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ジェームズ・ボンド

『007/ドクター・ノオ』Vol.3|ショーン・コネリーとマオカラー

ジェームズ・ボンド
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ジェームズ・ボンドのバカンス・ルック

ジャマイカのオーチョ・リオスのラフィング・ウォーターズ・ビーチにて、ハニー・ライダーと衝撃的な出会いを果たすときのジェームズ・ボンドのファッションがすごく印象的です。

今まで、タキシードかスーツを着ていたボンドが、ここではじめてカジュアル・スタイルで登場するのですが、大人の男性のオンオフの魅せ方の絶好の教科書と言えます。あくまでもシンプルに、ストレートに、男らしさを前面に打ち出し、ワンカラーで攻めています。それでいて、大人の男のゆとりを個性と結びつけることに成功しています。

その場に相応しい〝不滅のスタイル〟を洗練させる方法を教えてくれるのが、ボンドムービーなのです。

ボンド・ガール第一号のウルスラ・アンドレスと。

リラックスしているのに、とても洗練されているリゾートルック。

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ジェームズ・ボンドのファッション6

リゾートルック
  • ライトブルー・ショートスリーブ・ポロシャツ、コットンピケ
  • 2種類のサイド・アジャスター付きのライトブルーのコットンパンツ
  • ダークブルー、キャンバス・デッキシューズ
  • ロレックス・サブマリーナー6538.ブラック・レザー・ストラップ

ボンドは安物の黒いキャンバス地のジーンズとダークネイビーシャツ、そしてエスパドリーユを身につけた。

原作の『ドクター・ノオ』(1958)より

さすが007!こういったポーズもさらりとやってのけます。

若き日のマーロン・ブランドにも見えるショーン・コネリー。

運動神経抜群のショーン・コネリー。

ジャマイカの青い空と海にマッチしている、ボンドのステルス・ファッション。

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ロレックス・サブマリーナー・オイスター・パーペチュアル6538。

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ジェームズ・ボンドのファッション7

マオカラースーツ
  • ブラウンシルクのマオカラー・ジャケット、5つボタン、ヒップポケットなし
  • 白のクルーネック・Tシャツ
  • ストーン・カラーのコットンパンツ
  • ネイビーのキャンバス地のスリッポン。クレープソール/ネイビーのキャンバス地のラバーソールのダービーの二種類

はじめてのボンドムービーから、定番となる知識・教養をひけらかす見栄張りぶりを発揮します。ドクター・ノオに出された1955年のドン・ペリニヨンに対し、「1953年もののほうがいい」と言い放つのでした。

ハニー・ライダーはチャイナ服です。

マオカラーを着るジェームズ・ボンド。

リゾートホテルのスタッフのような二人。

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意外にマッチしているマオスーツ

完全にウルスラ・アンドレスのスタイリングは失敗しています。

『ドラゴン怒りの鉄拳』のブルース・リー

『ドラゴン怒りの鉄拳』のブルース・リー

これからの時代はマオカラーの時代に突入する可能性を秘めています(あくまでも可能性)。より的確な表現をするならば、今では、ファッションとは、過去の遺産をアイテムに取り入れたものが栄光を勝ち取れる時代なのです。

マオカラーは一種のミリタリーテイストです。そこからは『ドラゴン怒りの鉄拳』のブルース・リーと、毛沢東というイメージが連想されるのですが、ジャケットとパンツを切り離してコーディネイトしてみれば、面白いかもしれません。

『ドクター・ノオ』が示すファッション黙示録ではないですが、この作品は、イギリスのサヴィル・ロウから出発したエレガンスのミサイルの着地点を中国に定めた恐ろしい作品とも言えます。

だから最後にボンドはマオカラーを着せられるのです(そして見事に着こなします)。しかし、残念なのは、ボンドガールの冴えないチャイナ服姿でした。どうせならチャイナドレスにすべきでした。もしくはせめてフラットシューズを履かせるべきでした。お土産屋で買ってきたチャイナ服をそのまま着てますという空気が漂っていました。

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マオカラー=悪役のイメージが生まれた作品

ドクターノオ・スタイル
  • サンドベージュのマオカラースーツ
  • 白のパテントレザーのローファー
  • 鋼鉄の義手を持つ男

ジョセフ・ワイズマン(1918-2009)のドクター・ノオは、物語がはじまり、1時間27分経ってはじめて登場します。それは映画史上初めてマオカラーの悪役が登場した瞬間です(元々、マックス・フォン・シドーに出演依頼が出されていたのですが、『探偵物語』の仕事が認められワイズマンが起用されました)。

以後、ブルース・リーの『燃えよドラゴン』のハンを筆頭にマオカラーを着た悪役像が創り上げられていくことになりました(スティーヴン・セガールを除く)。

これはファッションの持つ影響力を如実に示す例です。ドクター・ノオが映画の中のファッションにおける文化大革命を起こしたのでした。

さらにドクター・ノオの秘密基地などを、低予算の中、見事に作り上げたケン・アダムのプロダクト・デザインに感銘を受けたスタンリー・キューブリックは、『博士の異常な愛情』(1964)に彼を起用するのでした。

伝説の悪役ドクター・ノオを演じたジョセフ・ワイズマン。

60年代から70年代の悪役キャラクターに与えた影響は計り知れない。

『猿の惑星』のコーネリアス並みのメイクアップが施されています。

この佇まいこそボンドムービーの悪役に求められる存在感。

マオカラーを着た悪役と言えば『燃えよドラゴン』のハン。

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ファッションを通して自らを高めていく。

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1962年10月7日。プレミア。コネリーとボンドガールの一人ゼナ・マーシャル。ジャケットはマックスウェル・ヴァイン

ショーン・コネリーと三人のボンドガール。

記念すべき007第一作となるこの作品は、今から60年以上前に100万ドルの予算で作られ、60倍の利益をあげました。昔の映画を見ると、感性の幅が広がります。

たとえばこういうことです。2010年から2020年代の映画しか見慣れていない人と、1920年代から2020年代の映画を満遍なく見ている人とでは、単純に映画の知識量が多いということだけでなく、1920年代の映画を見るとき、1950年代の映画を見るとき、白黒映画を見るとき、カラーでもテクニカラーの映画を見るとき、という風に、その時代に合わせたスタンスで映画と向き合うことができるようになります。

この感覚を、感性のふり幅と呼ぶならば、後者の映画との向き合い方は、常に感性が磨かれている状態にあると言えます。スピードを重視した映画に慣れてしまうと、やがて、内容よりも映像の切り取り方にのみ敏感に反応するようになり、深みのある静かな映像を前にしてしまうと、何も感じない感性の退廃を生み出すことになります。

特に男性にとって、ベーシックなラグジュアリー・スタイルを知ることは、ファッションの基本を知る近道となります。だからこそ、新しいボンドムービーだけでなく、過去にさかのぼり、ただハイスピードの熱狂の中で、感じるだけではなく、真のジェームズ・ボンドの洗練の歴史を見る必要があるのです。

作品データ

作品名:007/ドクター・ノオ Dr. No (1962)
監督:テレンス・ヤング
衣装:テッサ・プレンダー ガスト
出演者:ショーン・コネリー/ウルスラ・アンドレス/ジョセフ・ワイズマン/ユーニス・ゲイソン