自分を黒人と思っている白人ドレクスル・スパイビー
「母親がアパッチだった」であり、父親は黒人だと思い込んでいる男ドレクスル・スパイビーが登場します。
ゲイリー・オールドマン(1958-)は、トニー・スコットとビバリーヒルズのフォーシーズンズでお茶を飲みながら、「キミに演じてもらいたい役は、自分自身のことを黒人だと思い込んでいる白人で、コイツは人を殺すことはなんとも思わないポン引きなんだ」と聞き、大笑いしながら、作品の内容について一切聞かないうちに即決でドレクスル役を引き受けました。
そして彼は、白人のレゲエシンガー、ウィリー・ワン・ブラッド(後に『レオン』(1994)で共演する)のスタイルを参考にし、彼自身のアイデアでドレクスル・スパイビーの全ての外観を作りあげていきました。ジャマイカ訛りのアクセントに、ドレッドロックスに顔面の傷、金をかぶせた歯にストリート・ファッションです。

ウィリー・ワン・ブラッド

『レオン』(1994)のウィリー・ワン・ブラッド。
クエンティン・タランティーノはオールドマンのドレクスルというキャラクターに感動し、『パルプ・フィクション』で再登場を真剣に考えていたほどでした。
この撮影中の動画集がスゴいです。特にゲイリー・オールドマンとクリストファー・ウォーケンの存在感が凄まじいです。

この異様な顔面部の傷と、牙一族のような牙飾り。

しかも片目は失明しているのです。
母親といつも一緒だったオールドマン

素晴らしいこの肩の落ち感

親友の女優との珍しい写真。
早速、ドレッドロックスのウィッグを『ドラキュラ』(1992)のウィッグを作ってくれたスチュアート・アーティンストールに依頼し、48時間で製作してもらいました。
さらに役作りのために、オールドマンはこの時『蜘蛛女』を撮影しており、ブルックリンにいたので、ドレクスルの台詞を、何人かのストリートの黒人の若者に見せて、「こんな話し方するかな?」とセリフや話し方のチェックをしました。
撮影当日にはじめてドレクスルになったオールドマンを見たトニー・スコットは、「私が求めていたのはこれなんだ!」と大絶賛しました。更に、ここからが、オールドマンらしいのですが、当時70歳だった自分の母親を毎日セットに連れてきて、自分の演技について、意見を聞いていたのです。
ドレクスル・スパイビーのファッション1
ポン引きファッション
- 紫色のシャツ、ネオン柄
- ブラックサルエルパンツ
- 獣の牙のネックレスを重ねづけ
- 獣の牙のブレスレット

最後に『トゥルー・ロマンス』と言えばこの男の存在は外せない。

かつてシド・ヴィシャスを演じ、ウィンストン・チャーチルを演じ、オスカーを獲得した男ゲイリー・オールドマンです。

右は当時43歳だったサミュエル・L・ジャクソンです(彼自身も熱烈なるソニー千葉のファン)。そして勿論秒殺されます。

オールドマンは、ニューヨークのミート・パッキング・ディストリクトのゲイボーイの着こなしを参考にしました。
ブラック&ホワイトミックスのさきがけ

クラレンスがドレクスルの売春宿を訪れるシーン。箸を持ち中華を貪るドレクスル。

『ワンピース』にも大いなる影響を与えたドレクスル。

そして『パイレーツ・オブ・カリビアン』にも影響を与えた。
マーティ、こいつを知ってるか?チャールズ・ブロンソンだぜ。そう、ミスター・マジェスティックのお出ましさ!
ドレクスル・スパイビー
トランクス一丁にレオパルド柄のロングガウンにブラックレザーベレーという強烈にパンチの効いたピンプ像は、今ではひとつのアンダーグラウンド・スタイル・アイコンとして不動の地位を獲得しています。
そして、僅か10分にも満たないこの作品のドレクスルが、白人が黒人ファッションをどんどん取り入れていく風潮を加速するタブーを突き破ったのでした。1993年以降、ファッションシーン及び映画&ミュージック・シーンにおいて「黒人と思っている白人」が増殖するようになりました。
2011年のアメリカン・フィルム・インスティチュートとのインタビューで、オールドマンは、「私のお気に入りの役柄は、『JFK』(1991)のリー・ハーヴェイ・オズワルドとドレクスル・スパイビーでした」と答えています。ファッションが人種の壁を取り除いた瞬間でした。
ドレクスル・スパイビーのファッション2
レザーベレー
- 黒のカンゴールのレザーベレー
- レオパルドロングガウン、ブラック・サテンのショールカラー
- 白のトランクス
- ブラウンのレザースリッポン
- 獣の牙のネックレスを重ねづけ
- 獣の牙のブレスレット

カンゴールのベレー帽は、後にタランティーノ監督の『ジャッキー・ブラウン』でサミュエル・L・ジャクソンもかぶっています。

レオパルド柄のガウンの下は白のトランクスです。

レオパルドロングガウンが妖しい照明に映えます。

このスタイルこそ、ブラック&ホワイトミックスの元祖。

トータルで8分にも満たない出演で、圧倒的な存在感を残してゆきます。

カットされたのでしょうか、子犬を抱いているドレクスル。
作品データ
作品名:トゥルーロマンス True Romance(1993)
監督:トニー・スコット
衣装:スーザン・ベッカー
出演者:クリスチャン・スレーター/パトリシア・アークエット/ブラッド・ピット/ゲイリー・オールドマン/デニス・ホッパー/クリストファー・ウォーケン/マイケル・ラパポート
- 【トゥルー・ロマンス】獰猛なファッションだけが生き残る
- 『トゥルー・ロマンス』Vol.1|スーパーヘビー級マフィアと戦うパトリシア・アークエット
- 『トゥルー・ロマンス』Vol.2|パトリシア・アークエットの元祖コギャル・ファッション
- 『トゥルー・ロマンス』Vol.3|ナイスボディじゃない女性の守護神 アラバマ・ウィットマン
- 『トゥルー・ロマンス』Vol.4|クリスチャン・スレーターとエルヴィス・プレスリー
- 『トゥルー・ロマンス』Vol.5|クリスチャン・スレーターとM65フィールドジャケット
- 『トゥルー・ロマンス』Vol.6|クラレンス・ウォリーのアロハシャツ
- 『トゥルー・ロマンス』Vol.7|ブラッド・ピット=なんの役にも立たない男
- 『トゥルー・ロマンス』Vol.8|ゲイリー・オールドマンの狂気