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【ユーリズミックス伝説】1|アニー・レノックスとアンドロギュヌス

ユーリズミックス
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ユーリズミックス略歴
  • 1980年 イギリス・ロンドンのレストランのウエイトレスとして働いていたアニー・レノックスが、デイヴ・スチュワートにナンパされ、トゥーリスツというバンドに在籍することになる。やがて共に脱退し、二人は恋人関係を解消し、本気で音楽に取り組もうと誓い合い「ユーリズミックス」を結成する。1981年メジャーデビュー。
  • 1983年 第2次ブリティッシュ・インヴェイジョンの流れに見事に乗り、「スイート・ドリームス」が全米No.1ヒットに。
ユーリズミックス略歴続き

 

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選ばれしスタイル。それがアンドロギュヌス

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アニー・レノックスを知らずしてアンドロギュヌスを語るなかれ。
フォト:ブライアン・アリス、1983年。

アニー・レノックス(1954-)という革命。彼女の存在は、ロック音楽においてよりも、モード界にとって革命でした。アニー・レノックスから女性ファッションの1980年代は始まったとも言えます。この斬新なスタイルは、彼女が今も持ち続けている信念から生まれたものでした。「流行を気にせず、ただ自分が身につけたいモノをつける」ということです。

アルマーニやヴェルサーチは、私に衣装提供を打診してくれました。でも私は、ハンガーにはなりたくないので断りました。私の仕事は歌手であって、ファッション・モデルになるつもりはありません。歌手として、私の作りたい世界観を完全に自分でコントロール出来る状態に常に保っておきたいと考えています。

アニー・レノックス

アニーが、アグレッシヴなショートカットで、スーツを着たのは、ごく単純な理由からでした。「私は相棒のデイヴと対等にバンド活動を行うことを誓い合いました。だから、男性のスーツを着て、髪も切って、口調も男性っぽくしただけです」。実際のところ、異性愛者の彼女にとって、このスタイルは、「男性さえも憧れるようなパワフルな女性像を作る」というコンセプトに基づいた創作活動でした。そんな一つのロックスターを生み出すことが、なんと、世界中の人々のファッションにまで影響を与えたのです。

そして、それはファッション業界に先導されたものではなかったからこそ、エッジの利いたタイムレスなものへと昇華したのです。ファッションの面白さとは、ファッション・デザイナーが生み出すものと、そうでないものの共通点が反逆性にあることなのです。

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そして、アニー・レノックスと言えば、オレンジヘアーにカトー・マスクのマッスル・ポーズ。フォト:ピーター・アシュワース。1983年。

「ロージー・ザ・リベッター」ポーズがこのポーズのモチーフになっています。1942年に製作された軍需工場の生産力を上げるためのプロパガンダ・ポスターで、力こぶを作る女性労働者が被写体となっている。1980年代にこのポスターがフェミニズム運動のひとつの象徴になっていたのです。

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カトー・マスクを正面から捉えたフォト。ローン・レンジャーマスクとも呼ぶ。

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美しい男性が女装しているような妖しさ

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「ラヴ・イズ・ア・ストレンジャー」 1983年11月全米23位/同年4月全英6位(1982年11月リリース時、全英54位)

当時のアメリカでは刺激が強すぎました。曲が始まってすぐにウィッグが剥ぎ取られ、私の性別がわからなくなります。男性が女装していたのか?男装が好きな女性なのか皆確信を持てずに混乱しました。そして、このPVはすぐに(アメリカで)放送禁止になりました。
アニー・レノックス自伝より

「スウィート・ドリームス」の大ヒットの後に再リリースされたこの曲は、現在においては、クロスジェンダー時代の先駆的ミュージックビデオと認識されています。しかし、当時、アメリカにおいては、〝鳥肌の立つような男装者〟が登場すると認識されました。現代においては、スタイリッシュだと認識されるものが、当時においては、吐き気をもよおすようなものだったのです。

この曲は「スウィート・ドリームス」の硬質なメタリックなヴォーカルと比べると、温かみのあるソウルフルな艶やかなヴォーカルで、ドナ・サマーの「アイ・フィール・ラブ」を連想させます。アニーは、高級娼婦として、マリリン・モンローのようなブロンドヘアーにパテントレザーバッグを持ち、フェンディ風の高級ファーを羽織り、黒のショートレザーグローブを身に付けています。

一方、運転手を演じるデイヴ・スチュワートのファッションもスタイリッシュで、ジャン=ポール・ゴルチエ風のゴーグルサングラスを付けています。そして、アニーは、ウィッグを剥ぎ取る!パッツン黒髪にオールレザーのスーツに身を固めSMの女王様の如きファッションに身を固めています。パテントレザーのロングブーツに編みタイツ。ピラミッドスタッズのベルト。

更にアニーがウィッグを取ると、ブロンドヘアーをオールバックにし、黒のダブルのピークドラペルのメンズスーツに、白のドレスシャツにシルバーのタイという男装姿になります。そして、ティアドロップのサングラスをかけて、ロボットダンス(パペットダンス?)をして終わります。何か、あらゆるテイストの原型が詰まっている作品です。間違いなくこれからファッションに関るものが最低100回は見るべきPVです。

アンバランスなバランス。絶世の美女でありながら、ナチスドイツの世界観を連想させるフェチズム溢れる男装の麗人。無機質なシンセサイザーを背景に、極端にソウルフルなパワフル・ヴォイス。静かに立ち、一礼をした宝塚ばりの白人の美女が、演奏が始まると同時に、マイクを前にジェームス・ブラウンばりのファンクを効かせる〝人種逆転〟の衝撃が彼女には存在するのです。まさに唯一無比な反逆者の誕生でした。