1979 ニューウェイヴ
原名:1979 New Wave
種類:オード・パルファム
ブランド:レバンゲルボワ
調香師:ドミニク・ロピオン
発表年:2020年
対象性別:ユニセックス
価格:30ml/19,800円、100ml/42,900円
販売代理店ホームページ:NOSE SHOP
レバンゲルボワについて
レバンゲルボワ(Les Bains Guerbois)。どこかエヴァンゲリオンを連想させる響きを持つこのブランドは、5つ星ホテル「レ バン パリ」のフレグランス・ラインとして2016年にスタートしました。
はじまりは、1885年に、印象派の画家たちが集まる「カフェ・ゲルボワ」を経営していた貴族のフランソワ・オーギュスト・ゲルボワが、「レ バン ゲルボワ」というパリ初の高級スパをオープンしたことでした。
この高級スパには、日本風の温泉、トルコ風の蒸気風呂、ロシア風のサウナがあり、マッサージサロン、美容室、レストランも併設していました。そして、瞬く間にパリの美と健康の殿堂となり、マネ、モネ、ゾラ、ルノワール、プルーストなどの芸術家や上流階級の人々が集まるパリの文化交流の中心となりました。
しかし、やがて人々が自宅にバスルームを持つようになり、衰退していきました。そして、1960年代にゲルボワ家から、医学部の教授モーリス・マロワがこの物件を買い取り、二人の才気溢れる青年たちに貸し出されました。
かくして、1978年に、若き日のフィリップ・スタルクがインテリア・デザインを手がけ、「レ バン ドゥーシュ」という名で、80年代から90年代にかけて世界で最も有名なナイトクラブとして、生まれ変わったのでした。ニューヨークのナイトクラブ「スタジオ54」は、数カ月前(1977年4月26日)にオープンしていました。
デヴィッド・ボウイ、アンディ・ウォーホル(ウォーホルが弟子のジャン=ミシェル・バスキアやキース・ヘリングを披露したのもここでした)、セックス・ピストルズ、ローリング・ストーンズ、カール・ラガーフェルドなど数々の著名人から愛されました。
ちなみにエディ・スリマンが10代の頃このクラブで遊んでいた想い出を投影した香りが、セリーヌの「ナイトクラビング」です。人類最強のDJと呼ばれたデヴィッド・ゲッタのキャリアもここで築き上げられました。
その後、1998年に建物の改修のため閉鎖され、2015年に父モーリスからオーナー権を引き継いだ、映画プロデューサーのジャン=ピエール・マロワ(1963-)の手によって、39のゲストルームを持つ5つ星ホテルとして、再び生まれ変わりました。そして、この時、ナイトクラブと高級スパも復活させたのでした。
ちなみにマロワがプロデュースした映画で有名なものとして、ジュリエット・ビノシュ、マリオン・コティヤールが出演した2004年の『マリー ~もうひとりのマリア~』やジョシュ・ハートネット、木村拓哉が出演した2008年の『アイ・カム・ウィズ・ザ・レイン』があります。
心に金属音を刻みながら、素肌に甘いくちづけを浴びる香り
「レ バン ドゥーシュ」の夜、またもやイギリスの若いバンドがステージに立った。トランス状態に近いカリスマ的なリードシンガーによる伝説的なパフォーマンス。小人数しか入れないからこそ選ばれし熱狂的空間に溺れていく若き観衆たち。何一つ隠すものなく感情と音が混ざり合い、はっきりとした香りのウェイブに乗り身を委ねる。ペパーミント、オリス、シダーウッド。ニューロマンティック。これは暗い世界観だろうか、それとも陽気な世界観だろうか。その両方かもしれない。
公式ホームページ
1885年の高級スパ「レ バン ゲルボワ」から、1978年の伝説のナイトクラブ「レ バン ドゥーシュ」を経て、2015年の5つ星ホテル「レ バン パリ」へと到達した、130年の時を越える水として生み出されているのが、「レバンゲルボワ」の香水達です。
「2015 ル フェニックス|不死鳥」がフレグランス・ファウンデーション・アワードを受賞し、この式典で、ジャン=ピエール・マロワはドミニク・ロピオンと出会い意気投合し、二つの香りが生み出されることになりました。そのうちのひとつとして2020年に生み出されたのが〝Collection Une date, Une histoire(ある日、ある物語)〟のひとつ「1979 ニューウェイヴ」でした。
レ バン ドゥーシュには、大きなコンサートホールが併設されており、1978年12月21日のオープニング・パーティから1984年まで、当時、英国のミュージック・シーンを席巻していたニュー・ウェイヴの聖地として、コンサートが最大300人の観客の前で開催されていました(その後、レストランとナイトクラブだけになる)。
アダム&ジ・アンツやヒューマン・リーグ、デペッシュ・モード、ニュー・オーダーといった1980年代にMTV文化の興隆に乗り、ニュー・ロマンティクス旋風を生み出したグループも1979年はこのステージの常連でした。
1979年にレ バン ドゥーシュではコンサートが盛んに行われていました。その年はシンプル・マインズ、デペッシュ・モード、ジョイ・ディヴィジョン (後にニュー・オーダーとなる) などのバンドが出演し、彼らによって〝ニュー・ウェイヴ〟がイギリスから生まれた年でした。
それはポストパンクの時代で、音楽はロボット的で非常にエレクトリック、そしてドライで冷たいものでした。そこで私はドミニク・ロピオンに対して、音楽の種類と感情を説明しました。そして彼は非常に冷たいものを選びました。〝ニュー・ウェイヴ〟は、以前のヒッピーやディスコの音楽やスタイルとはまったく異なっていたため、一部のロック評論家からコールドウェイブと呼ばれていたからです。
ジャン=ピエール・マロワ
ミントとアイリスが、冷たく燃え上がり、あなたを凍らせる。
〝ニュー・ウェイヴ〟を象徴する原料として、ドミニクは二種類のミントを選びました。これは調香師にとって非常に怖いものです。なぜなら、すぐに制御不可能なほど刺激の強い香りがしてしまうので、扱いが非常に難しいからです。多くの調香師が苦手とする領域です。
一種類のミントだけでも大変なのですが、ドミニクは二種類のミントを見事に飼い馴らし、我がブランドにおいて、最も魅力的なフレグランスの1つであり、市場に出回っているものと比べてもユニークなものを創造してくれました。
香りの進行がとても素晴らしく、最初はとてもフレッシュでグリーンな香りから始まり、だんだんとスパイシーでウッディな香りへと移り変わります。ベースにはお香、アイリス、サンダルウッドがあり、ミントは常に進化し続け、ミステリアスで神秘的です。男性にも女性にもつけられるフレグランスです。私は夏につけるのが大好きです。
ジャン=ピエール・マロワ
そんな1979年のニュー・ウェイヴが生み出す、音が導く熱狂を香りで蘇えらせていくこの香りは、機械的なビートを刻むアルデハイドに注ぎ込まれる、ペパーミントとスペアミントの予期せぬ活気に満ちたフレッシュでアロマティックな爽快感からはじまります。
ちなみに同じミントでも、ペパーミントは西洋ハッカとも呼ばれ、メントールが主要成分であり、スーッとする強い清涼感が特徴です。歯磨き粉のイメージはこちらです。一方、スペアミントはメントールはほとんど含まれておらず、主要成分はカルボンです。そのため、甘みのあるソフトな清涼感と苦みを感じます。カクテルのモヒートやスイーツに添えられるイメージです。
この二種類のミントをアルデハイドでステアし、素肌に電流が走らせるように投下してゆきます。すぐにメタリックで冷たいイリスバターが、コスメティックのように通常感じさせる色気といったものを、一切排除した、植物そのものの穏やかな生命力をクリーミーに解き放ってゆきます。
そこにスパイシーなシダーウッドが温かみを加えてゆきます。まるでミントとアイリスが、冷たく燃え上がり、あなたを凍らせていくようです。
やがて、ミルキーなサンダルウッドと香しいアンバーウッドが、宴の後を思わせる心地よい脱力感=けだるい清涼感で満たしてくれるのです。何よりもこの香りのムスクがアイリスとシダーウッドとひとつになる様が素晴らしく、最後には、あれほど無機質だった冷たいイリスバターが、素肌の上にキスの雨を降らしたようなレザリーな余韻で包み込んでくれるのが衝撃的です。
ミントの香りでありながら香りは拡散せず、とても洗練されており、女性に愛されている男性を演出してくれる親密さを演出してくれる香り。もしくは、女性との相性が良い、甘いコスメティックミントの香りです。
同じ調香師が2009年に創造したフレデリック・マルの「ゼラニウム プール ムッシュー」のゼラニウムがアイリスに入れ替えられたような香りとも言えます。私的には、この曲のようなイメージかなとも感じました。
香水データ
香水名:1979 ニューウェイヴ
原名:1979 New Wave
種類:オード・パルファム
ブランド:レバンゲルボワ
調香師:ドミニク・ロピオン
発表年:2020年
対象性別:ユニセックス
価格:30ml/19,800円、100ml/42,900円
販売代理店ホームページ:NOSE SHOP
トップノート:ペパーミント、スペアミント、アルデハイド
ミドルノート:オリス・コンクリート、ヴァージニアシダー
ラストノート:オーストラリア産サンダルウッド、ムスク、アンバーウッド