「僕は、ジャックの復讐心です」
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2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ事件を予見したようなラストの映像。
エドワード・ノートンが演じた「僕」の衣装のポイントは、タイラー・ダーデンにないものすべてを示すことでした。この2人のキャラクターが同じ映画に出演しているとは思えない衣装をチョイスしました。
ベージュやグレー、ひどいネクタイ、ポリエステルのドレスシャツなど、今まで見たこともないような退屈なキャラクターで、見ているだけで眠くなってしまうようなものを着てもらいました。
とにかくファッションセンスとは無縁の人物を作り出そうとつとめました。
マイケル・カプラン
1999年公開当初、制作費すら回収できない大失敗作となったのですが、DVD時代の到来により、本作DVDは爆発的な売り上げを叩き出しました。映画を〝読書のように見る〟時代に作風(=巻き戻ししないと見落とすシーンが多くある映画)がマッチした結果でしょう。
この作品の最大の面白さは、〝男が持つ理想〟のあらゆる形(子供じみたものも含めて)を、タイラー・ダーデンの反逆精神を通して見せてくれるところにあります。
ファッションとは反逆です。そして、反逆精神が生み出した過去のクラシックスタイル(モッズ、ヒッピー、パンク、グランジなど)を、うまく現代に落とし込み、色々な自分を作り上げることによって、自分の活動する生活圏(シーン)を広げていく。
つまり、ファッションがあなたを、相応しい場所へ導いていくれるように、自分だけのタイラー・ダーデンを見つけて、「僕」を同化させていく楽しみに満ちた作品とも言えます。
だから「僕は、ジャックの結腸です」そして、「僕は、ジャックの復讐心です」なのです。
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「僕」を見事に演じたエドワード・ノートン。
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エドワードは、日本で働いたことがあり、日本語が少し話せます。
エドワード・ノートンの役作り
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『アメヒスX』のエドワード・ノートンのビルドアップされた肉体。「僕」と雰囲気が違います。
「僕」=エドワード・ノートン(1969-)は役作りのために、本作の前に出演していた『アメリカン・ヒストリーX』でビルドアップしていた肉体を約8キロ落としました。
タイラー・ダーデンのファッション15
ホワイト・ディナージャケット
- ホワイト・ジャケット、シングルボタン、ノッチラペル
- 透かしストライプのホワイトシャツ
- ブラックトラウザー
- オリバー・ピープルズのOP-523
このホワイト・ジャケットがとても変わっています。ベストのような短さでありながら、とんでもなくクールなこなれ感を演出してくれます。サンローランやセリーヌあたりが出してくれそうなモード色の強いデザインです。
グッチのビットローファー
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トム・フォード時代のグッチが本作のスポンサーです。
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なので所々にグッチが登場します。
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そして、これがタイラー・ダーデンが履くグッチのビットローファーです。
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バーガンディのビットローファー。
このグッチのビットローファーは、衣装デザイナーのマイケル・カプランがパームスプリングスのリサイクルショップで10ドルで見つけたものでした。
「着陸します!座席を元の位置に!」それが今。
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ブルース・リー・スタイルがここまで様になる白人はいない。
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『ファイト・クラブ』と言えば、このポーズは外せない。
とても興味深い事実として、衣装デザイナーのマイケル・カプランは、タイラー・ダーデンの衣装をロサンゼルスの古着屋で探していたときに、「とびきりダサい男が考えるクールな男とはどんな男か?」ということを念頭において、〝奇妙で、不釣り合いで、皮肉に満ちた柄〟のものを探したと回想している事です。
しかし、今改めてこの作品を見返して見ると、タイラー・ダーデンをスマホの中の美化された自分に置き換えることが出来ます。どこにいても自撮りに生命を消耗し、SNSでその写真を発信し、やがて「僕」「私」は機械の奴隷となる。
そして、最後には本当の自分なんて重要じゃなく、理想の自分をただ機械の中で飾り立て、それが本当のあるべき自分の姿だと感じるようになる。
〝着陸します 座席を元の位置に!〟〝飛行機が墜落します!〟
ただこの言葉だけを待って生きているような人生。魂のない空間に支配され、そんな環境に身を委ねる精神安定が、実は精神崩壊の一歩手前だったと知る。
本作の中で、最後に「僕」が言い放つ「出会いのタイミングが悪かったんだ」という言葉そのままに、あらゆるタイミングが狂っていくのです。「嗚呼…私はいつ座席を元の位置に戻せるのだろうか?」そんな事を考えながら、結局は倒した背もたれにもたれて、スマホをいじくる毎日が繰り返されるのです。
タイラー・ダーデンのファッション16
スキンヘッド
- 「ブラックシュガー」ポルノタンクトップ
- フェイク・ファー・コート
- バーガンディ・パンツか、ウェスト・ポイント(陸軍士官学校)風カデット・パンツ
- グッチのビット・ローファー
- オリバー・ピープルズのOP-523
孔雀(ピーコック)のようにタイラー・ダーデンを色とりどりの奇抜なもので飾るという私の計画を、デビッド・フィンチャーが、中止させるのではないかと恐れていました。
マイケル・カプラン
ブラッド・ピットが、〝不滅のメンズ・アイコン〟になったこの作品の面白いところは、1999年当時、世界で最もおしゃれでハンサムな理想の男に、メンズ・ファッションのルールを徹底的に破らせたところにありました。
そして、その奇抜な組み合わせを、夢のようにこなれた物腰で着こなし、99%の男性が、真似するべきではないスタイルを、まるでファッションショーのランウェイのような感覚で提示したのでした。
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「僕」にタイラー・ダーデンが同一人物であることが分かった後、登場するタイラーはバズカットです。
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ブラッド・ピット曰く「エイリアン」のような雰囲気を出したかったとのこと。
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そして、マーラ・シンガーの男性版のようなスタイルとも言えます。
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昆虫=仮面ライダーのような雰囲気を作れ!
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さりげなくポルノ写真が散りばめっられたタンクトップ。
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意外なことに映画内で死んでいるのは一人だけ。
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マイケル・カプランのデザイン画。
ヒステリック・グラマー
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広報写真の中で、ヒステリック・グラマーを着るブラッド・ピット。
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リハーサル前のブラッドのこのファッション。かなりカッコいいです。
かくして男性のファッション・バイブルは生み出された。
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ブルース・リーのファイティング・ポーズを決めるブラピ。
タイラー・ダーデンをラッセル・クロウが演じる可能性もありました。一方、「僕」の候補として、マット・デイモンやショーン・ペンが挙がっていました。
主役の2人は、1998年1月からボクシング、テコンドーなどの格闘技のレッスンを受けました。さらにブラッドはタイラー役のために前歯を削り取ったのでした。
1998年6月8日より撮影は開始され、12月に撮影終了しました。138日という異様な長さに渡る撮影期間の果てに、6300万ドルの予算をかけ、普通の作品の3倍の量のフィルムが消費されました。脂の乗り切ったブラッド・ピットの主演作ということもあり、大ヒットが期待されたのですが、蓋を開けてみると2600万ドルの大赤字でした。
しかし、今ではこの作品は、「オトコの不滅のファッション・バイブル」の1つとしてタイムレスな輝きを放っています。この作品によって、ブラッド・ピットは21世紀のファッション・アイコンとしての道を突き進んでいくことになるのでした。
「タイラー・ダーデンを知ってるか?」もうそろそろこの作品は、「主婦のバイブル」になってもいいんじゃないでしょうか?ダンナの倒れた背もたれを、元の位置に戻す参考の教材として…
作品データ
作品名:ファイト・クラブ Fight Club (1999)
監督:デヴィッド・フィンチャー
衣装:マイケル・カプラン
出演者:エドワード・ノートン/ブラッド・ピット/ヘレナ・ボナム=カーター/ミート・ローフ/ジャレッド・レト