづく瞑想の旅

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池の匂い、ジャスミンの香り、湿った小石の匂い、スモモや金柑の木、巨大な竹林の香りを、記憶をたどって思い浮かべました。すべてがそこにありました。池の中でゆったりと百年の時を経てきた鯉までもが。花椒(ホワジャオ=四川山椒)の茂みはバラのような棘を持ち、その葉はレモンのような香りを漂わせていました。私に残された仕事は、他のすべての要素も織り込んで、新しい庭をつくることだけでした。

ジャン=クロード・エレナ

エルメスの専属調香師ジャン=クロード・エレナは、2015年にエルメスの『庭園』シリーズ第五弾として「李氏の庭」を調香しました。そして、この香りが、最後の〝エレナの庭〟となりました。わずか25種類の香料で生み出された香りです。

「李氏の庭」は、エルメスの同年の年間テーマ〝フラヌール ― いつでも、そぞろ歩き〟(Invitation a la Flanerie)に合わせて生み出された香りでした。フラヌール(Flâneur)とはフランス文化特有の言い回しで遊歩者、つまりあてもなく散策する人という意味です。かつてパリの街を豊かな時間の流れに任せて歩いた芸術家たちは、街の至るところに創造の種を見つけては、彼らの作品に昇華させました。

その精神で、エレナは中国を訪問し、数々の庭からインスピレーションを受けて、それらを合わせた架空の庭<李氏(ムッシュ・リー)の庭>の香りを創造したのでした。

2014年3月にクリスティーヌ・ナジェルが二代目調香師として合流して以降、エルメスの香水の精神を伝承していたことを考えるとこの香りは、ナジェルからの影響も強く受けていると考えられます。

当初は、英国の庭をイメージした香りが予定されていたのですが、エレナが、〝あまりにそれではありきたりで退屈すぎる〟と、予定を変更したことから、中国をテーマにすることが決定しました。

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「オ パフメ オーテヴェール」から23年かけて到着した庭

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「楊貴妃の庭」「李白の庭」といった名前に置き変えたくなるほど、洗練されたエレナの最後の庭は、ジョーヌ・アンペリアル(皇帝の黄色)を連想させる柑橘の煌めきからはじまります。キンカンの登場です。中国の長江中流域原産の〝黄金色のミカン〟を意味するこの柑橘は皮ごと食べることができ、円やかな甘さと繊細な酸味が特徴です。

そんなオレンジのようにジューシーな甘やかさを、弾けるようなベルガモットと華北山椒が押し出すようにして「李氏の庭」ははじまります。レモンのような香りであり、まるで長江の上に煌めく太陽の閃光のようです。

すぐに竹林とミントの優しげな緑の香りに導かれるままに、大河から静かな中国の竹林の庭園へと香りの場面は転換してゆきます。

この香りのテーマのひとつである〝異なる種類の美が決して競い合うことなく、むしろ互いを引き立て合い、高め合う〟つまりは〝香りの散策であり、一歩踏み出すごとに想像力が解き放たれる瞑想〟に包まれてゆきます。

だからこそ、この香りは〝とても静かで、優しくて、儚げ〟なのです。夢だとわかっていても、目を覚まさずにずっと見ていたい夢のような香りとも言えます。

「李氏の庭」に話を戻しましょう。すぐにウォータリーなジャスミン・サンバックが注ぎ込まれ、竹の香りと結びつき、朝靄の池を想わせる幽玄さを広がらせてゆきます。前作の「屋根の上の庭」で失われた水が取り戻されたようです。

このジャスミンが、まさにこの香りを水墨画のようにしているのです。インドールを排除したジャスミンは、恐らくヘディオンであり、色彩を取り除いた水彩画を生み出していくようなのです。

そして、ベチバーと樹液がしのび逢う心のように、キンカンとジャスミンの甘やかさに大いなる大地の静謐さを加えてゆくのです。(海水に打たれる石ではなく)池の石を想わせるミネラルの香りとほんのりムスキークリーミーな薄靄に包まれ、心の隙間に染み入るようにほのかにグリーンシトラスの余韻が残されてゆくのです。

エレナの最後の庭の香りが伝えてくれるもの。それは、「エルメスの庭」が日常の中のラグジュアリーの瞬間を捉えている所にあります。ふとした瞬間に感じる贅沢な喜びが、心の中で輝き続けるのです。

おもむろに分かりやすいエレガンスではなく、心にそれを受け止めるだけのキャパと感性の豊かさがあるときにしか感じ取ることのできない繊細なコレクションなのです。

それは「ロー ドゥ イッセイ」の水から、おもてなしの心を緑茶の香り「オ パフメ オーテヴェール」で導き出したエレナが、11年目にして辿り着いた「心安らぐ香りの庭」のコレクションなのです。そして、この香りこそは、そんなエレナが、おもてなしの心の先にある、〝いつも心に癒しの庭〟へと達した23年目のお茶の香り=〝最後の庭〟なのです。

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香水データ

香水名:李氏の庭
原名:Le Jardin de Monsieur Li
種類:オード・トワレ
ブランド:エルメス
調香師:ジャン=クロード・エレナ
発表年:2015年
対象性別:ユニセックス
価格:30ml/9,460円、50ml/14,520円、100ml/20,350円
公式ホームページ:エルメス


シングルノート:キンカン、ジャスミン・サンバック、ミント、ベルガモット