自分を黒人と思っている白人ドレクスル・スパイビー
「母親がアパッチだった」であり、父親は黒人だと思い込んでいる男ドレクスル・スパイビーが登場する。
ゲイリー・オールドマン(1958-)は、トニー・スコットとビバリーヒルズのフォーシーズンズでお茶を飲みながら、「キミに演じてもらいたい役は、自分自身のことを黒人だと思い込んでいる白人で、コイツは人を殺すことはなんとも思わないポン引きなんだ」と聞き、大笑いしながら即決で役柄を引き受けたのでした。
そして、彼は、白人のレゲエシンガー、ウィリー・ワン・ブラッド(後に『レオン』(1994)で共演する)のスタイルを参考にし、彼自身のアイデアでドレクスル・スパイビーの全ての外観を作りあげていきました。ドレッドロックスに顔面の傷、金をかぶせた歯にストリート・ファッションです。
母親といつも一緒だったオールドマン
早速、ドレッドロックスのウィッグを『ドラキュラ』(1992)のウィッグを作ってくれたスチュアート・アーティンストールに依頼し、48時間で製作してもらいました。
さらに役作りのために、オールドマンはこの時『蜘蛛女』を撮影しており、ブルックリンにいたので、ドレクスルの台詞を、何人かのストリートの若者に見せて、「こんな話し方するかな?」とセリフや話し方のチェックをしていました。
撮影当日にはじめてドレクスルになったオールドマンを見たトニー・スコットは、「私が求めていたのはこれなんだ!」と大絶賛しました。更に、ここからが、オールドマンらしいのですが、当時70歳だった自分の母親を毎日セットに連れてきて、自分の演技について、意見を聞いていたのです。
ドレクスル・スパイビー・ルック1
ポン引きファッション
- 紫色のシャツ、ネオン柄
- ブラックサルエルパンツ
- 獣の牙のネックレスを重ねづけ
- 獣の牙のブレスレット
ブラック&ホワイトミックスのさきがけ
マーティ、こいつを知ってるか?チャールズ・ブロンソンだぜ。そう、ミスター・マジェスティックのお出ましさ!
ドレクスル・スパイビー
トランクス一丁にレオパルド柄のロングガウンにブラックレザーベレーという強烈にパンチの効いたピンプ像は、ひとつのアンダーグラウンド・スタイル・アイコンとして不動の地位を収めました。
そして、僅か10分にも満たないこの作品のドレクスルが、白人が黒人ファッションをどんどん取り入れていく風潮を加速するタブーを突き破ったのでした。1993年以降、ファッションシーン及び映画&ミュージック・シーンにおいて「黒人と思っている白人」が増殖するようになりました。
2011年のアメリカン・フィルム・インスティチュートとのインタビューで、オールドマンは、「私のお気に入りの役柄は、『JFK』(1991)のリー・ハーヴェイ・オズワルドとドレクスル・スパイビーでした」と答えています。ファッションが人種の壁を取り除いた瞬間でした。
ドレクスル・スパイビー・ルック2
レザーベレー
- 黒のカンゴールのレザーベレー
- レオパルドロングコート、ブラック・サテンのショールカラー
- 白のトランクス
- ブラウンのレザースリッポン
- 獣の牙のネックレスを重ねづけ
- 獣の牙のブレスレット
作品データ
作品名:トゥルー・ロマンス True Romance (1993)
監督:トニー・スコット
衣装:スーザン・ベッカー
出演者:クリスチャン・スレーター/パトリシア・アークエット/ブラッド・ピット/ゲイリー・オールドマン/デニス・ホッパー/クリストファー・ウォーケン/マイケル・ラパポート
- 【トゥルー・ロマンス】獰猛なファッションだけが生き残る
- 『トゥルー・ロマンス』Vol.1|バート・レイノルズを愛する女、パトリシア・アークエット
- 『トゥルー・ロマンス』Vol.2|パトリシア・アークエットの元祖コギャル・ファッション
- 『トゥルー・ロマンス』Vol.3|ナイスボディじゃない女のためのパトリシア・アークエット
- 『トゥルー・ロマンス』Vol.4|クリスチャン・スレーターとエルヴィス・プレスリー
- 『トゥルー・ロマンス』Vol.5|クリスチャン・スレーターとM65フィールドジャケット
- 『トゥルー・ロマンス』Vol.6|クリスチャン・スレイターとオタク主導型ファッション文化
- 『トゥルー・ロマンス』Vol.7|ブラッド・ピット=なんの役にも立たない男
- 『トゥルー・ロマンス』Vol.8|ゲイリー・オールドマンの狂気