女神のようなフローイング・ガウン。
キャサリン・ヘプバーンは、撮影監督のジョセフ・ルッテンバーグ(『哀愁』(1940)『ガス燈』(1944))を気に入っていました。それは、彼のライティングは「あごの下に影をいれてくれる」からでした。その影によってキャサリンの柔らかい雰囲気が出て、同時に骨格のシャープな美しさも強調されるのです。影を含んだ端正な彼女の顔の美しさ。ルッテンバーグの照明はまるで、女優にとって仕上げの化粧のようでした。
キャサリン・ヘプバーン・ルック7 女神ルック
- 風になびくレーヨンのホワイトガウン。バックルベルトが美しく、右肩だけケープのように見える。トーガ風ラウンドネック。ワイドスリーブ。プリーツスカート
君はすばらしい女性だ。だが致命的な欠陥がある。弱さへの偏見、忍耐力のないところだ。最高の女になりたければ、人間の弱さを学べ。
デクスター
ヴェルサーチやズヘイル・ムラドのデザインに影響を与えたこの衣裳は、『スター・ウォーズ』のレイア姫の衣裳にも大いなる影響を与えています。
こんなスタイルがピタリとはまるのも、それはある意味、普段はパンツスタイルを好むキャサリンが履いていたからこそなのです。ある女性にとって短いスカートが心地良いように、彼女にとってはロングパンツが心地良いから履いているという感覚。ただ近くにあるファスト・ファッションで満足しているという感覚とはまた違う、色々知った上で、「これが好き」と言えるオンナの格好良さ。キャサリン・ヘプバーンの格好良さは、自分のスタイルを持っている格好良さなのです。決して流行にとらわれないスタイルであることが、彼女のスタイルなのです。
つまりはヴォーグやハーパース・バザーからは程遠い存在だからこそ、彼女はファッション・アイコンなのです。
コメディだからこそ素晴らしい衣装が必要とされる。
MGMは、『フィラデルフィア物語』の映画化権を手に入れたとき、この劇の舞台公演を録音した。観客がどこで笑うかを確認するためにね。映画が出来上がってから、映画とこの録音テープを比べてみたところ、笑いの箇所は全然一致しなかった。舞台の場合、笑いはすべてフィリップ・バリーの機知に富んだセリフから生み出されていた。それに対して映画では、笑いをよぶものの多くはことばを伴わない見た目のギャグ、リアクションのおもしろさ、ちょっとした仕草や動作といったものだった。だから私は、映画における笑いとは予め計算するものではなく、生じるにまかせるべきものだと信じている。
ジョージ・キューカー
キャサリン・ヘプバーン・ルック8 ウエディング・ルック
- 白のオーガンザワンピースとコルセット。シンプルなウエディングドレス。ラッフル・カフス。日本の帯スタイルのベルト
- フロッピーハットにあごリボン
この作品で、彼女は成長し、演技も上達した。でもそれは彼女が本来の力に気づいただけ。
ジョージ・キューカー
本作のコスチュームを担当したのは『グランドホテル』(1932)『オズの魔法使い』(1939)『哀愁』(1940)のエイドリアン・アドルフ・グリーンバーグ(1903-59)でした。本作がキャサリン・ヘプバーンにとってエイドリアンとの初仕事になり、彼女は「わたしのセンスとすごく合った」と絶賛しました。エイドリアンこそが、映画と衣裳の関係の重要性に気づいた第一人者だったのです。
ヘアスタイリストは、1956年のグレース・ケリーのロイヤルウェディングにおいても指名されたシドニー・ギラロフ。1930年ルイーズ・ブルックスのボブカットを創造した人です。