中年女性のためのリトル・ブラック・ドレス
エリザベス・ルック14 リトル・ブラック・ドレス
- デザイナー:ユベール・ド・ジバンシィ
- リトル・ブラック・ドレス、スパゲッティ・ストラップ、スパンコールとビーズとレース、ジバンシィ1978/79AW
- ブラックテーラードジャケット、スタンドカラー、サテンにベルベットがトリムされた、ボタンはラインストーン、ジバンシィ1978/79AW
- 黒パンスト
- レネ・マンシーニのブラックハイヒールパンプス
- ブラックヴェール
- ブルガリの三連パールネックレス
私の知っている人で年齢を持たなかったのは、オードリーとケイリー・グラントの二人だけである。
ラルフ・ローレン
1926年、ココ・シャネルによって脚光を浴びたリトル・ブラック・ドレスは、喪服カラーだったブラックをモードカラーへと昇華させました。そして、1961年の『ティファニーで朝食を』において、ユベール・ド・ジバンシィとオードリーによって『LBDの復権』がなされたのでした。そんなファッションの歴史の大きな流れを築いてきた二人が、約20年後のLBDを提案したのがこのドレスです。
円熟期の女性のためのリトル・ブラック・ドレス。それは未亡人の喪服のような要素も含んだ、禁断の暗号を呼び覚ます意図も込めた〝中年女性のシングル宣言〟としてのLBDスタイルなのでした。
イヴ・サンローランを着たロミー・シュナイダー
ロミー・シュナイダーのオール・ホワイト・ルック
- デザイン:イヴ・サンローラン
- 白のシルクブラウス、シェルドット、ボウタイ、ベルスリーブ、サイドボタン
- ベージュのタイトスカート
- ゴールド・ベルト
- ゴールドリングブレスレット
- リングイヤリング
本作において、全体的に野暮ったいファッションに身を包んでいた残念なロミー・シュナイダー(1938-1982)が、イヴ・サンローランのデザインによるこのファッションの時だけは本来の輝きに満ち溢れていました。本作の3年後に死を迎えることになるロミー。彼女の晩年は、栄光と悲劇が同時にやってきたようなものでした。
ロミーの生涯は1981年7月5日に終わったと言っても過言ではありません。その日、14歳の愛息ダーヴィットが、留守中の祖父母の家の門の塀を乗り越えようとして足を滑らせ、鋼鉄の柵の上に落ち、その尖りが矢のように下腹部に刺さり死亡したのでした。その時、狂乱状態のロミーに変わって、ダーヴィットの葬儀の手配をしたのは、かつての恋人アラン・ドロンでした。1968年に、映画界へのカムバックのために一役買ってくれたのも、そして、1982年にロミー自身が急死した時に、葬儀の手配をしてくれたのもアラン・ドロンでした。
ロミー・シュナイダーという女優の持つ唯一無二の魅力が、アラン・ドロンの男気を刺激したのでした。このシーンのロミーには、それだけの存在感を感じ取ることが出来ます。
コートの緩やかなドレープと共に歩く
エリザベス・ルック15 ウールコート
- デザイナー:ユベール・ド・ジバンシィ
- ベージュのウール・ラップコート、ボタンなし、サッシュつき、ジバンシィ79SS
- ブラウンポーチ、ジバンシィ・ ヌーベル・ブティック1978/79AW
パリとオードリーとコート。それさえあれば一つの映画は出来上がる。それは、『赤い疑惑』の中の岸恵子のようなものです。
中年女性の魅力とは、その寂しげな背中にあります。そして、それを演出する絶好の道具が、コートなのです。コートとは、増えたしわの数だけ、そのドレープの優雅さを味方につけることができるのです。若い女性が着るコートは、コートのドレープにその歩みが追いついていない感があります。一方、上質なコートのドレープではなく、安価なコートのしわを引きずりながら歩く中年女性は、老いの醜さを発散して歩いているも同然です。
コートとは、女性の色気をドレープで伝えるアイテムなのです。そして、オードリーとジバンシィは、それをよく知る人達でした。だからこそ、二人の映画には沢山の魅力的なコートが出現してきたのでした。