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『愛の嵐』1|シャーロット・ランプリングとトレンチコート

シャーロット・ランプリング
シャーロット・ランプリング
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悲劇的な目を持つ女。



ルチア・ルック3 ウール・バスガウン
  • 白のレースのネグリジェ
  • 水色のウールのバスガウン

リリアーナ・カヴァーニにとって、マックス役は、ダーク・ボガード以外に考えることが出来ませんでした。しかし、ルチア役に関しては、シャーロットとミア・ファローで悩んでいました(その外にもロミー・シュナイダーとドミニク・サンダも候補に挙がっていた)。特に『地獄に堕ちた勇者ども』のシャーロットの役柄は、静的で面白みのない役柄だったので参考にしませんでした。しかし、ジュゼッペ・パトローニ・グリッフィ の『さらば美しき人』を見た後、もう彼女しかいないと確信したのでした。

その何とも言えない悲しみを湛えた眼差し。そんな自身の風貌に対してシャーロットはこう回想しています。「私の目が悲しみを湛えていると言われるようになったのは、ある日を境にしてでした。それは私が20歳の1967年のことです。アルゼンチンで新婚生活を営み、息子を授かっていた23歳の姉が突然拳銃自殺したのでした。父親が軍人で転勤が多かった分だけ、私達姉妹は一番の親友だったのです。」

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アメディオ・アモディオの登場。

後ろにマックスがいる。夫が指揮するオペラの舞台は、モーツァルトの「魔笛」。パパゲーノが陽気に歌っています。

シャーロットとリリアーナ・カヴァーニ。

ルチア・ルック4 カクテルドレス
  • スパンコール・オフショルダー・カクテルドレス
  • 優雅なロングケープ

ここに、後のルチアの男装の舞いの対比となる素晴らしいバレエ・シーンが挿入されます。アメディオ・アモディオ(1940-)の登場です。バレエ・リュスのディアギレフの秘蔵っ子であり、『赤い靴』(1948)にも出演したレオニード・マシーンや、ニューヨーク・シティ・バレエ団の創立者ジョージ・バランシンの下でキャリアを積み上げ、トップダンサーとして活躍し、1979年にミラノに、コンテンポラリー・ダンス・カンパニー《アテルバレット》を創立しました。

アモディオ扮する元SS隊員バートが、ホテルの狭い一室で、マックスの操る照明に照らされてグルックの「ドン・ファン」を舞います。やがて時代は遡り、ベージュ色のTバック・スタイルでSSの同僚たちが見守る中、グルックの「オルフェオとエウリディーチェ」を舞います。その踊りの完成度の高さと恍惚感に対してひんやりした空気感が不気味さを漂わせています。

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彼女は、もう普通の生活には戻れない人でした。


ルチア・ルック5 スカートスーツ
  • 格子柄のスカート・スーツ、スカートはグレー、細身のシルエット
  • 一連パール、耳にもパール
  • 白のハイゲージのセーター
  • 黒のストッキングに黒のローファーパンプス

強制収容所から生き残った私たち全てが言えることはただ一言だけです。それは最も善良な人々は帰ってこなかったということです。

『夜と霧』ヴィクトール・フランクル

リリアーナ・カヴァーニが、1963年に監督したテレビ・ドキュメンタリー「第三帝国の歴史」の取材のために、アウシュヴィッツ強制収容所に収容された経験のあるユダヤ人のブルジョワ女性にインタビューしました。その時、実は彼女は、解放されてから夫と子供のいるミラノの自宅へは帰っていないと告白したのでした。あまりにも収容所で苛酷な環境を経験してしまい、もはや日常の生活を生きることが出来なくなってしまったのです。気まぐれな残酷性の中で、死と隣り合わせの恐怖を感じながら、どんなに惨めなことでもやってのけるようになりながら、地獄の日々を乗り越えて、生き延びたのです。彼女は、ナチスによって、自分の中の人間としての歪みを知り尽くしてしまったのです。そして、彼女はリリアーナに最後言ったのでした。「多くの収容者たちが、生き残るためにしたことをあなたが知ったならば、私たちがとても善良だとは思えないはずです」と。

実に魅力的な1950年代的なテーラード・スーツを着こなしていたルチアが、マックスと同棲することを選び、もうそういったファッションに拘りを持つことを辞めます。強制収容所の始まりが、衣服の放棄であるように、人間性を崩壊させるための最短距離は、衣服の放棄なのです。そして、彼女は自らそれを放棄し、マックスの衣服を着ることにより、実はあの日に、自分自身が崩壊していたことを知るのです。生き残るために嫌悪感に満たされながらしていたことが、やがては生き甲斐になってしまっていたという事実に彼女ははっきりと気づいたのでした。「私の心がずっと満たされていなかったのはこのためだった!」そのことを知ったのでした。