マリリンというアンドロギュヌスを知っているかい?
「フーズ・ザット・ガール?」 1983年全米第21位/全英第3位
1960年代のブロンドヘアーのウィッグを被り、リトルブラックドレスを着てナイトクラブの歌手として歌うアニー・レノックス。しっとりとした艶やかなヴォーカルの中で現れるエルヴィス・プレスリー風の男性。実は彼は、アニーの男装であり、最後にはこの2人がキスまでするのですが、この曲の隠し味はそこではありません。
スーパースターとしてモテモテなデイヴ・スチュワートがとっかえひっかえエスコートする女性たちの中に、バナナラマのメンバー全員が出演しています。そのうちの一人シヴォーン・ファーイとはこのゲスト出演が切欠になり1987年に2人は結婚します。(1996年に離婚)
隠し味は、このPVで一番美しい女性の存在にありました(彼女が登場した後のアニーの嫉妬の眼差しが印象的)。そのサングラスを上げる女性こそが、男性として生まれながら女性さえも嫉妬する美しさに満ち溢れたマリリン(1962-)でした。そのアンドロギュヌスな魅力で、ポスト・ボーイ・ジョージと考えられていた人であり、ボーイ・ジョージとは親友でした。
1983年「コーリング・ユア・ネーム」で全英第4位に輝きます。少年時代から女性らしい容姿でいじめられたマリリンは、15才で学校をドロップアウトしています。その頃につけられたあだ名が、彼がマリリン・モンローに似ていたので「オカマのマリリン」でした。ホモ嫌いに罵られたこのあだ名から自分の長所を見つけ出したマリリンは、ブロンドのブリーチしたヘアスタイルに、ヴィンテージドレスを着て、ナイトクラブに出現するようになりました。1970年代末、ニューロマンティックの波がやって来ていました。彼の容姿は、最先端になり、クラブでも憧れの的になりました。
人気クラブ〝ブリッツ〟で、ボーイ・ジョージと出会い、2人は親友になりました。そして、ニューロマンティックのスター街道を2人は歩みだすのでした。しかし、同時にドラッグ中毒にもなり、1986年、2人ともドラッグ所持で逮捕され、マリリンは、一発屋として消えていきます。(ボーイ・ジョージはカルチャー・クラブ解散へ)マリリンは後のインタビューで1980年代から2000年代半ばまでドラッグ常習者で廃人同様だったと告白しています。現在は、歌手に復帰し、ジャン=ポール・ゴルチエやヴィヴィアン・ウエストウッドのファッションショーにも出演しています。
白いグレース・ジョーンズ
「セックス・クライム」 1984年全英第4位
作業服に赤い帯をつけて、時にパテントレザーのコートをかぶり、デヴィッド・ボウイのように歌うアニー・レノックス。『1984年』というジョージ・オーウェル原作の映画の主題歌として作られたが、もはや映画の主題歌を飛び越えた強烈な個性ゆえに、結局は使用されなかった曲です。スキャットの時のアニーの表情が素敵です。
もうバック・ヴォーカルの天使が素晴らしすぎ!
「ゼア・マスト・ビー・アン・エンジェル」 1985年全英第1位、全米第22位
日本において最も知名度の高いユーリズミックスの曲と言えばこの曲でしょう。90年代のスーパーモデル全盛期のファッションショーのランウェイでヘビーローテーションで使用されたこの曲のイメージは一言で言えば、「ヘブンリー」です。そして、スティーヴィー・ワンダーが参加するハーモニカがそのムードをさらに高めてくれます。
女性が、上質な衣服と装飾品に身を包み、ヘアメイクもばっちりと決めて、笑顔で、ランウェイを歩くようなイメージの曲であり、間違っても結婚式で使用される類の曲ではありません。さてこの曲の面白さは、太陽王ルイ14世に扮したデイヴ・スチュワートのそれっぽさもさることながら、バック・ヴォーカルを担当する小太りの天使(リチャード・クロス)のヘブンリー・ヴォイスです。
アンドロギュヌスというイメージのアニー・レノックスが、この瞬間においても、女神のようでなく、天使の羽根もヴィクトリアズ・シークレットのように背負っていない所が、素晴らしいのです。彼女はどこまでも、宝塚歌劇団で言うところの男役なのです。