フルール ド ランジェ(オレンジの花)
原名:Fleurs d’Oranger
種類:オード・パルファム
ブランド:セルジュ・ルタンス
調香師:クリストファー・シェルドレイク
発表年:1995年
対象性別:ユニセックス
価格:50ml/19,800円、100ml/30,140円
公式ホームページ:セルジュ・ルタンス
セルジュ・ルタンスが、モロッコで遭遇した〝オレンジの花〟
太陽に照らされ、そよ風に吹かれ、オレンジの花が咲き誇る。その風景、その豊かさがそのままひとつの香りとして結実した一瓶。
あたたかみ、まぶしさ、新鮮な生命感、風の動き…すべてがつけるひとの周りで豊潤に立ち上る。
公式ホームページより
セルジュ・ルタンスより、1995年に誕生した「フルール ド ランジェ」は、フランス語で〝オレンジの花〟の意味です(一部2003年という記載がありますが、正しくは1995年です)。
この香りは、2018年3月21日に「コレクションノワール」の中に組み込まれました。ホワイトフローラルの香りは、クリストファー・シェルドレイクにより調香されました。
1968年に、セルジュ・ルタンスがはじめてモロッコを訪れたとき、最初は10日間だけ滞在する予定でした。しかし、かの地は、パリの都会のグレーの世界に疲れ切っていたセルジュの心を魅了し、結局3ヵ月滞在することになりました。
何よりもこの時に彼に強烈な印象を与えたのはオレンジ・ブロッサム(オレンジの花)の香りでした。女性たちがオレンジの木を棒で叩き、絹のように滑らかで太陽の光を浴びた花を、純白のシーツで受け止めている光景は、視覚的にも嗅覚的にも衝撃的なものでした。
そして、セルジュは確信したのでした。「間違いなくこのオレンジ・ブロッサムの香りこそが、幸福の香りだ」と。そんな〝オレンジの花〟の活き活きとした匂いをボトルの中に大切にしまい込んだ香りです(そして、ルタンスはモロッコに永住するようになります)。
ちなみに〝オレンジの花〟=オレンジ・ブロッサムは、モロッコでどの家庭においてもビターオレンジのフラワーウォーターが手作りされるほど、生活に密着した花です。
隙なく官能的であり、だんだん夢中にさせる香り
私たちの中に本来あるものが、この香りのひと吹きでその心に響き渡るように、ビターオレンジの花から抽出された天然香料に、シベットを加えました。
セルジュ・ルタンス
太陽が傾き、モロッコの街並みが、オレンジ色になる時、オレンジ・ブロッサムは、ひときわ強くフレッシュに明るく花蜜の香りを放ちはじめます。太陽に甘やかされたオレンジ・ブロッサムが、太陽との別れを惜しんでいるようです。
ビターオレンジの皮と果肉を感じさせる苦味とジューシーさも感じさせるオレンジ・ブロッサムの香りに、スパイシーなクミンとナツメグがブレンドされ、スモーキーなきらめきを加えてゆきます。そして、すぐに、スパイスに導かれるように、ジャスミンとクリーミーなチューベローズの花蜜も目を覚ましてゆくのです。
まさに白い花々が黄金色に輝いているようです。そんな美しくも甘い花々の香りみちびかれ、温かな陽気に心安らぐ中、不意にシベットが降り注ぐのです。
オレンジ・ブロッサムの香りの中で、嗅いだ瞬間から心地良い香りのするものは得てして飽きがきやすいものです。しかし、この「フルール ド ランジェ」は、スパイスと花の蜜が肌の上で、濃厚なオレンジ・ブロッサムに、〝愛と憎しみ〟を惜しげなく注ぎ込むように現れ、その大胆さを肌が受け止めていくように香り立つのです。
やがてドライダウンと共に、ジャスミンはインドールを解き放ち、その荒ぶる心を鎮めるようにうっとりするようなローズウォーターが、ムスクとシダーウッドに包まれながら舞い降ちるのです。
清らかなのか、汚らわしいのか捉えどころのないこの香りは、いつの間にか心に入り込んでくる魅惑の人のようです。隙なく官能的であり、だんだん夢中にさせる香り。でありながら、最初からただものならぬ存在感と爽やかさを兼ね備えた〝恐るべきオレンジの花の香り〟です。
ひとつたとえるならば、オレンジフローラルウォーターで浸したお風呂から上がった女性のうなじから首筋、デコルテラインにかけて滴り落ちる汗の香りなのです。
タニア・サンチェスは『世界香水ガイド』で、「フルール ド ランジェ」を「薬草風ジャスミン」と呼び、「セルジュ・ルタンスは、何よりもオレンジの花の、薬草とインドールのような香りを強くした。私がせきをすると母がよく飲ませてくれた、黒くて糖蜜のようなビワのシロップを思い出す。」
「ぴりっとする汗のようなクミンのタッチが全体を息苦しく乱しているようだ。東南アジアのどこかの町で、よどんだ路地から吐き出されたみたい。肌にのせると、最後は軽いジャスミンの残香に落ち着く。」と3つ星(5段階評価)の評価をつけています。
アニック・グタールとセルジュ・ルタンス
カイエデモードが崇拝しているフレグランス・スペシャリストの御方が、長年愛用されているこの香りについてお言葉を頂きました。以下、彼女の言葉となります。
私は「フルール ド ランジェ」から、一面に白い花が咲き誇るお花畑と、穏やかな太陽の風景を連想します。それは一見アニック・グタールにもありそうな可愛らしい乙女な香りの世界観なのですが、どこか《闇》というか《影》というか《毒》というか、そんなものを感じさせるのがルタンスの香りなのです。
例えば上のオードリー・ヘプバーンのお写真がアニックの「純白の花」のイメージする女性像だとしたら、下のファッション・フォトこそがルタンスの「純白の花」をイメージする女性像なんです。
それにしてもオレンジ・ブロッサムは興味深いお花です。私はこの香りの特徴をお伝えするときに「ねっとりした甘い香り」という表現をよくするのですが、なぜ調香師たちはこぞってその純白の花を様々に解釈して表現するのだろうといつも考えます。まるで蜜を求める蜂のようですよね。調香師それぞれによって様々な形で捉えることが出来る多面性のある花なのかなと思っています。
ちなみに、私がセルジュ・ルタンスの香りに興味が生まれた時、この香りがすぐに好きになった香りではありませんでした。存在は知っていたのですが、特別好きになる香りでもなくという存在でした。
しかし、偶然私の中でオレンジ・ブロッサムという花に興味を持ち始めた時に、この香りと再会する機会があってもう一度試した時に、こんな香りだったんだと改めて良さに気付いたのでした。
ルイ・ヴィトンのオレンジ・ブロッサムの香りとの比較
ルイ・ヴィトンのオレンジ・ブロッサムと言えば「コントロモワ」と「ステラー タイムズ」です。
「コントロモワ」を最初に嗅いだ時、素敵なオレンジ・ブロッサムの香りだなと思ったのですが、よりオレンジ・ブロッサムの美しい魅力を感じられるのが「ステラー タイムズ」だと思います。白夜のように〝白い世界〟を描くためにジャック・キャヴァリエが選んだオレンジ・ブロッサム。
〝オレンジ〟と付くのでオレンジ色だと思う方が多いのですが、オレンジ・ブロッサム=純白の花(オレンジの木に咲く花)なのです。真っ白だけど「アポジェ」のようなただただ清らかで繊細で奥ゆかしいというだけではなく、どこか堂々としていて風に吹かれてもなおしなかやで…そんな印象を受けるのが「ステラー タイムズ」です。オレンジ・ブロッサムにホワイト・アンバーが在るからなのでしょう。
自然の中のオレンジ・ブロッサムの香りは、とても暖かくて穏やかで、いつも陽光を感じさせます。「ステラー タイムズ」にはまさにその感覚そのものなのです。しかし「フルール ド ランジェ」には陽光というよりも、人の目(まとわりつくような羨望の眼差し)のようなものを感じます。
香水データ
香水名:フルール ド ランジェ(オレンジの花)
原名:Fleurs d’Oranger
種類:オード・パルファム
ブランド:セルジュ・ルタンス
調香師:クリストファー・シェルドレイク
発表年:1995年
対象性別:ユニセックス
価格:50ml/19,800円、100ml/30,140円
公式ホームページ:セルジュ・ルタンス
シングルノート:ジャスミン、オレンジ・ブロッサム、ホワイトローズ、インド産チューベローズ、ハイビスカス、ナツメグ、キャラウェイ、クミン、シベット